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ただ、やさしく弾こう、と。

部屋に入ってきたら、まず、今日のハンコを押す。
というのをやくそくにしているのですが、
そんなことはお構いなく、
ドアをあけてはいってくると、もう、もどかしい様子で、
さっさとピアノの前に座り、ハノンを弾き始めたのは、
4年生の男子。

いつも、その週一番思い入れて練習してきた曲があるとき
かれはいつもこんな感じで、ピアノを弾き始めます。

にしても、ハノン!
なにゆえに。

弾き始めて、私もだんだんに気がついてきました。
先週までと全然ちがう。
これは確かに、うれしいだろう。

ラッパ手で、暴れがちな彼の演奏は
その、ピアノが好きで、よく理解している心とはちぐはぐで
いつも乱暴にさえ聞こえてしまいます。

でも、
そのハノンは、なめらかで、優しく
指先が整っていて、
そしてミスもなく弾き終わって、
私の返答を待つように、まっすぐにこちらをみてきます。

「そか、これまで、指先に集中してやってみ、
って言ったのが成果でてきたんやね。」

というと

「いや」
と彼。

「ただ、よくきいてやさしく、やさしく、って練習した。」

あ、
そっちやったんや。心に残ってたの。
かなわんな。

・・・・

指先に集中して、というのは状態へのアプローチ
そういう指導も必要な時もあります。
でも、そういうときも、
かならず、「よくきいて」と音を聞いて判断するように
促します。
決して形だけで改善しようとしないように。
音が聞こえてきたら、音が教えてくれます。

ラッパ手も、道具を使ったりして矯正することはありません。
何より本人の気づきが大事と考えているからです。
聴覚と、理解と、身体のつながりが大事で、それは
音楽にとどまらず、その人本人として。
その人が使い勝手の良い、そして心とつながるテクニックを身につけることが
できたら一番良い。

そうして、彼は
「ただやさしく」
耳を澄ませて、練習したんでしょう。
きっといい時間だったことだろうと思います。

それをおしえてくれて、ありがとう!

愛媛の片田舎でがんばってます。いつかまた、東京やどこかの街でワークショップできる日のために、とっておきます。その日が楽しみです!