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音の雨

子どもを産んでから2年ほど、忙殺されていた。子どもは雑音に敏感なタイプで、一切の生活音を嫌った。蛇口から流れる水音も、炊飯器のメロディも、子どもにとってはノイズだったようで、音がする度悲壮に泣く子にわたしは困惑して生きた。テレビを無音でつけ、雨戸を閉めて密室の長い時間を過ごした。

乳児検診で幾度も相談した。周りの子どもたちの声にパニックを起こして泣く子を見た保健師には、「大丈夫よ、お母さんが気にしすぎなのよ」と諭された。音楽も聴けない日々が続いた。家電のサイトを見ては「音の出ない炊飯器」を探した。一日の大半は音に起因するギャン泣きをあやすことで消えていった。

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