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11月26日 大阪公立大学・藤井研究室 訪問

東京大学Diligentです!
今回は、大阪公立大学・藤井研究室 訪問の様子を報告をさせていただきます。

11月26日に行われた神戸・理化学研究所研修の後、東京大学宇宙線研究所・荻尾教授のご紹介により、大阪市立大学の藤井俊博先生のもとへ伺う機会を設けていただきました。

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それでは、本編に入ります。

「アマテラス粒子」の発見

藤井先生は11月末に世間を賑わせた「アマテラス粒子」の第一発見者で、その発見を伝える記事がプレスリリースされた3日後という絶妙なタイミングでお話をお聞きすることができました。

↓今回のアマテラス粒子については各社記事にて詳細が伝えられています。

今回の発見は、日米韓露ら国際研究グループが2008年より米ユタ州にて観測を開始した「テレスコープアレイ実験」の成果でした。藤井先生は同プロジェクトにおいて、研究データを整理して各国の研究者がアクセスしやすいように処理をするという仕事を担当されていたそう。そして、データの列を眺めているところに以上な数値が記録されているのを発見したと言います。初めはデータの誤りを疑ったそうですが、複数地点での観測結果からデータに間違いはないことが明らかになるにつけ、急いで論文執筆に取り掛かったそうです。1991年からのテレスコープアレイ実験観測開始以来最大のエネルギーを持つ宇宙線のデータを発見した時のエピソードは、とても臨場感がありました。

米ユタ州の実験施設に、
「空気シャワー」検出器が、四方1.2km間隔で配置されている。
(出典:Telescope Array Project)


研究内容をアウトリーチするということ

また、実際に記者会見で用いたスライドを見せながら、今回藤井先生の発見を広く一般に向けて伝える際に感じたことについてもお話しいただきました。記事を書く記者さんの中には、科学的に正確な報道を行うことを重視する人と、記事に注目を集めてより多くのひとに報道を届けることを重視する人がいることは想像に難くないでしょう。そんな中で、科学的な正しさを損なわずに今回の発見をいかに面白く伝えるかにについて工夫したと、藤井先生は仰っていました。アマテラス粒子がいかに大きなエネルギーを持つ宇宙線であるかを伝えるために「わずか1gで地球を破壊する」という文言が使われている記事もありましたが、この表現は実際に藤井先生が考案されたそうです。ちなみに、1時間と少しの訪問の間にも藤井先生の元には取材の電話があり、今回の研究チームの発見が世界的に話題になっていることをひしひしと感じました。

宇宙線研究の面白さをもっと広めたい

藤井先生は、宇宙線研究者として今後周辺分野の方々とも共同研究を進めていきたいと語りました。

宇宙線研究の関連分野というと、どんなことを思い浮かべるでしょうか。
太陽フレアが活発化すると地球上の電子機器に大規模な障害を起こすことは知っている人も多いかもしれません。近年では宇宙線が太陽活動のリズムと合わせて地球の気候変動に周期的な影響を与えている可能性なども指摘されており、その重要性は今後ますます認知されていくのではないでしょうか。

筆者は生物化学を専攻していますが、私が知っている範囲内でも宇宙線と生物の関係性を巡っては興味深い研究がいくつかあります。
例えば、生物学で謎とされている問題の一つに「生体内で利用されるアミノ酸がL体のみである」というものがありますが、宇宙線の偏光性を考慮して計算機シミュレーションを行った結果、このメカニズムに説明が与えられるという研究結果が2023年付で筑波大学の研究チームより出されています。
また、これまで宇宙に滞在した宇宙飛行士の多くが宇宙船内において「アイフラッシュ」と呼ばれる閃光を見る現象を経験したと報告をしているのですが、これは宇宙空間を飛び交う高エネルギーの宇宙線の主成分である陽子線などが引き起こす化学発光により視細胞中のロドプシンが反応するためではないかと言われいます。一方、医療目的で陽子線照射治療が行われる際にも、頭部に陽子線を照射された患者が視覚・嗅覚・聴覚・嗅覚の異常を生じることが知られています。そのため、陽子線により脳内のニューロンが直接刺激を受けているのではないか、という指摘もなされています。

ここでは二つほど例を挙げさせていただきましたが、

「今後はAstrochemistryやAstrobiologyなど、周辺分野との共同研究も進めていきたい」

という藤井先生の言葉は今後の宇宙線研究シーンの流行を予感させるような感じがして、同分野にロマンを感じる一学生としては非常に胸が高鳴りました。

歴史に学ぶ

研究室訪問の最後には、藤井先生が現在読まれている本を紹介していただきました。それは、『荒勝文策と原子核物理学の黎明』政池明・著(京都大学学術出版会)という本です。実は、戦時日本でも核開発が行われていたのですが、この本では荒勝文策をはじめとする日本の原子核物理学者たちがなぜ苦渋の決断の上に陸海軍との協力を了解し核開発に従事したのか、についてのエピソードが丹念に綴られているそうです。

藤井先生に紹介いただいた書籍:
『荒勝文策と原子核物理学の黎明』政池明・著(京都大学学術出版会)

歴史的に見て、原子物理学などの素粒子研究は宇宙線の観測から始まったという経緯もありますが、その技術が人類社会に与えるインパクトはとてつもないものであるために政治が関心を寄せるところでもありました。そうした事情は核融合に注目が集まる現代においても変わらないと思いますが、科学者たちが人類の歴史にいかに関わりを持ってきたのかを知り、その功罪に学ぶことはとても重要なことでしょう。

現代の宇宙線研究の第一線で活躍される藤井先生からこのような書籍を紹介していただいたことは、私にとって非常に印象的でありました。


さて、ここまでnoteをお読みいただいた皆さん、ありがとうございます。
今回私たちが藤井俊博先生の研究室を訪問して得た学びが皆さんにも共有できていれば幸いです。

また弊団体についても興味を持たれた方は、ぜひnote冒頭のリンクより詳細をご覧ください。

文責・神野

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