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そのストーリーに君は

「どんなモノにも、ストーリーがあると思うんだ」、と友人は言った。

彼女とは、ずっと若い頃に知り合った。
何かの話をしていたとき、彼女が、冒頭の言葉を言った。
仕事で他人の家を訪れる機会が多かった彼女は、その家にある写真ひとつ、カップ一つに、必ずその人だけの物語がある、という話をしてくれて、その話を聞いて、出会った頃からずっと、彼女がモノを大切に買ったり使ったりする理由を、ほんの少し垣間見た気がした。

私はこれまで、モノに執着しなかった。
大切にすることと執着することは違うけれど、私にとって持たないということは、大切にしていないわけではなく、ただ、執着しない、ということだった。
渡英する時、震災後ということもあり、家電も家具も全て、沿岸から盛岡に転居してきた見知らぬ家族に譲った。
ロンドンでも、スーツケース一つ以上にモノが増えることはなかった。帰国する時も、スーツケースのほかには、船便の段ボール箱一つだった。
今も、引っ越しが近づけばどんどんモノを捨てる。
頭の中も目に見える範囲も、あるモノを減らさないと、いつも脳が疲れてしまう。

それでも捨てられないものはいくつかあった。
留学時代に初めてマーケットで買ったハンドメイド、帰国直前、一人で行った冬のヘルシンキで買ったmarimekko、格安バスのイギリス国内旅行で買ったスカーフや雑貨たち、旅行中、服が足りなくなって現地で買い足したZaraのワンピース。
なんだか捨てられないまま、長らく仕舞い込んでいた箱を開けてみたら、彼女の言う通り、そこにはストーリーがあった。
ハンドメイドのリボンを売っていたアジア人に、「Japanese?」と聞いたけれど違ったこと。(でもやっぱり日本人だったと思う)
冬のフィンランドはとても寒くて、耳も頭皮も凍りそうだったから、現地で帽子を買ってmarimekkoまで行ったこと。
イギリス国内を走る3ポンドの格安バス。現地に行く道中もアトラクションのように激しい運転が時々あって、笑いが止まらなかったこと。
衣類調達にと軽い気持ちで訪れたエストニアのZaraでは、日本には入っていない商品に大興奮し、女3人でただ楽しい買い物をしたこと。
あまりにストーリーが鮮明で捨てることはできない、でももう使わないものだからどうしようかと思っていた時、別の友人が出展するイベントで、一緒に売ることにした。

モノをつくったり売ったりする友人達。
私にはない才能だと思っていたけど、私はずっと前から知っていたのかもしれない、一つのモノに纏わる、そのストーリーの尊さを。
まだ肌寒い春の日、彼女が何気なく発した言葉は、少しの時間を経て、私の今につながった。
持っているモノにも、つくったモノにもある、それぞれの、あなただけのストーリー。
Each is defferent,each is the best
私の手は何かを生み出したりはしないけれど、見たものや感じたものを言葉にすることが好きだから、一つひとつ輝くそれらをつなげて、こうして紡いでいけたらいいなと思う。

出展したイベントはというと、雨模様ではあったけどとても楽しくて、またやりたいと思った。
その日、いつも一緒にご飯を食べたり遊ぶ友達が働く姿を見て思ったことも、Each is defferent,each is the best、意訳すると、その友人がひらいた店のコンセプトと同じだったからとっても驚いて、少ししてから英文にしてそのこに送った。
どうしても紡ぎたくなるような一つひとつ輝くものは、探しに行かなくても、いつも私にこうして与えられるんだ。

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