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『Pokémon Concierge』は現代労働者に向けたユートピア文学

 Netflixと株式会社ポケモンが共同制作したストップモーション・アニメーション『Pokémon Concierge』を見た。『キウイブラザーズ』や『リラックマとカオルさん』を手掛けたドワーフ・スタジオが制作しており、クレイやコットンで作られたポケモンたちや島の自然が本当に素敵で温かみを感じる。作品のストーリーや雰囲気も暖かく、緩やかな気持ちにさせてくれる。しかし、私はこの作品は僕たち現代人に理想の働き方を問うているような、少し真面目な作品にも見えたのだ。


現代の労働者の悩みを抱えた主人公

 まず、本作の主人公ハルは、元デスクワークのサラリーマンで、仕事もプライベートも上手くいかず、少しどうしようもなくなった気持ちから、ポケモンリゾートで働くことを志す。ハルは間違いなく現代の忙しさ疲れを引き起こしていて、朝目が覚めた時「今日は、早く起きて、朝ごはん食べて、髪を巻いて、化粧をして、電車に乗って、メールをチェック…しなくてもいいんだ!」と思ってしまうほどである。ポケモンリゾートに来たばかりのハルの社会に揉まれた姿に、自分を重ねた視聴者も多かったのではないだろうか。

働き方の哲学1「自由であること(ルールがないこと)」

 本作は、理想の生き方・働き方の一つのアイデアを提示しているように思う。そのアイデアの根本にあるのは「自由」だ。ポケモンリゾートのコンシェルジュのルールは一つだけ、首にコンシェルジュのマークのスカーフを巻いておくことだけである。それ以外は自分の思うように動いていい。以前の生活のスタイルや働き方との違いから、ハルは最初は戸惑うものの、すぐにこのスタイルはハルに良い影響を促す。
 おそらく、このコンシェルジュ業には決まった業務時間もないのだろう。朝は何時に起きてもいい。しかしハルはいつもより早く目が覚める。「やらなくっちゃいけないことがないと、なんか逆に早く起きちゃうんだよね」この、ハルの一言にはハッとさせられてしまった。働いている私たちは朝起きると同時に一日のスケジュールを頭でざっと思い描き、それを達成するための一日の労働を想像し、げんなりしてそこから逃避をするように二度寝をしてしまう(人も多いだろう)。しかし、もし日々のうんざりとしたタスクがなければ、小学生の頃の土日のように、ワクワクした気持ちとともに朝を迎えられるのかもしれない。決まったタスクがないポケモンコンシェルジュの働き方は、心に余裕を与えてくれる。

働き方の哲学2「自分のできること・得意なことで人を助けること」

 ポケモンコンシェルジュの働き方のもう一つの哲学が「自分のできること・得意なことで人を助ける」ということだ。コンシェルジュの上司のワタナベから、「ポケモンをハルさんと同じ気持ちにしてみて」とタスクを依頼されるが、その手段は何も指定されない。ハルは周りに助けを求めながらも「自分ができることでやってみるしかない」と思い直し、コダックとの距離を詰めていく。
 ポケモンリゾートの他のコンシェルジュも皆同じ働き方をしている。それは、自分が得意なことで人を助けることが、自分にとっても相手にとっても良い結果をもたらすという考えに基づいてるものかもしれない。タイラは清掃員と言いながらも、ヨガ教室や料理作りで周囲を元気にしている。タイラが料理をする姿は、スパイスを嗅ぎながらくぅ~というようなリアクションをしていたりで本当に楽しそうだし、その結果できる料理はみんなが認める美味しさである。(チェーンソーマンでパワー役をやっていたファイルーズあいが声優を務める)アリサは「絵なんて誰でも描けるでしょ」と言って、テントにアーティスティックなデザインを施す。
 「自分のできること・得意なことで人を助ける」ことは、その人が自分らしく無理をせずに働ける方法であるとともに、周囲を喜ばすことができる最良の働き方だと、『Pokémon Concierge』は訴えているような気がしている。

現代の労働者へ贈るユートピア文学

 『Pokémon Concierge』は理想の働き方を現代人に提案するアニメーションとも捉えらえる。その提案とは、「自由であること(ルールがないこと)」と「自分のできること・得意なことで人を助けること」であり、まさにこの2つが出来ていないことが、現代の働く人が抱えているモヤモヤを生んでいるのではないだろうか。この作品は、決して子供向けのアニメではなく、働き疲れた現代の大人たちに贈るユートピア文学なのだ。

 (ちなみに、働き方の哲学うんぬんは置いておいてポケモンたちが本当に可愛いから是非見てほしい。第三話のコイキングが浮き輪を取られて涙を目に浮かべているシーンが最高に愛らしかった。)


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