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イフェイオン 物悲しい星の花 [その3]




大きな事件

呼吸がしづらい。
その場の空気が張り詰めていた。

一日オフを終えた次の週、少年はいつものようにグラウンドに向かった。
不穏な空気がグラウンドに漂い、少年はこの状況の理由を知ることになる。

とある中学校からクレームの連絡がきていた。
「他校の学生によって、花壇が荒らされた」と。

正確な人数はわからないが、一日オフの日、フジの提案によって5人以上のメンバーが集まった。
そこで彼らは、中学校の校舎内に入り、花壇を荒らしたというのだ。

なんだかスリリングなことをして、楽しくなってしまったんだろうか。
毎週のキツい練習のフラストレーションが溜まっていたのだろうか。
何一つわからないが、魔が差したのである。

フジを含めた5人以上のメンバーは、ひどく説教を受けた。

ただでさえ、「野球をやる以前に人として成長しろ」と口酸っぱく言う監督だったため、しばらく練習などさせるはずもない。

当然、保護者にもその情報が渡り、実質上の謹慎処分を受けた。彼らは事の重大さを痛感した。
今回のことはあまりに被害影響が大きく、クラブチーム内で解決できる話ではなかった。

その日、"行かない"という選択をした10数名は、問題を起こしたメンバー抜きで引き続き練習をすることになった。



それから数ヶ月が経ったころ、事件の加害者になったメンバーの中でチームを去る者が現れ始めた。
そして、一人、また一人とメンバーがいなくなっていった。

誰か一人が拍手をし始めると、つられて全員が拍手をするように、立て続けに辞める者が出た。

しかし、事のきっかけを作ってしまったフジは"辞めない"という道を選んだ。
辞めたほうがきっと楽になれる。
彼は茨の道だとしても、続けることを選んだ。


そんな中、ヤスは迷っていた。
フジとはめっぽう仲が良く、やんちゃな奴で、少年ともアニメや漫画の話が合うチームメイトだった。

ヤス自身も、ヤスの両親も、
このままチームにいたら迷惑がかかるのではないか?
という想いが強くなっていた。

時を同じくして入ったメンバーが次々と辞め、ヤスが今にも辞めようとしている。少年は思った。

「ヤスはチームに必要だ。辞めるべきではない。」

他の辞めていったメンバーが必要じゃなかったわけではない。相談する暇もなく辞めていってしまったのだ。

だが、ヤスは違う。まだ間に合う。

どうにか引き留める方法はないのか?
少年は父にも相談し、

「曲を送るのはどうだろう?」

そんな父の提案に、少年はあるアーティストを思い出した。"ケツメイシ"である。

少年の兄がよく聞いていたアーティストであり、父の車に乗るときは必ず流れていた。

そして、既出曲の中でピッタリの曲があった。
もうこの曲以外ないだろう、そう思える曲だった。

『仲間』という曲だ。

別に怒ってなんかないよ
ただお前の諦めた姿がキライなだけ
下を向いてないでガンバレよ
結果より気持ちだろ俺らに必要なのは

少年の伝えたい想いを、少年が伝えるよりもより強く伝えてくれる気がした。

父親と話し、「これを送ろう。」と決めた。
翌日、この曲のCDを買い、ヤスの家へと送った。





以前にも増して、練習は過酷さを極めていた。
夏には、暑さ対策としてグランドコートを羽織り、数時間にも及ぶサーキットトレーニング。
冬には朝から終わりの見えないラントレ。

正直、ここよりも厳しい世界があるのか?と思えるほどにキツかった。
だが、毎週ギリギリのところで堪え、耐えていた。

それを分かち合い、支え合える仲間がいるからだ。

あの事件以来、フジは変わらずチームに残り、キツい練習に文句を垂れながらも続けている。
そして、その隣にはヤスもいた。

相変わらずやんちゃをして怒られているが、その目にはもう迷いはない。

あの日、少年が送ったCDは無事にヤスの自宅へ届き、家族で聴いてくれたという。
それを聴いたヤスとその両親がどう感じたのか、ここで言うのは野暮というものだ。

決して許されることではなかったが、しっかりと過ちを認め、受け止め、変われたのであればそれでいい。
反省した後は、また立ち上がればいいのだ。
少年が偶然見つけた一曲は、一人のチームメイトの心を確実に変えたのだ。
音楽の力の凄さを少年は子供ながらに感じた。


練習へと戻る少年。
そんな少年のもとへ、ある推薦状が届いていた。

>>>その4へ続く(ラスト)


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