【詩】雨宿りの間だけ
きっかけはささいなことだった
誰にも言えない秘密を共有しただけだった
誰にも言えないのなら言わなくていい
誰かに言えば誰にも言えない秘密じゃなくなる
それでもあの時
なのにあっさりと
どうしてかあなたに
話してしまった
急に訪れた雷
先ぶれの冷たい風
気づいたら空は真っ暗
慌てて飛び込んだ廃ビル
思った以上にひとがいる
雨と雷に追い立てられて
やってきたひとたち
埃っぽく
仄暗く
雨と雷の音
夏の肝試しを思い出す
だからかもしれない
いつもとは違うからかもしれない
そして君が知らないひとだったからかも
雨宿りの間だけ
誰にも言えない秘密を話した
雨の音
雷の騒がしさ
ひとの不安そうな声
ぜんぶ雨宿りの間だけ
急に訪れた雷は遠くへいってしまう
急にやってきた雨は短い間に去ってしまう
太陽が顔を出せば秘密の話は終わる
雲が切れれば口数も少なくなる
現実に目覚めれば
お互い見知らぬひとになる
太陽の明かりが廃ビルを照らす
その前に素早く君は口を開いた
「今度は私の秘密を聞いてね。次の雨宿りのときに」
お互いの名前を知らない
お互いの顔も覚えていないだろう
連絡先を交換しようとも言わない
それなのに僕らはうなづいて
そのまま別れた
僕は廃ビルを出て左に
君は廃ビルを出て右に
しばらく歩いてふり返る
君の姿はどこにもない
君の後姿が見えても良さそうなのに
きれいさっぱり消えていた
ただ、小さな虹の橋だけが架かっていた
君がいた場所に
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