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腱板断裂に再生医療・・・のヤバさ(整形外科医のつぶやき)

Xで多くの専門家のみなさまに論文の情報提供いただきました!ありがとうございます!教えていただいた論文を中心に解説していきます。基本的に現状は肩に再生医療は「お金と時間の無駄」になる可能性が高いと思っていますが、でも、できるだけ、肯定的な視点で研究を見て、可能性を探るというスタンスでいきます!みなさまのご経験、ご意見もぜひ教えてください。
まず、雑な分類で恐縮ですが再生医療には主に2種類あると認識しています。

  • PRP注射

  • 幹細胞系注射

前者のほうが費用は抑えられ、後者は100万円を超えることも珍しくない高額治療です。いろんな論文を教えていただきましたが、PRPの研究が圧倒的に多いですね。それゆえ、エビデンスも揃ってきている印象です。
PRP注射の結論としては、腱板部分断裂と腱板炎に対しては短期的にはステロイドより効果的かもしれないということです。この効果的というのは「痛みや機能の改善」であり、部分断裂が修復するという意味ではありません(*1,*2,*3)
経験的に腱板損傷に対するステロイド注射の鎮痛効果は短期的にはかなり大きいと感じていたので、PRP・・・なかなかやるな!って思いました。
でも・・・です。むしろ、ステロイドは長期的にはイマイチという認識を持っています。例えば、肩へのステロイド注射を受けた人は、受けてない人に比べ腱板断裂リスクを7.44倍という研究(**4)や、手術前にステロイド注射を受けていた腱板断裂の患者さんの再断裂率が高いという研究(*5)があります。そう考えると、長期的にこそ、PRPの効果が高いと言えたら、より魅力的な治療だなと思います。その可能性で言うと、腱板断裂の手術後のPRP注射は再断裂率を下げるかもしれないという結果は期待を抱かせてくれます。(**6)
以上より、PRPについては経済的に余裕があるのであれば、ステロイド注射の代わりにPRPを打つという選択肢はあるかなと思いました。ただ、それでも部分断裂が修復する確率を高められるわけではないという認識で、丁寧な経過観察(症状が良くなったからと言って、腱板が修復されたと思い込まない)と経過によっては関節鏡下の修復を選択肢に入れておく必要はあると思います。
次に幹細胞系の注射ですね。こちらはめちゃくちゃ高額なので、効果を期待してしまいますよね。しかし、研究はまだまだ少ないようです*。Moraらは(7)「動物実験ではまだ結論が出ておらず、ヒトへの応用にはさらなる実験的研究が必要である。」と述べています。部分損傷に対して痛みと機能を改善させる効果はあったようですが、コントロール群なしの研究(*8)のようです。
ここまでで言えるのは、腱板断裂の中でも部分断裂においてのみ、痛みや肩の動きを良くする可能性があるが、エビデンスがより揃っているのは(効果量ではない)PRPであるということですね。さらに、PRPも幹細胞も腱板断裂の穴を縮小させたり、修復させるような効果は期待できないと考えた方が良さそうです。

腱板断裂に再生医療を盛んにされているクリニックは・・・

それにもかかわらず、「腱板修復の可能性」を患者さんに告げて、再生医療を勧めるクリニックがあることは事実です。実際、あるクリニックのホームページには腱板断裂の再生医療によるBEFORE AFTERのMRI画像が掲載されています。
拝見しましたが、肩の腱板断裂をよく手術される先生のご意見を聞いてみたいなと思いました。僕の意見としては、あの数件のBEFORE AFTERはなんの説得力もない・・・ということです。
MRI画像が1枚ずつしか掲載されていなくて、微妙にスライスが違います。腱板部分断裂はスライスが1枚ズレるだけで、断裂がある部分から断裂がない部分になったりします。また、そもそもそれ腱板断裂ではないですよっていうBEFOREだったりもしますし、炎症が時間が経って治まっただけかなというのもあります。
もっと言うと、部分断裂自体は半年とか1年くらい空けてMRIを撮ってみると無治療で修復されいるケースもあります。そういう例は何度も拝見していますから、もし、本当に修復されたとして、それが再生医療のおかげであるというのは、ちゃんと統計を取らないとわかりません。
という意味で、なんの説得力もないとお伝えしましたが、患者さんにとっては期待してしまいますよね・・・ホント、申し訳ないですが、ご注意くださいとしか言えません。
※ちなみに僕の経験と、調べた結果を述べています。再生医療を腱板断裂にしている先生で、「いやいや、こういう根拠で腱板修復の可能性があるんだ!」ってことがあれば、ぜひ勉強させてください。

結論 PRPを限定されたケースで使用価値ありか!?

以上より、腱板炎か腱板部分断裂において、痛みと肩の動きだけ改善させたい(部分断裂はしばらく修復しなくていい)と思われている場合はステロイドかPRP注射は選択肢に入りそうです。そして、ステロイドは腱板が脆くなるリスクがあり、その他、糖尿病の患者さんには血糖コントロールの関係で使いにくいなどがありますので、経済的に余裕があるならPRPは選択肢だと思いました。
それより高額な幹細胞は特にオススメできるケースはないかなと思います。
特に肩腱板断裂の治療は難しいです。もっと言うと、診断も難しいです。肩専門でない整形外科医が「腱板断裂あり」としたMRIを拝見すると、部分断裂すらないというケースもよくあります。これは、責めているわけではなく、それだけ腱板断裂の診断は難しい・経験を要するという意味です。実際、MRIを見て「これは腱板が怪しいな」という状態の患者さんの関節鏡手術をたくさんすることで、その「怪しいな」=「部分断裂」という精度を高めていく作業が必要なので、仕方ない部分はあると思います。
ですから、再生医療を考える際も、まず肩を専門とする整形外科医に相談することをオススメします。僕に相談していただいたら、上記のようなケースに限り「PRPならありかもしれませんね」とお伝えするようにしていきたいと思います。
この話題はできるだけ肯定的に、かつ、批判はオブラートに包んで・・・と思いましたが、薄いオブラートでは包みきれなかったかもしれません。気分を害された方がおられたら申し訳ありません。根拠あるご意見であれば、ぜひ勉強させていただきます。
*1)Flatow, E. L. Regarding ‘Platelet-Rich Plasma in Patients With Partial-Thickness Rotator Cuff Tears or Tendinopathy Leads to Significantly Improved Short-Term Pain Relief and Function Compared With Corticosteroid Injection: A Double-Blind Randomized Controlled Trial’. Arthroscopy: the journal of arthroscopic & related surgery: official publication of the Arthroscopy Association of North America and the International Arthroscopy Association vol. 37 1375–1376 (2021)
*2)Bhan, K. & Singh, B. Efficacy of Platelet-Rich Plasma Injection in the Management of Rotator Cuff Tendinopathy: A Review of the Current Literature. Cureus 14, e26103 (2022)
*3)Shams, A., El-Sayed, M., Gamal, O. & Ewes, W. Subacromial injection of autologous platelet-rich plasma versus corticosteroid for the treatment of symptomatic partial rotator cuff tears. Eur. J. Orthop. Surg. Traumatol. 26, 837–842 (2016)
*4)Lin, C.-Y. et al. A Positive Correlation between Steroid Injections and Cuff Tendon Tears: A Cohort Study Using a Clinical Database. Int. J. Environ. Res. Public Health 19, (2022)
*5)Traven, S. A. et al. Preoperative Shoulder Injections Are Associated With Increased Risk of Revision Rotator Cuff Repair. Arthroscopy 35, 706–713 (2019)
*6)Chen, X., Jones, I. A., Togashi, R., Park, C. & Vangsness, C. T., Jr. Use of Platelet-Rich Plasma for the Improvement of Pain and Function in Rotator Cuff Tears: A Systematic Review and Meta-analysis With Bias Assessment. Am. J. Sports Med. 48, 2028–2041 (2020)
*7)Valencia Mora, M. et al. Stem cell therapy in the management of shoulder rotator cuff disorders. World J. Stem Cells 7, 691–699 (2015)
*8)Jo, C. H., Chai, J. W., Jeong, E. C., Oh, S. & Yoon, K. S. Intratendinous Injection of Mesenchymal Stem Cells for the Treatment of Rotator Cuff Disease: A 2-Year Follow-Up Study. Arthroscopy 36, 971–980 (2020)

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