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うれしはずかし朝帰り            ――画像しりとりはじめました(#136)

(#135) 延長→「う」→うれしはずかし朝帰り

どこからともなく聞こえるドリカム。

こんなはずじゃなかった



今にして思えば、客引きがカメだった時点で怪しむべきだったのかもしれない。

でも、別にぼったくられたワケでもないし、
おとちゃんという若くてきれいなママさんの接客も十分堪能したし、
おまけに帰りにはたいそう高価そうな箱入りのお土産おみやまでいただいた。

店を出て、カメタクシーが
「疲れたでせう。着いたら起こしますから寝てて大丈夫ですよ」
そう言ってくれたので
お言葉に甘えて熟睡した。

――そしてたどり着いた、どこだ此処?な、とある浜辺。
どことなく違和感にまみれた街中をあてもなく歩いた。
とりあえずコンビニでスポーツ新聞と缶コーヒーを買った。

なんか高いぞ。観光地価格か?
てか、「令和」ってなんだよ?
阪急も西鉄もどこへ行ったんだ?

頭の中がクラクラしたまま、ふと目線がおとちゃんにいただいたお土産おみやに落ちた。
手渡しされた時に何か言ってた気もするが。
まあいい、開けちゃえ。

――世界が変わった。いや、変わったのはオレの方か。

どこからともなく、ポップな曲が耳に届いた。
ラジオだろうか。
とりあえず伊東ゆかりでないことは分かったが、なんて曲だろう。

まるで聞いたこともないような軽快なリズム、
明るい曲調、
モダンな雰囲気を背に浴びながら、
リフレインされるサビのシンクロニシティに苦笑するよりほかなかった。

そうだな、とんだ「うれしはずかし朝帰り」になっちまった。

こんなはずじゃなかったんだが。

変わりゆく自分の姿を見ながら、
なぜか、昔、どこかで聞いた抹香くさいようなくさくないような、
とある話を思い出していた――

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

岡山県がまだ吉備国と呼ばれていた頃、児島にいた恵達けいたつとかいう坊さんの話だ。

齢の頃は60有余、長年の修行の末に結局は世を儚むほかなく、後はただひたすら浄土への旅立ちを欲して、念仏三昧の生活を送っていた恵達。

そんな人生最期の念仏生活の中でも、人の噂とは厄介なもので、徳のある坊さんがいるぞ、と聞きつけ、多くの人々が恵達けいたつの庵を訪れてはありがたい説教を求めた。

その人々の中に、一人のとりわけ美しい娘がいた。
感心なことに、恵達けいたつに泣いてとりすがっては十念をせがむほど信心深い娘だった。
無論、これから浄土へと向かう身である恵達のこと、念仏を唱える以外、俗世に深く関わるつもりなど微塵ほどもない。

そしてある夜、恵達けいたつは、その念仏三昧の甲斐あって、観世音菩薩からのお告げを受け、晴れて即身成仏のため入定にゅうじょうすることが決定する。

こうして生きながらにして木棺の中に座した状態で、小高い丘の大きな樹の下に埋められた恵達けいたつ

竹筒の空気穴から漏れ聞こえてくる読経の声と鉦の音が絶えた時が絶命のサインだ。それを見守る側にももうひと仕事残っているので、村の人々は、恵達けいたつの読経と鉦の音をありがたやありがたやと拝み聞き入り、その日を待っていた。

しかし、半年経っても一年経っても、読経の声も鉦の音も一向に止むことはなかった。

二年経っても、三年経っても、「その日」は来なかった。

やがて、いいかげんくたばらんかいあのくそ坊主、などと罰当たりにも正直な陰口を叩く者すらいなくなってもなお、恵達けいたつの読経の声と鉦の音は止むことがなかった。

後に「念仏塚」と名付けられたその丘に、もはやその由来すら知る者がほとんどいなくなった55年もの年を経たある日のこと。

念仏塚の大樹に落雷が直撃してその樹を倒すとともに、その根本の周囲の土を吹き飛ばして木棺が露わとなってしまった。

何事か、と念仏塚に集まった人々。
ふと、木棺の中から聞こえる鉦の音。
――そう、55年経っても恵達けいたつは生きていた。骨と皮だけのほぼ木乃伊みいらのような状態ではあるが、確かに生きていたのだ。

半ば壊れた木棺から救い出された恵達けいたつは、呟くような声を発した。
「あの娘、美しかったあの娘のことが気にかかり、どうしても成仏できんのだ……」

話を聞いても何のことやらさっぱりだった人々だが、村の老人たちに話を聞いて、事の経緯を知る。

そして、スタッフ一同、必死に探しました。
――いました。その娘さん、まだ村にいましたよ。
(村中スタジオ拍手)
さあ、恵達けいたつさんとの涙の再会です。美しく信心深い村娘さん、どうぞ。

こうして恵達けいたつの前に再び姿を見せた娘。
ただ、当時の面影はかすかに残してはいるものの、55年という歳月は、確実に美しい娘を皺だらけの老婆へと変えていた。

その姿を見た恵達けいたつは、瞬く間に白骨と化したのだった――

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

――失礼な坊主だよなぁ。
その話のオチを聞いて、俺は当時そう思った。
そんだけ煩悩にまみれてたら、成仏できるモンも成仏でけんわいww――と。

あれ? 俺、なんでそんな話、今思い出してんだろう……?

ああ、そうか。
おれも55年経っちゃったのか……。
もう一回、おとちゃんに会いてぇなぁ……。

なんだろう、意識が遠くなってきた――

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

備前国児島の僧、恵達けいたつがなろうとした「即身仏」。
言葉自体は意外とそこそこ知名度が高いみたいである。
要は「坊主のミイラでしょ」と。

んー……まあ、見た目は確かにそうなんだけどね^m^

だが、「即身仏」とは、その字のとおり、「この世にあって仏となる」ことであり、我々のような悩める衆生を救済するため、弥勒菩薩が現れるまで言わばその「つなぎとして」瞑想に入るのが目的👆
いつか戻ってくる魂のために腐らずにただ寝てるだけのミイラいれものと一緒にされちゃ困るってものである。

ただ、この弥勒菩薩が降臨するのは、56億7千万年後(≧▽≦)らしいので、つなぎと呼ぶにはあまりにも長い、途方もない年月を死なずに瞑想し続けなければならない。
そのため、ちっとやそっとじゃ崩れない長持ちバディ、即ち「木乃伊ミイラ」になることが求められるということだ。
ありがたい話ではないか。

それでは、俺も (私も) 即身仏になってみんなのために祈りたいっ!という尊き心根の持ち主のために、緊急開講☆

松平せんせいの☆即身仏になろう!講座 🎉\(^o^)/🎉

■ 必要なもの
・木の実、木の皮、木の実ナナ ………適量
・漆……………………………………………………適量
・木棺 (約120cm×120cm×120cm)……1基
・竹の筒……………………………………………1本
・鉦 (若しくは鈴)  ……………………………1セット
・経本……………………………………………… 1冊
・根気と理解のある協力者……………… 数名

■ レシピ

  1. 木食行:木乃伊状態に体を近づけるための行である。米や麦といった穀物を絶ち、木の実、木の皮を食べることで命をつなぐ。こうして、死後もっとも腐敗の原因となる脂肪を燃焼し尽くすのがねらい👆 まあ、ボディビルダーの作り方と似ているかもしれない( ̄∀ ̄)

  2. 漆を飲む:イイ感じに脂肪が燃焼したら、次は漆を飲んで (飲みづらい場合は水で薄めて飲むカルピス方式も推奨👆) 食道や胃等の消化器官を防腐・抗菌作用のある漆でコーティングすることにより、内部からの腐敗防止を試みる。まあ、言うなれば生きながらにしてのセルフ・エンバーミングといったところか。漆は、慣れないうちは呑んではリバース、呑んではリバースを繰り返すこととなろうが、それはそれで体内の水分を抜くという意味ではミイラバディ形成には有効👍

  3. 入定にゅうじょう(予備段階):バディがイイ感じにミイラ化してきたら、いよいよ入定である。予め作られた木棺の中に座し、そのまま土中に埋めてもらう。なお、木棺には上部に空気穴を設け、そこに竹筒を通すことにより、最低限の酸素の確保と通信が行えるようにすることを忘れないように。

  4. 入定にゅうじょう(完成):土中の暗闇の中で鉦や鈴を鳴らしながら読経を続ける音が止んだ時が入定の完成である。かねてより用意された理解ある協力者は、この無言の合図により、空気穴を塞ぎ、そのまま三か月以上キープ。

  5. 即身仏完成✨:三か月以上置き、よきところで発掘作業を行う。首尾よく即身仏となれていたらめっけもの (*1) (o^-')b♪ 衣装を整え、仏さまとして丁重にお祀りしませう。

*1:めっけもの:日本のような湿潤が過ぎる気候帯では、体内のちょっとの水分残量が命取りとなり上手いことミイラ化しないケースが多い。理想的な木乃伊=屍蝋ができる条件を満たす場所の選定も、即身仏成功の必須条件といえようか。

なお、即身仏となる「入定」は、明治に入って禁止されており、戦後の現行法制下においても、事実上法の適用度外視となる入定者はともかく、理解ある協力者については、
自殺幇助罪、死体損壊罪、死体遺棄罪のいずれか、または全部の罪に問われるため、それ相応の覚悟が必要となる。

まかり間違っても、この記事のとおりやりました✋などとバカ正直に語ってはいけない( ̄∀ ̄)

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

さて、今日の一曲。
今日は、図らずも突然ミイラ化してしまった不幸な「オレ」、というよりその話の中に出てきた僧侶、恵達けいたつに捧げる歌。

今週の13曲目、戸川純で『恋のコリーダ

うーん、今週のラストナンバーが戸川純かぁ(笑)……ま、いっかw


おっと、今宵ももうこんな時間だ。
漆は呑みたくはないが、白湯はもう一杯飲もうかな♪ 今日はまだ比較的暖かいが、明日からガッツリ冷え込むらしいからねぇ( ̄∀ ̄)💦

そんなこんなで、
明日も、なるべく多くの人が、
うれしはずかし朝帰りした人のドキドキテンソンでキラキラな一日が送れますよう✨


■ おまけ

今回の画像しりとり列車 (136両目) の前の車両です。タイトル「延長」と右下のネタ画像で、なにこれ?て引っかかりを覚えた方がおられましたら、時間が許すような時にでも、覗いてみてやってください。
ご覧になった方から抽選で1名様に、「おとちゃんからの愛の玉手箱セット」をお贈りします(*´꒳`*)


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