見出し画像

まだ美しいと言ってよいほどには

知り合いに役者さんに向けた教育をされている方がいて、その方から時々、声についてのご相談を受けることがあります。

ご相談といっても畏まったものではありませんが、例えば、「声がスカスカの人に”声が『鳴っている』感覚”を説明するにはどうしたらいいか?」など。予想がつく範囲内でいくつかの方法を提案してみたりします。(実際にお声を聞いていないときはもちろん慎重に、断定はしません😌)

「声が出ない」ということに悩まれたことがない、最初からできちゃったタイプの優秀な先生は、声が出ないことが理解できないと悩まれるそうです。羨ましい悩みです笑

私の場合、たいして優秀なプレイヤーではなかったので、声が出ない→出るというプロセスを経験してきたため、声が出ない人を見てもあまりびっくりしません。むしろ「できない」と思われている人は、変に技巧的なことをせず素直に歌ってくれるので、その人の持つ「よい」声を見つけやすかったりします。

こんなことがありました。その知り合いの方が、とにかく声が出ない!これはマズいぞ!と言うので、役者さんたちのお声を聞かせていただいたんです。どんな声なんだろうとドキドキしながら聞いてみたところ、言うほどマズくもなかったので「????」

さらには私が「ああ、いい声だね」「歌えそうだよね」「全然!伸びるよ!」と、マズいと思っていた声を褒めるので、今度はその知り合いの方が「????」

何が起きていたかと言うと、こういうことなのです。

「その声はまだ、美しいといってよいほどには、十分に『よく』ないだけのことなのである」

フレデリック・フースラー/イヴォンヌ・ロッド=マーリング 著   須永義雄/大熊文子 訳『うたうこと 発声器官の肉体的特質―歌声のひみつを解くかぎ―』音楽之友社116頁14~15行目

「よい」声と、スゴい声は違います。スゴい声は明らかに表面に表れるので、誰が聞いてもわかりやすいのです。

「よい」声には伸びしろがあります。ボイストレーナーはその伸びしろに目を向けて、本来の「よい」声に近づくにはどうしたらいいか?という視点から声を聞くので、「まだ、美しいといってよいほどには、十分に『よく』ないだけ」となるわけです。

大工さんみたいなものです。家の土台から作ってきた大工さんは、土台のことがよく見えるし、土台も含めて「家」ですが、大工ではない人の場合、土台よりも上の部分に目が行くと思います。個性的な屋根、奇抜な色の壁、不思議な形の窓。もしもそんな家があったら、人々は屋根や壁や窓を話題にします。

話題になるのが悪いという意味じゃありません。個性的な屋根、奇抜な色の壁、不思議な形の窓がなくても、いい家っていっぱいあるじゃないですか!🏠✨

土地土台がよけれは、リフォームすれば何十年と住み続けることができます。土台が生きていれば、屋根が、壁が、窓が使い物にならないくらい劣化していても、その家はまだ、いい家といってよいほどには、十分に「よく」ないだけのことなのである。そういうことなのである。

役者などの職業の場合、仕事ですぐに使える声を求められるので、どうしても土台に目を向けたトレーニングは後回しになってしまうかもしれません。生計を立てるためには仕方がないことですが、声の”表面”だけしか聞き分けられないと、可能性の芽を摘んでしまうかもしれないので注意が必要です。実際、悪い声なんてないのです。

「その声はまだ、美しいといってよいほどには、十分に『よく』ないだけのことなのである」

フレデリック・フースラー/イヴォンヌ・ロッド=マーリング 著   須永義雄/大熊文子 訳『うたうこと 発声器官の肉体的特質―歌声のひみつを解くかぎ―』音楽之友社116頁14~15行目

何度聞いても素晴らしい言葉です✨👏✨発声器官が何か怪我をしていたり、疾患のために生理学的に発声が難しいというわけではない限り、リフォームのやり方次第でまだまだ住める家―歌える声はたくさんあります。ボイストレーニングの価値とは、こういうところにあります。

さて、先ほど「マズいぞ!」と心配されていたお声たち。ようく話を聞けば、私が歌えそうだと感じた子は、舞台をやっていてやはり普段から声を出すとこのと。全然!伸びるよ!と言った子は、その後なんと、本当にぐんと伸びて良くなったとのこと☺️✨

しかもその知り合いの方からは、「実はあれから反省したんですよね。もっと彼らの声をよく聞いてあげようって思うようになりました」と感謝されてしまいました🙇‍♀️✨いえいえ、しがない私の経験がお役に立てたようで、こちらこそありがとうございます!🙇‍♀️🙇‍♀️🙇‍♀️

私はフースラーのこの言葉も好きなんです。

「歌声は偶発的なものではなく、あらかじめ計画されて天から与えられたものである」

フレデリック・フースラー/イヴォンヌ・ロッド=マーリング 著   須永義雄/大熊文子 訳『うたうこと 発声器官の肉体的特質―歌声のひみつを解くかぎ―』音楽之友社 115頁  12行目

人間は誰しも「よい」声で歌い、健全な声で表現する機能が最初から備わっています。人類は最初からそういうふうに作られているー歌うことは人間の属性(※)とはよく言ったものです。

人は想いを実現できると、笑顔でいることが増え、自分の人生に自信を持って生きられます。その声はまだ、美しいといってよいほどには、十分に「よく」ないだけのこと。もしも誰かに「声」についてボロクソに言われたとしても、心をとらわれずに伸びしろを信じて、楽しみにトレーニングを続けて、笑顔で自由に歌われてみてください😌✨

※フレデリック・フースラー/イヴォンヌ・ロッド=マーリング 著   須永義雄/大熊文子 訳『うたうこと 発声器官の肉体的特質―歌声のひみつを解くかぎ―』音楽之友社 9頁3行目

✨🎤なかむら詩子ボイストレーニング教室🎹✨

プロ向け、本気の人向けの教室です!発声器官の自然の法則に従って、ボイストレーニングと、歌うことを教えています。いろんな声を出します。一緒に楽しく学びませんか!🥳

▼まずは流し読みしたい方はnoteから

▼しっかり読みたい方はホームページから

素敵な時間をあなたと過ごせて嬉しいです。サポートどうぞよろしくお願いいたします♪