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リバーツーリング  由良川

野田知佑さんに憧れた夏 7月29~30日   高津~由良 50km

29日(日)  高津~大江 25km

 午前3時起床。用意はすでに万端整っている。トマトジュースを飲み干し3時10分家を出る。
4:35 予定どおりJR高津駅近くの河原に到着。空はまだ薄暗い。河原に5分でテントを設営。ここが川下りの出発点となる。
4:50 テントの中にカヌーなど全ての荷物を放り込み、川下りのゴール地点である由良を目指して車を走らせる。15分も経たないうちにあたりが一気に明るさを増した。
5:30 由良川河口の鉄橋下に到着。すでに多くのウィンドサーファーたちが縦横に川を滑走している。橙色の朝日が暑い一日を予感させる。
車を由良川の河口付近に残して京都丹後鉄道の由良駅へ徒歩で向かう。つまり車をゴール地点に残し、電車に乗って出発地点の高津駅まで戻るわけだ。
5:55 由良駅に到着。人影はない。駅員すらいない。前方の山に靄(もや)がかかり、とても荘厳な雰囲気を醸し出している。蝉しぐれはもう本格的だ。駅にやってきたおばあさんと挨拶を交わし、世間話を始める。このごろは民宿の数も半減し、昔ほどの賑わいは見られないということだ。確かに学生のころ友人と海水浴に訪れたときは、家族連れや若者の姿が多く見られたことを思い起こす。
6:24 西舞鶴行きのワンマンカーに乗る。たったの一両だ。豪華な市電といった感じ。高津駅に着くまで、おばあさんと話し込む。7歳の時に樺太に移住しとても苦労されたそうだ。今は細々と芋などを作って暮らしているとのこと。「遠慮せんと食べない」とスルメやらキャラメルなどをしきりにすすめられた。結婚するなら田舎の素朴な娘をもらいなさいとか、お母さんの気に入る娘でないとだめだとか、まるで身内の者に話すかのような熱っぽい口調だった。
 こちらは、ただ「はい」「わかっています」「そうします」とうなづくしかなかった。
「でも・・・」なんて言おうものなら怒られそうである。
8:08 高津駅に到着。
「もし途中でなんか困ったことがあったら、※※という名のばあさんの家はどこかと尋ねない」
「この辺りで私の名を知らんもんはおらんからのう」
『どんだけすごい人なんだろう』と思いながら、
「はい、ありがとうございます」
座席から立とうすると、
「これもっていきない」
とお菓子をいっぱい渡された。
おばあさんと名残惜しみながら別れた。おばあさんは窓からいつまでも手を振ってくれた。こちらも手を振って応えた。少し潤んだ。
 茶畑の中を通ってテントのある河原に向かう。河原には数人の釣り人が来ていた。テントをたたみ、カヌーを組み立てる。リュックやマット以外の荷物はすべて防水バッグに入れ、カヌー本体に突っ込む。出発の準備をしていると、しばらくして大学生らしき3人組が同じように川下りのためにやって来た。まったくの初心者たちだった。
川の情報を交換したあと、お互いに「気をつけて」と挨拶を交わして先にカヌーを漕ぎ出す。
9:15 カヌーにテント、シュラフ、水タンク、リュック、デイバッグなどを満載して流れに繰り出した。のっけから船底を川底にぶつけながら進む。1週間前に下見に来たときよりも明らかに水量が減っている。ゴツッ!と衝撃を感じるたびにカヌーから降りてライニングダウン(カヌーをロープで引っ張りながら歩くこと)しながら進む。ときおりアユ釣りのおじさんたちの前を通るたびに「すいませ~ん。前を失礼します」と声をかけながら頭を下げ下げ通過する。
10:30 通過目標の1つ目の橋にやっと到着。右岸に上陸しパン屋でお茶を買う。戻ってみるとどこら来たのか犬がカヌーに見入っている。野田さんのカヌー犬『ガク』のようにカヌーに乗せて下ってみるか、と思ったのだが、犬さらいになるので断念。ワンちゃんにも手を振って別れた。さすがに手は振ってくれなかったが、しばらくじっとこちらを見つめていた。
11:00 2つ目の橋。
11:30 ポリ艇の5人のカヌーイストに出会う。挨拶するとみんな一斉に応えてくれた。
「どこまでいくんですか」
「由良の海まで行きます」
「福知山から6時間かかりますよ」
「気をつけて」
「頑張って」
口々に励ましてくれた。
彼らはポリ艇だから6時間で行けるのだ。遊びながら下るこちらとしてはどれだけ時間がかかるのか見当もつかない。
11:40 3つ目の赤い橋はとても低かった。頭を打つほどだ。洪水時に水面下に見えなくなる沈下橋かもしれない。
12:00 福知山城を前方に見る。土師川との合流地点の河原に上がり昼食をとる。しばらく待ったが先ほどの初心者の3人組はとうとう姿を見せなかった。結構難しい瀬があったからリタイアしたのかも知れない。
12:30 4つ目の音無瀬橋で衝撃的な光景に出会う。腕っぷしの強そうなおばちゃんが川の中で仁王立ち。鵜匠のように数人の小さな子供たちを縄で縛って泳がせていた。思わず笑いながら
「こんにちは」
「どこまで行くの」
「海に出ます」
「おっとろし!いつになるかわからんで」
このあたりはまだ瀬が続く。ほとんどパドルを漕ぐ必要がない。快適!
1:00 5つ目の大きな橋。地図に載っていない橋だった。橋げた付近がかなりの急流になっている。ヘリのホバリングようにバックストロークでスピードを落とし波の状態を読む。ルートが見えた。橋げたの左を一気に通過する。しばらく行くと左手に支流があった。
2:00 6つ目(青い橋)牧に着く。
3:00 7つ目(コンクリート)
4:00 8つ目(コンクリート)
4:30 9つ目(コンクリート)この間いくつかの瀬が現れる。
アユ釣りだけでなく網漁をしている人も多い。木舟で網を操っているのは地元の漁師だろう。この川は生活に密着した川なのだ。
「通ってもいいですか」と一応声をかけてから通過する。
5:00 広い河原が左手に見えた。京都丹後鉄道の大江駅に近いところだ。
大江山と言えば鬼。伝説では『ま~さかりか~ついだ金太郎♫』こと坂田金時が鬼退治のためこの地に来たことになっている。
 接岸しテントを設営する。かなり体力を消耗していた。睡魔が断続的襲ってくる。
6:30 インスタントの五目飯とクリームシチュウーを携帯バーナーで温めて食べる。
7:00 疲労困憊。我慢しきれず寝袋に入る。

30日(月) 大江~由良  25km
 午前0時、目が覚める。テントの外に出て満天のきらめく星を眺める。天の川をこれほどはっきり見たのは久しぶりだ。
 1時ごろウナギの仕掛けを上げにおじいさんがやって来た。川でバシャバシャといつまでも騒がしかった。その音がだんだん大きくなり、間近に迫ったとき突然テントがライトで照らされた。
「なんじあ~!・・・テントか!おーびっくりした」
何もないはずの河原に見慣れぬものがあったので、たまげたのだろう。
午前4:00 起床。空が明るくなってきたところで毛バリで釣り始める。小魚が数匹。20cmほどのウグイも釣れた。
6:30 2日目の行程に入る。このあたりからほとんど流れがなくなってきた。
7:05 10番目の大雲橋に差しかかる。ラジオ体操の音楽が本来静寂なこの土地の山にガンガンこだましていた。あちらこちらからラジオ体操!
7:45 11番目(コンクリート)もう全く流れを感じない。ただひたすらパドルを動かす。左手に上陸しジュースを仕入れる。
8:40 12番目(コンクリート)一人の青年が橋の中ほどでずっとカヌーが近づくのを待っていた。
「気持ちよさそうやねえ。おはよう」
「おはようございます」
 まだカヌーというのもがこの辺では珍しいのだろう。それにしても流れがない上にずっと向かい風であるためなかなか距離をかせぐことができない。さらに日差しも強くなってきた。熱をもった両腕をときどき水に濡らしながら進む。
9:25 13番目(青い骨組の鉄橋)風はいよいよきつく波も高くなる。しぶきを浴びながら黙々と進む。完全に持久戦だ。ひたすら漕ぐ。
10:20 14番目(青い鉄橋)車で峰山に行くときに渡る橋だ。なじみの橋にたどり着きホッとする。残りの距離は7kmほどだ。ここまで漕ぎ続けるともう意識しなくても自動的に両腕が動いてしまう。水が少ししょっぱくなってきた。
 ときどきモーターボートが横を走り抜けるため、そのたびにカヌーを波に直角になるように回転させて転覆を避けねばならない。
 最後の橋、そしてゴール地点でもある由良の鉄橋がはるか遠くに見えてきた。一生懸命に漕ぐのだがなかなか距離をがつまらない。体力的にも限界に達しようとしている。橋が見えてからもう1時間近く漕いでいる。ようやく橋との距離が短くなってきたことを実感。突然力がみなぎってきた。ときおりウォーターバイクが爆音を残し側面を走り抜ける。海がはっきりと見える。波の音も聞こえてくる。子どものころから慣れ親しんだ潮の匂いだ。つい先ほどまでの疲労感が心地よい解放感に変わり、憎たらしかった風もいまは嘘のように爽やかだ。
 カモメたちがプカプカ浮かびながら人なつっこい目で迎えてくれた。
12:50 鉄橋をくぐる。ゴールイン!

 ※ 各地点の橋の種類と到着時刻をすべて記しています。これは由良川を
  同じように下ってみようと思われる方のため、行程計画の参考になるよ
  うにと考えてのことです。



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