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届かない言葉たち

私は最近遺書と呼ばれるものを書いている。

特別何かあったわけでも、こんな世界クソ喰らえだと感じたわけでもない。でも、ふと明日死ぬかもしれないなと感じたのだ。

もし私が明日死んだら、
私の想いはどこに消えるのだろう。
きっと消えきれずにこの世を彷徨ってしまう。
「お化けだ!」とひとびとを怖がらせてしまう。そんなの御免だ。
だから私は文字に残すことにしたのだ。

とりあえず書こうとした時に思い浮かんだ人の名前を、次々と書いていった。
家族や親友、お世話になった先生や、過去一と言っても過言ではないほど愛した元恋人(もしかしたらいつかここに書くかもしれない)、先輩、名もない関係の彼。
思いの外名前がつらつらと出てきて、戸惑った。

こんなに伝えたい人がいるんだ。
そう気づかされた。

しかし人間というのは本当に無力で、実際に死の場面に直面しない限り、それらしい言葉は出てこないのだ。こんな言葉じゃない、こんなことが言いたいんじゃない。と感じながら書いたものでは、きっと相手には何も伝わらないだろう。

しかしその中でも、書いている途中涙が止まらない人物がいた。
それは父だ。

私の家庭は父子家庭で、幼い頃から父の背中だけを見て生きてきた。父はとてもかっこいい人だ。
ペットの死に本気で涙を流せる人で、歌が上手で、笑うと目尻にシワが寄って、どんなに疲れていても笑ってくれる、本当に優しく強い人なのだ。

そんな父には本当にたくさんの迷惑をかけた。
たくさん叱られ、たくさん泣いた。出て行けと言われたこともあった。優しい父にそんなことを言わせてしまったことが本当に悔しくて悲しかった。
父にはいくら謝っても足りないほど、迷惑をかけてしまった。

それと同時に感謝してもしきれないほど支えてもらった。「パパがおるよ」「もっと頼れ」そう言ってくれる父が大好きだ。素直に頼れなくてごめんなさい。

SNSに長文を投稿した日。
父が仕事を早退した。
帰ってくるなり私の部屋に入ってきて、「どうした!?」と声を荒らげた。
呆気に取られて何も言えない私は、父を見つめて、どうしたのと逆に聞いた。すると、「投稿を見て病んでんのかと思って急いで帰ってきた」と言うじゃないか。
そんなつもりじゃなかったし元気だよと伝えると「びびった〜」と部屋を出ていった。

正直、あの日初めて、父から確かな愛を感じ取った。
いつでも頼れと言われた時も、「どうせお姉ちゃんの方が大事なんでしょ」なんてへそを曲げていたし、「頼ったって困らせるだけだし」とそっぽを向いていた。
しかしこれは、目を背けようにも背けられないほど、私へ真っ直ぐ飛んできた『心配』だった。

私の大好きな父。
姉との対応の差で嫌になってしまう時もあるけれど、私にしか理解してあげられない部分もある。

時々ふと、父がいなくなったら、なんて考えてしまって涙が零れそうになる。
この世界から消えるのは私だけでいいのにと強く思う。

危ない。泣いてしまいそうだ。

そんな父に綴った遺書は、きっと届かない。
届かなくていい。死の間際でもない今書いたものなんて核心的なことは何も書けていないのだ。

だから私の心はきっと誰にも届かずこの世を彷徨うのだろう。
驚かせてしまったらその時はごめんなさいね。

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