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2024/1/21 そぞろ書房で古本を渡しに行く

誰ひとりきみの代わりはいないけど上位互換が出回っている

宇野なずき『最初からやり直してください』

1月。しんどい日々が続く。
業務において、前進している部分と上手くいっていない部分、後者が圧倒的に多いため、毎日自分の存在意義のなさにうちのめされている気分だった。
自分はいない方がいい。
日々、必死で耐え抜くような暮らしは、はたしていつまで続くんだろうか。

『そぞろ書房』さんで、古本と交換してくじを引けるキャンペーンをやっていたので、なるべく状態の良い本を持って高円寺へ行く。

高円寺は面白い町だと思う。
なんとなく自分と毛色が似ているような、雑踏の人と歩いているとすこし安心する。人混みにいるとすぐ疲れてしまうけど、高円寺は比較的緊張しない……気がする。
モスバーガーで少し休憩したあと、そぞろ書房へ。レジに行くと、「何回か来ていただけてますよね?」と声をかけていただいて、うれしかった。
軽く雑談をしつつ、くじを引くと……、

そぞろ書房で引いたくじ(100円割引)

「あー、これ一番多いんですよね」と残念そうに、そぞろ書房の方が言ってくれて、なんだかそれがとてもうれしかった。100円引券は短歌の本に使う。

これを買った。ありがとうございます、と言い合ってそぞろ書房を出た。今日はいろいろ買って、お金、ちょっと少なくなったけど、なんとか節約して今月もやっていこう。


そぞろ書房、そしてその本屋を「小窓舎」と共同経営している「点滅社」には、ひとつ思い出がある。
当時、ほんとうに独りぼっちだったわたしは、短歌を詠みはじめたばかりで、屈折した自意識をtwtterに書き散らしながら、ひたすら壁に向かって歩いていた。何もかもが上手くいかなかった。
誰かがそばにいて欲しい気持ちをこじらせていて、でも、自分なんか誰もそばにいてくれないだろう、ということも薄々わかっていたので、ひたすら呪詛を唱え続けていた。一人で。
そんな中で作った短歌は攻撃的なものばかりだったから、あまりいいねはつかなかったけど、一つだけこの短歌はちょっといいねがついた。

ぼろぼろになるまで一人で頑張ったペッパーくんの親友になる

この短歌にいいねをつけてくれた人が屋良さんといって、あとの点滅社の社長となる人だった。
フォローされて、この人にいいねをもらうたび、少し視界がひらけていったような思い出がある。

それから、屋良さんの、そして点滅社の本はだいたい買うようになった。
屋良さんはいい人で、文学フリマで本を買いに行く旨を伝えたとき「取り置きしますか?」と言ってくださったのもうれしかった。「呟きがすきです」と言われたのもよく覚えている。
わたしは点滅社にとって一人の顧客に過ぎないけど、当時、孤独をこじらせていたわたしにとっては、本当に助けられた存在だったのを、実感している。

良心的だったり、やさしさで生きるのはむずかしい。
誰かに気を配れる人は素敵な人だけど、いつだってその余裕があるとは限らない。
でも、さりげない気配りが誰かの心を救うときもある。
手を差し伸べたり、差し伸べられたり、時にその手をさえぎってしまうこともあるかもしれないけど、人生はその繰り返しであることを、もう少し信じてもいいんじゃないか。
そして、つくづく、わたしの人生は、短歌を詠むか詠まないかで、分岐する人生だったように思う。

わたしがくじと引き換えに渡した五冊の古本は、そぞろ書房さんが取り扱うんだろうか。そうだといいな、と思う。
古本も人のやさしさも、バトンのようなものだ。
自分なんかいない方がいい、のすれすれの人生で、いろんな人の様々なバトンがあったことを、わたしも忘れないでいたい。

いつまでもそこで苦しまなくていいきみの代わりはいくらでもいる

宇野なずき『最初からやり直してください』