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東海道中島田宿発祥"島田髷"
現在でも結婚式や成人式など祝いの時には髷(まげ)を作ってもらう女性が多く見られます。日本の美しい文化の一つです。
今でも主流とされる髷は、静岡の島田が発祥の「島田髷」です。東京日本橋から京都三条大橋を結ぶ"東海道五十三次"のたしか二十三番目の宿場が、ちょうど静岡の島田にあった島田宿で、その宿場から流行り始めたのでそう呼ばれたそうな。有名な文金高島田(ぶんきんたかしまだ)も島田髷の一種にあたります。
「咲代。髪結いへ行くかい。俺も春先で仕事があまりないから、たまにはつき合いたい」
土間で盆と竹串を濯いでいた咲代は、黒目がちな目を大きく見張った。
一介の身分では女がわざわざ髪床へ通ったり、呼んだりすることは珍しいのだが、忙しい商家や、遊女などはより美しく装おうと手慣れた人へ頼むという。
「髪結いは、この前に行ったばかりです」
咲代は、あつらえてからしばらく経った着物姿姿。髪は通った先で結ったらしい、島田で流行の髷に落ち着いている。遊女のような派手さとは無縁ながら、顔は小さく控えめな人柄と美しさを醸している。
「この前っていつ」
さあ、と咲代はあやふやに答えた。
(小説咲夜姫/山口歌糸)
小説咲夜姫でも、咲代さんは島田髷を普段から結ってもらっています。婿探しの伝手として髪結い床(※今でいう美容院か床屋)の女将を思いついた甚六さんは、咲代さんを引き連れて髪結いへ行き、ついでに女将へその相談をしました。
男性の床屋のような髪結い床もあったそうですが、物語の中では女性しか通わない髪結い床が出てきます。男一人で訪ねるには気が引けるので、咲代さんを無理やりに連れていった形です。
川面に映る自分が風に揺られてぼやけた。そこへ、ぼうっと人影が現れた。甚六は波紋が鎮まる前に、ほのかな花の香りで誰とわかった。
「綺麗にしてもらえたね」
甚六は振り向く前に、もうそう言っていた。咲代は、影をたたえつつも華やかな表情でそこに立っていた。
「それが流行りの髷」
訊くと、小さく頷いた。髪床に入る前とは微妙に違う。
東海道五十三次の宿の一つ、駿河の国は島田宿を発祥とした、その名も島田髷は町では長いこと流行している。甚六は詳しくはわからないが、同様の髷姿の女人よりも、美しさは格別だと感じた。
咲代は、紅が引かれた唇をやや突き出して、
「確かめてみたのですが」
そっと話し始めた。
「うん」
甚六は努めて平静を装い相槌を打った。
「ついこの間、来たばかりでした」
咲代はそう言ってまつ毛を伏した。髪結いに頻繁に通うのははしたないことなのか、遊女のように見られて恥ずべきことなのか、甚六にはわからない。
(小説咲夜姫/山口歌糸)
結果として、ついこないだ来たばかりなのにまた連れていかれた咲代さんは、少し恥ずかしそうにします。髪結い床というのは決して低級な場所ではなく、ある程度豊かな家の娘や、お金のある遊女ほど好んで通ったそうです。
贅沢をするのは品がないという感覚もまた、日本の美しい文化の一つ。大和撫子の姿です。