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2022年参議院選各党公約考察(前編)

 来たる7月10日に行われる参議院選挙の各党公約に関する考察になります。争点となっている公約よりも、大切ではあるけれどあまり注目されていない公約と私が考えるものを中心に考察したいと思います。前編の今回は財政・税制、経済について考察して参りたいと思います。

1.税制・財政について

1-1 税制

 財政は収入を主として税源としているため、税のあり方に関する考察が財政規律との関係性欠かせない。そこでまずは税制に関する各党の公約を考察したい。

1-1-a 増税について

2022参院選税制(増税)

  増税についてだが、今回の参議院選挙では逆進性が強いとの指摘がある消費税増税を主張する政党はない。ただ、所得格差の是正、所得や資産に応じた負担を求める観点から所得税、法人税などへの累進課税、不労所得の様相が強い金融所得への課税、資産に関する課税を主張する政党は見られる。

 立憲民主党は①「所得税は、最高税率を引き上げるなど、累進性を強化」する、②「法人税は、収益に応じて応分の負担を求める税制に改革」する、③「金融所得課税は、当面は分離課税のまま累進税率を導入し、中長期的には総合課税化」するとしている。高所得者、大企業、資産家に対する課税を強化する傾向にあると言えよう。(※1)

 日本共産党は①「所得税・住民税の最高税率を現行の 55%から 65%に引き上げ」る、②「法人税率を、現在の 23.2%から、中小企業を除いて安倍政権以前の 28%に戻」す、③「富裕層の株取引への税率を欧米並みの水準に引き上げ」るとした上で、「譲渡所得には、高額部分には欧米並みの 30%の税率を適用し」、「株式配当には、少額の場合を除いて分離課税を認めず、総合累進課税を義務付け」る、④「富裕層の資産に毎年低率で課税する富裕税や、為替取引額に応じて低率の課税を行う」としている。日本共産党は立憲民主党以上に高所得者、大企業、資産家に対する課税を強化する方向が強く、税率についても具体的な数字をあげている。(※2)

 立憲民主党、日本共産党の税制制度の方向性としては所得、資産に基づく税制という意味では税の応能負担原則(※3)により近づける方向性がある。対して、保守、新自由主義の傾向が強い自民党、公明党、日本維新の会については累進性の強い税制強化の方向には言及がない。立憲民主党、日本共産党が結果の平等に積極的であるのに対し、自民党、公明党、日本維新の会は結果の平等には積極的ではないと言える。

 なお、国民民主党は①「法人課税、金融課税、富裕層課税を含め、財政の持続可能性を高め」る、②「所得再配分機能回復の観点から、金融所得課税の強化を行」い、「富裕層に応分の負担を求め」るとしており、中庸的な様相の強い内容となっている。(※4)公約上は減税、国民への給付を強調する傾向があるれいわ新選組は、累進性の強い税制強化について言及がないことについても触れておく。

1-1-b 減税について

1-1-b 2022参院選税制(減税

 減税については、消費税を中心としたものが多い。

 立憲民主党は「コロナ禍や、公共料金(電気代等)の値上がりなどの物価高騰により、国民生活や国内産業に甚大な痛みが生じていることを踏まえ、税率5%への時限的な消費税減税を実施」するとしている。また、消費税の「現行の軽減税率制度は廃止し、「給付付き税額控除」を導入」するとし、低所得者向けの税負担を控除する仕組みを導入するとしている。(※5)

 日本共産党は①物価対策、②中小企業を応援すること、③富裕層、大企業への応分負担、不公平税制是正の観点から消費税を5%に引き下げるとしている。(※6)

  日本維新の会は物価高騰への対応のため、「消費税の軽減税率を現行の 8%から段階的に 3%(状況により 0%)に引き下げ」るとともに、「消費税本体を 2 年を目安に 5%に引き下げ、日本経済の長期低迷とコロナ禍を打破する」とし、景気対策の観点からの消費税減税を主張している。また、「消費税は地方自立のための基幹財源と位置づけ、税率設定を地方に任せた地方税へと移行」するとしており、消費税の地方への税源移管を主張している。日本維新の会は法人税の減税にも言及しており、「中小企業者の法人税率を所得の金額にかかわらず国際最低税率の 15%とするとともに、中小企業者・低所得者の負担すべき社会保険料を大幅に減額又は免除する」として、中小企業者の負担軽減を法人税軽減、社会保険料負担軽減の形で行うとしている。(※6)

 れいわ新選組は物価対策、景気回復の観点から消費税の廃止を主張している。(※7)

 消費税減税、廃止については立憲民主党、日本維新の会、日本共産党、れいわ新選組が主張をしているが、観点は異なる。立憲民主党、日本共産党は生活者の負担軽減、不公平税制是正という結果の平等性の観点から、所得税、法人税の累進課税強化、金融所得課税強化と併せて消費税減税を主張しているのに対し、日本維新の会は景気回復という経済を優先させる観点からの消費税減税、中小企業の法人税の軽減を主張している。これらの政策から言えることは、立憲民主党、日本共産党が大きい政府志向であるのに対し、日本維新の会は小さな政府を志向であるということだろう。

 なお、税制のあり方については、上記以外に、立憲民主党、国民民主党、日本共産党、れいわ新選組がインボイス制度の廃止を主張している。

1-1-c コメント

 日本共産党を除いては増減税によって生じる税収の具体的な額を提示していない。また、日本共産党は具体的な額を示してはいるものの、その額の裏付けとなる根拠が示されていない。税制の変更に言及をするのであれば、その規模はもちろん規模の裏付けとなる根拠を示さないと有権者はその信憑性を疑う。税制に限ったことではないが、政党が提言を行うに際してはきちんと根拠に基づくことが求められる。

1-2.財政

1-2-a 財政規律

1-2-a 2022参院選財政(財政規律)

 日本の赤字額は2022年度末に1,026兆円と対GDP比で256.9%と(※8)、太平洋戦争末期の赤字比率を大幅に上回っている。(※9)対外純資産があることを理由に問題がないとする意見もあるが、少子高齢化によって対外資産が縮小する可能性を指摘する声もあり、(※10)日本の財政状況は決して楽観できる状況にあるとは言えない。したがって中長期的財政規律に対してどのように対処するべきかが必須であるが、財政支出による景気回復や給付による票を求める政治の態度は、財政規律に対する消極的な傾向がみられる。

 自民党は国債、地方債残高がGDP比で2倍を超えていること、危機発生時の財政の対応余力を確保することが必要であるとして、「2025 年度のプライマリーバランス黒字化を達成し、債務残高対 GDP 比を安定的に低減していくとの財政健全化目標を堅持するとともに、目安に沿った歳出改革努力を進め」るとしている。(※11)

 立憲民主党は責任ある財政への転換が必要であるとして、「歳出・歳入両面の改革で、中長期的に財政を健全化」するとともに、「中立的・長期的な観点から財政を調査・評価するため、独立財政機関「経済財政等将来推計委員会」を国会の下に設置」するほか、所得税、法人税、金融所得課税の強化を図るとしている。(※12)

 日本維新の会は「基礎的財政収支(プライマリーバランス)について、現実的な黒字化の目標期限を再設定したうえで、経済成長/歳出削減/歳入改革のバランスの取れた工程表を作成し、増税のみに頼らない成長重視の財政再建を行」うとして、経済優先による予算配分を前提とした財政規律が必要との立場である。(※13)

 国民民主党は持続可能な年金制度設計、経済財政の将来推計を客観的に行い、統計をチェックする「経済財政等将来設計委員会」を国会に設置するとしている。(※14)

 次に、プライマリーバランス(基礎的財政収支)、財政調査・評価機関への言及がない政党の財政政策についても触れたい。

 公明党は「「経済あっての財政」との基本方針に基づく経済・財政政策」に一定の成果を上げたとして、「新型コロナや物価高騰への対応に万全を期すとともに、社会経済のデジタル化・グリーン化・人材への投資を進め、経済再生と財政健全化の両立を果た」すとしている。(※15)

 日本共産党は「①富裕層や大企業に応分の負担を求めるとともに、「戦争する国」づくりのための大軍拡をはじめ歳出の浪費にメスを入れる、②国民の暮らしを応援する経済政策によって、経済を健全な成長の軌道にのせ、税収増をはかる――という二つの道を進むことで、暮らしを良くする財源をつくりながら、国と地方の膨大な債務の問題にも解決の道筋を見いだしていくという、責任ある財政政策を掲げ」るとしている。(※16)

 れいわ新選組は、表に掲げた通りそもそも財政規律に言及をしている箇所がない。(※7)

1-2-b 財政支出の内容

1-2-b 2022参院選財政(積極or緊縮)

 財政支出について積極財政か緊縮財政かの評価を行う際に緊縮財政の傾向を持つ政党はないと判断した。ムダを省くとして行財政改革の一環として歳費削減(日本維新の会)、軍拡への歳費削減(日本共産党)など個別的な削減への言及がある政党もあるが、基本的には財政支出には積極的傾向がみられる。違いは経済重視(景気回復)か社会保障重視(生活者重視)の視点かの違いである。

 ただ、どの政党も具体的にどの分野にどれだけの予算規模を付けるかについては言及をしていない。例えば、立憲民主党は一律の児童手当の15000円の増額、高校無償化を提言しているが、(※17)その予算にどれだけの額になるかについては触れられていない。税収規模のところでも述べたが、予算の支出に際してもやはり具体的な数字の根拠やその裏付けをきちんと説明する必要性があるだろう。

2.経済対策

 経済対策は財政出動やその他政府による公共投資など様々だが、ここでは最低賃金、物価対策に絞って取り上げる

2-1 最低賃金

2-1 経済対策(最低賃金)

 最低賃金についての問題は日本維新の会以外の全政党が言及をしているが、金額については自民、公明が時給1000円以上かつ全国加重平均を主張をしているのに対し、国民民主党が全国で時給1150円以上、立憲民主党が将来目標として時給1500円以上、日本共産党、れいわ新選組が全国で時給1500円以上を主張している。なお、立憲民主党、日本共産党、れいわ新選組は中小企業への公的補助に言及した上での時給1500円以上を実現としている。

2-2 物価対策

2-2 経済対策(物価問題)

 物価対策については、前述の税負担軽減との関連で減税を唱えている政党としては、自民党、公明党を除く政党が主張をしている。税負担軽減以外には自民党、公明党、日本維新の会、立憲民主党が中小企業への助成を含めた公的支援に言及をしている。また、物価上昇の原因が円安にあるとして日銀の「異次元の金融緩和」の見直しを立憲民主党、日本共産党が言及している。

 ただ、傾向としては中小企業を中心とした産業への助成か、税負担の軽減かというところが物価対策の争点となっており、間接的な物価上昇緩和措置か直接的な物価上昇緩和措置を行うかの違いが争点となっていると言えよう。

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 いかがだったでしょうか。次回後編では、社会保障を中心に各党の公約について比較検討をして参ります。なお、今回紹介した主要政党の公約についての資料は以下の通りです。

自民党

公明党

立憲民主党

日本維新の会

国民民主党

日本共産党

れいわ新選組

皆が集まっているイラスト1

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

(※1)

(※2) 2-(1)消費税を5%に緊急減税・インボイス中止、暮らしと営業をささえる政治に

(※3) 租税は各人の能力に応じて平等に負担されるべき、という租税立法上の原則。

(※4) 下記HP内「政策パンフレット」「「正直な政治」をつらぬく」より

(※5)

(※6) 下記HP内「政策提言」景気対策(短期) 79,134,135

(※7)

(※8)

(※9)

(※10)

(※11) 下記HP 「総合政策集2022 J-ファイル」「297 次代を見据えた財政構造改革」より

(※12)

(※13) (※6)前掲 165

(※14) (※4)前掲 同

(※15) 参議院選挙2022 政策集「8 政治家改革、身を切る改革と行財政改革」「⑤財政健全化」より

(※16) (※2) 前掲 2-(5)ジェンダー平等をあらゆる分野でつらぬきます

(※17)


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