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政治に対する雑感3-安倍元総理暗殺と国葬-

-与野党に広く関係を持った統一教会-

 安倍晋三元総理(以下敬称略)の国葬が9月27日に行われた。世論は、当初安倍の国葬に必ずしも否定的ではなかったが、次第に反対の声が大きくなっていった(※1)。安倍を銃殺した被疑者が、統一教会に入信した母親によって家庭が破たんしたのは、統一教会との関係が指摘された安倍に原因があると判断したことが明らかになってからだろう。

 事件当初は統一教会の問題に及び腰だった主要メディアだったが、週刊誌などの報道(※2)や事件の3日後の7月11日に統一教会が記者会見を行った(※3)後は、ワイドショーやニュースを中心に統一教会の問題点が報道されるようになった。具体的には、霊感商法の問題、統一教会の信者がいることで家庭が引き裂かれた問題などが挙げられる。政治家と統一教会との関係では、統一教会および関係者による選挙支援、統一教会とその関連団体への政治家の参加、統一教会関連の広報誌の購入、統一教会からの政治献金の授受などがある。自民党のみならず、公明党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党と社会主義政党である共産党、社民党以外の政党の政治家に統一教会の関係が及んでいることは事態が予想以上に深刻であると言えよう。

 私は、与野党を問わず広く政治家が統一教会と関係を有していたこと、日本社会の宗教に対して事勿れな態度を取る体質が、統一教会によって引き裂かれた家族に対する問題を放置する結果となったことの大きな原因の一つではないかと考える。宗教の名を借りた犯罪行為を行っている団体に対して宗教法人法上の認証を取り消すなど、宗教法人として得られる優遇措置を剥奪するといったけじめのある姿勢を政治や行政の側がきちんと行動で示していれば、安倍への暗殺事件は避けられた可能性もあったのではないか。また、私たちの側に広く政治に対する信頼があり、政治の側もその信頼にきちんと対応するだけの姿勢を行動で示していれば、被疑者も政治家を暗殺するという発想ではなく、世論を興し政治によって社会の問題を解決しようと考えたかもしれない。

 しかし、現実には政治家は統一教会の詐欺行為を規制するどころか、統一教会を自身にとって都合よく利用しようという発想で動いていた。私はここに日本の政治の堕落ぶりと闇を感じずにはいられないのだが、それを放任してきた私たち自身の責任も問われて然るべきとも思う。もちろん私たちの側と政治との関係が遠いという問題点も含めてである。

-国葬が持つ意味-

 岸田総理(以下敬称略)は安倍の葬儀を慣例上の内閣・自民党合同葬ではなく、国葬とすることを決定したが、国葬にはどういった意味合いがあるのだろうか。直近では昭和天皇の大喪の礼があるが、ここでは政治家との比較に留めることとする(※4)。

 戦後、安倍以前の、天皇・皇族以外での国葬は元総理大臣の吉田茂の例がある。吉田の国葬の際には、競馬、競輪などの公営競技が中止され、政府は全国にサイレンが鳴り響いた際に黙とうを人びとに要請した(※5)。メディアの側もCMを外し、通常番組を外した特別編成による報道を行った(※6)。国全体で吉田の死を弔うことは、日本国内に住む人々すべてに個々人の政治的信条のいかんを問わず、故人に哀悼の意を示すように国が求めることを意味した(※7)。だから吉田の国葬に対しては必ずしも賛成の声ばかりではなかった(※8)。

 吉田以後は国葬の根拠法令が必要ではないかという野党や内閣法制局長官の指摘もあり国葬は行われてこなかったのであるが、今回岸田は内閣府設置法上の内閣府の所掌事務としての「国の儀式」を根拠に安倍国葬を行うとした。今回の安倍国葬に際しては、政府は服喪を人びとに強制しないことを強調した(※9)。ただ、これは前述したように安倍と統一教会との関係が指摘されたために世論が国葬にふさわしくないと判断したことによる要素が強く、統一教会との関係がクローズアップされなかった場合には、非業の死を遂げた政治家という側面が強調され、吉田国葬以上の強い服喪を人びとが強制された可能性もあった。国が行う儀式は社会上の習慣だけでは語れない要素を持つことをもっと私たちは自覚をした上で、賛否を問うことも求められているのではないだろうか。

-お知らせ-

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(※1) 例えば、NHKの世論調査では7月の調査では国葬賛成が49%、反対38%だったのに対し、最新9月の調査では国葬賛成32%、反対57%と逆転している。

(※2) 週刊誌では、週刊現代が暗殺事件の翌日7月9日の段階で被疑者が統一教会信者の家庭に生まれたことに言及している。

(※3)

(※4) 大喪の礼については神道形式による葬儀が政教分離原則に違反するとの問題点が宗教関係者などを中心に指摘されることがある。

JP通信「日本カトリック正義と平和協議会」No.216 2019年6月号

https://www.jccjp.org/wordpress/wp-content/uploads/2020/04/JP216_v5.pdf

(※5)

(※6) 南方紀洋「天皇に関する十二章」 P241

(※7)

(※8)

(※9)



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