見出し画像

少子化の原因をめぐる諸説(後編)-少子化にどう向き合うか④-

 少子化に対する考察に関する記事です。4回目の今回は少子化と未婚化及び出生数低下との関係、及び未婚化・出生数低下の原因に関する諸説の後編になります。


少子化と未婚化・出生数低下との因果関係

日本型雇用制度に原因があるとする説

 前回の記事で未婚化の原因について筒井淳也が言及している部分を紹介したが、ここでは詳細について述べて参りたい。筒井は、経済的要因に求める説として主に女性の高学歴化に求める説(女性要因説)と、男性の所得低下と雇用不安低下が原因とする(男性要因説)とに分かれているとの見解を示している。その上で、女性要因説の場合には仕事を優先させたい女性が仕事と家庭の両立ができないために未婚化が生じたとする「両立困難説」と所得を得られるようになったことで女性の側で無理に結婚したいと考えなくなったとする「希望水準説」とに分かれるとしている。また、男性要因説の場合には男性の雇用が不安定となったため、共働きを試みるも女性の労働環境が整備されていないために結婚が妨げられた可能性もあるとした。(※1)

 以上を踏まえ、筒井は1990年代後半以降は結婚生活を維持するために結婚後も働く必要があるとの意識が女性に目立ち始めているほか、「出生動向基本調査:独身者調査」でも男性側が結婚後も働く女性を求める傾向が増えているとの見解を示している。(※2)その上で、共働きを行うためには女性がそれなりに高い賃金で長く仕事を続けられること、女性が一度出産などで仕事を辞めた後もある程度条件のいい職に復帰できる見込みが必要であるが、日本の雇用環境は女性の長期雇用の見込みが長らく得られる状況にはないため、安定した所得を持つ男性が見つからない限り結婚を延期する女性が出るのではないかとしている。(※3)以上の状況を解消するために、筒井は次のように主張する。

 女性が長期的に働き続ける見込みが得られる「共働き社会」を実現することができれば、出生力と女性の労働力参加率をともに高めることができる。そして共働き社会の条件として、これまでの男性的な働き方、つまり無限定的な働き方を制限すること、外部労働市場を活性化させること、職務単位の働き方を拡充させることが必要になるだろう。(※4)

 筒井は今年3月22日の第4回「こども政策の強化に関する関係府省会議」において、日本の長時間労働、転勤による日本型の雇用慣習、男女の賃金格差が女性にとって不利な労働環境であることに言及したほか、属人主義による業務の問題点(※5)を指摘した。その上で、転勤の制限やリモートワークの推進による労働環境の改善を行うことで、家事・育児の負担による抵抗感を軽減する必要があるとしたほか、子育てを心理的負担、経済的負担と考える傾向がある独身者に、少子化対策への理解を求めるべきであると主張した。(※6)

 ワーク・ライフバランス社長の小室淑江も、東京新聞の取材に対し、男性の働き方を変えて、男性が家庭での育児を行うことができる労働環境を整えないと働く女性が仕事と家事・育児の両方を行うことを余儀なくされると回答している。小室は労働条件の改善として、勤務間インターバル(※7)の義務化、時間外賃金の割増による残業抑制が求められると述べた。(※8)

その他の要因を指摘する説

 以上、前回も含めて挙げてきた要因以外にも様々な原因が考えられる。少子化は日本のみならず、欧米、韓国、台湾、シンガポールなど工業化が達成されて成熟した社会でも起きている現象である。ただし、欧米、韓国、台湾、シンガポールの少子化については、日本と共通する部分がある一方でそれぞれの社会的背景による少子化現象との違いを踏まえないと、欧米の少子化対策をそのまま日本で行っても成功しないとの指摘がある。(※9)

 また、前々回「少子化にどう向き合うか②-少子化に関する概略(後編)-」でも少し触れたが、日本国内の出生率については地域ごとに異なる。出生率は沖縄が一番高く、相対的には西日本で高い傾向なのに対し東日本では低い。そのため、都市部と農村部の違いなど地域特性を考慮した分析の必要性を指摘する意見がある。(※10)併せて、地方から東京圏への若年層の人口移動による一極集中化と地方での少子化の加速化を指摘する意見もある。(※11)

 日本の少子化は様々な要因が重なっていることがわかる。少子化に関する原因の分析それ自体が専門家の間でもまだ不透明な部分が多いとの指摘があり、前述した松田は2021年に「[続]・少子化論」を出版した際に自身が少子化問題に対する理論・分析の力不足があったと述べている。(※12)

 以上、少子化の原因に関する諸説について考察した。ただ、少子化及び、その対策が現在進行中の課題であり、これらの複合的な要因以外にも少子化の原因がある可能性は高いと考える。その意味では少子化対策についても従来の政策のみに拘泥するのではなく、柔軟性を持って適宜対応することが必要であると言えよう。

- - - - - - - - - - - - - - -

 いかがだったでしょうか。とりあえず、第1部の形で、少子化を巡る政策の経緯及び少子化についての原因に関する諸説をご紹介しました。今後も少子化の問題については考察をご紹介するつもりです。具体的には昨今の少子化対策への見解や諸外国での少子化問題への対処などについてを予定しております。

私、宴は終わったがは人、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

脚注

(※1) 筒井淳也「仕事と家族」 中央公論社 P40~P41

 筒井はこのケースについては、「希望水準説」でもあり、「両立困難説」でもあるとしているが、「女性労働環境未整備説」とも言えよう。

(※2) 筒井「前掲」 P56

(※3)  筒井「前掲」 P70~P71

(※4)  筒井「前掲」 P118

(※5) 業務について特定の人物のみが担当をしている状況にあるために、引継ぎによって他者が仕事を行うという柔軟性に欠けている状況を指す

(※6)

こども政策の強化に関する関係府省会議(第4回) 筒井淳也氏御発表資料

siryou4.pdf (cas.go.jp)

(※7) 終業時間と始業時間との間について就業をすることを禁止する制度。EU域内では11時間をインターバルとしている。

(※8) 2023年3月27日 東京新聞 2面

(※9) 山田昌弘「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」 「第3章 少子化対策における「欧米中心主義的発想」の 陥穽」

(※10) 赤川学「これが答えだ! 少子化問題」筑摩書房 P38~P42,P116~P117,P126~P127
松田茂樹「[続]少子化論」学芸社 P130~P136

(※11) 松田「前掲」 P136~P139

(※11) 松田「前掲」P2


サポートいただいたお金については、noteの記事の質を高めるための文献費などに使わせていただきたくよろしくお願い申し上げます。