伝える使命-澤田大樹「ラジオ報道の現場から 声を上げる、声を届ける」を読む(後編)
TBSラジオの澤田大樹記者による著書「ラジオ報道の現場から 声を上げる、声を届ける」について2週に渡ってご紹介して参ります。前編は澤田記者が、森喜朗東京オリンピック・パラリンピック組織委員会(当時)の問題発言をどのように考えていたのかについてご紹介しました。中編では、澤田記者の国会取材の姿勢についてご紹介しました。後編の今回は、澤田記者の政治家に対して臆さない姿勢、ラジオにおける報道観についてご紹介して参ります。
専業ラジオ記者
政治家に臆しない姿勢
澤田の森喜朗に対して屈することなく質問を続ける態度、新聞やテレビの政治部記者のような政治家との馴れ合いと一線を画する姿勢は、政治家に臆することなく質問をすることにも表れている。
総理大臣在任中の安倍晋三が主宰した「桜を見る会」の前夜祭におけるホテルでの宿泊費について、安倍は参加者が実費を支払っていたと国会で答弁していたが、実際には一部補てんをしていたことが後に明らかになった。このホテル宿泊費の補てんについて、安倍が国会内での「ぶらさがり」取材に応じることになった。各社質問の後の自由質問の場においてすぐ立ち去ろうとした安倍に対し、澤田は「お話されないのか」と声を上げたという。安倍は背中を向けた段階で言わないでほしい、と返したうえで、今申し上げた通りと質問に答えることなく、そのまま去っていった。これについて、澤田はこの時に間髪入れずに質問をするということの大切さに気付き、この時の経験を教訓に森への質問に活かしたと語っている。(※1)
2021年東京パラリンピック・オリンピック開催に際し、当時の総理大臣菅義偉はオリンピック関係者に外出制限をかけているため、オリンピック関係者と日本人との接触回避によるコロナ感染対策ができていると国会、記者会見で述べてきた。しかし、現実には異なる事実があったため、澤田は一般国民とオリンピック関係者の動線が異なるとの発言とは違うのではないかと菅に重ねて問いただした。その際、菅は質問の際に名前と社名を名乗らなかったとして、名前と社名を名乗るルールを守るようにと返し、秘書官、広報官も菅に合わせて社名、名前をそれぞれ名乗るようにと指示した。しかし、菅は澤田が名前と社名を名乗ってもIOCに分離を徹底するように言っているとして質問に答えず去っていった。(※2)
ただ、澤田や他の記者がこのまま手をこまねいていたわけではない。質問を打ち切らせようとする菅、広報官らの動きに対し、菅の発言を引き出そうと記者の間で連携をしようと試みたことが同著で語られている。澤田はそのときのことを次のように述べている。
ラジオにおけるジャーナリズム
以上からわかることは、澤田は取材について、市井に生きる生活者からの視点で行っているということだろう。ラジオリスナーは現実の生活で頑張っている人たちを中心としており、そのためラジオは反権力的であり、メッセージ性が強く出る傾向にあると、文化放送記者石森則和は室井昌也著「ラジオのお仕事」のインタビューで語っている。(※3)澤田の取材に対する姿勢は石森が主張するラジオの傾向をそのまま体現していると言えるだろう。
澤田は「声を上げる、声を届ける」の中で、沖縄国際大学への米軍ヘリの墜落が日米地位協定で日本側が調査ができないことの問題、東日本大震災での災害についても直接的な被害を受けているところとそうではないところでは同じ市内でも震災に対する姿勢が異なることなどについて触れている。こうした澤田の姿勢からは、一つひとつの現場の違いを細かくていねいに取材をしているという点で、平面的でモノトーンな傾向に陥りがちなメディア報道と一線を画していることが伺える。
澤田はラジオにおける報道について次のように語る。
ラジオは斜陽産業と言われている。しかし、ラジオに求められるのは、テレビなどの巨大メディアやネットにおける煽情的ポピュリズムの傾向と一線を画し、地に足の着いた一人ひとりの市井の声を届けようとすることであろう。澤田の報道への心構え、私たちリスナーへの問いかけに対し、私たちの側も、ラジオに声を伝えることを通じて澤田のみならず、ラジオ報道の現場で活動する人たちのジャーナリズムの精神を活かすことが求められている。
お知らせ
次回12月23日の投稿は都合により、時間を午前7時から午前11時までの間とさせていただきます。よろしくお願いします。
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脚注
(※1) 澤田大樹「ラジオ報道の現場から 声を上げる、声を届ける」 P149~P150 亜紀書房
(※2) 澤田「前掲」 P175~P177
(※3)
ラジオに思うことー吉田照美「ラジオマン」よりー|宴は終わったが (note.com) 脚注(※7)参照のこと
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