幸田露伴『運命・幽情記』
西遊記を読んだのは小学三年生頃、岩波少年文庫で上中下巻、当時の私には最も長大な本だった。小学生の読んだ印象としては、斉天大聖とか天蓬元帥猪悟能八戒とか、文中に屹立する漢字のトーテムポールが異様にかっこよかった。のちに北斗神拳や法律用語に対したときに似た、情報が呪文に変身する時の邪悪さだ。また一跳び十万八千里だの七十二通変化だの重さ一万三千五百斤だの数字の列も素晴らしい。多羅尾伴内の十倍以上だから一つずつ数え上げることはできず、「できない」ことを表すためにわざわざ具体値を出す