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浜風の未練 【超短編】
その街に足を踏み入れた彼は初めての街とは思えない懐かしさを感じた。彼はその感覚の原因が何か気になってしようがなかった。いつものようにしばらくあてもなく歩き回ってからコンビニで珈琲を飲んで店の外に出た瞬間、彼はああそうか、と自分でも驚くような声で独り言を発した。海の潮風が街場のそのあたりまで流れていた。風の匂いだ。それはあの夜の匂いだ。今は行方もわからない恋人の黒髪が自分の胸元で揺れる様子が彼の脳裏に再現した。そう、真夏の汗まじりの彼女の髪の匂い、それを思い出していたんだ。彼は俺もずいぶん未練なものだな、と思いながら、その足は浜辺に向かっていた。
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