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兎がほざく

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ショート•エッセイ、140字以内。毎日投稿、どこまで続く?
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2021年3月の記事一覧

兎がほざく その24

兎がほざく その24

ある失恋の観察日記。

初日、二日目 ただ悲しい。

三日目、自分のどこが原因か考え始める。

一週間、相手が好きと言ってくれたのは嘘かと思う。

二週間、別れが早く訪れただけと思う。

三週間、相手は自分との関係が辛かったのだと思う。

現在、通じ合った一瞬を懐かしむ。

兎がほざく その23

兎がほざく その23

曰く、恋愛は一人芝居が二つ。
同床異夢。

これが真実なのか?

二人の通じ合う一瞬、そこに賭けたい。
この奇蹟を信じて、人は恋するのだ。

一瞬の永遠。
やがて一人に戻る日が来ることを知っているから、切ないのだ。

兎がほざく その22

兎がほざく その22

生きるとは思うようにならないこと。
だから生きる欲が湧く。

思うようにならないさまを筆の回る限り記述した夏目漱石。

欲を正直に追求してその先を見極めようとした坂口安吾。

二人ともぼくは好きだ。

自分にも読者にも嘘をつかないから。

兎がほざく その21

兎がほざく その21

人は生まれると、こうしてはいけない、こうしなきゃいけない、と覚える。

それで自分の思う通りにすることを断念する。

思い通りにゆかないのが人間だ。

内心の声となった、いけないという声への、義務感。焦燥。束の間の反発と,不成功。

そんなことを考えている。

兎がほざく その20

兎がほざく その20

ベートーヴェンが好きになった。

曲に媚がない。
でも独り言ではない。
伝えたいという情熱が濃厚に押し寄せる。

一人の陶酔したドイツの男の、肉体の躍動と収縮。

BGM向きでは決してない。
くつろがないのにカタルシスがある。

兎がほざく その19

兎がほざく その19

演劇。

観客に見たいものを聞いてそれを見せるのでは、面白いものにならない。

観客が見ることになろうと予想すらしていないものを。

自分が面白いと信じ、観客も面白いと思うと信じるものを。

観客を信じて見せる。言い尽くさずに委ねる。秘すれば花。

演劇頑張れ!

兎がほざく その18

兎がほざく その18

茶道の作法は、劇の振付のように、音楽の楽譜のように、一同の共演を可能にする。

生活行動の文様化。

茶釜の湯が途切れることのないよう柄杓で汲むたびに注ぎ足す。

忘れてならない所作は、作法として文様化されている。

これらは、かつて五年間の稽古で学んだことだ。

兎がほざく その17

兎がほざく その17

茶道は一座建立、一期一会。

知らぬ同士がひとときを共有する喜び。

場の共有、話題の共有。

床の間の掛け軸や花をきっかけにして。

一碗の同じ味を味わう。

生活を束の間、共にする。

後には、よい思い出の土産。

兎がほざく その16

兎がほざく その16

資本主義社会は、危機になっても無理矢理乗り越える。

よその国の富を取る。

つぎの世代から前借りする。

みんなが仕方ないと思う事態になったところで、借金を踏み倒す。

つまりつけを他人に回す。なりふり構わず。

お金というものがある限り、きっと続く気がする。

兎がほざく その15

兎がほざく その15

男が帽子を被るのは、昔は当たりだったのに変わった。

演歌はあまり流行らなくなった。

今、同じように変わりそうなのは、専門家への信頼だと思う。

自分に当てる物差しが、他人に当てるのと違うんじゃないか?

役に立たない趣味に公費を供していないか?

学問の運命は?

兎がほざく その14

兎がほざく その14

お父さんは言った。
いつまでも赤ちゃんではいられない。一人立ちするんだ。

子どもは答えた。
今のままが心地いいわ。ミルクの代わりに、たくさんご飯を稼げばいいのよ。お父さんも、あれこれ注文つけないで、お酒でも飲んで寝てて。

経済成長が続く限り子どもでいられる社会。

兎がほざく その13

兎がほざく その13

SNSでは、人と人とが簡単につながる。
いきなり枕元でつながる関係になる。

そして、つながりは簡単に切れる。
消す、消される。
SNSが生まれる前には、とても物騒な隠語だった。

匿名の万能感。人をクリック一つで消す万能感。本当に万能になったわけでもないのに。

兎がほざく その12

兎がほざく その12

旅に出る。
日常からの解放。
景観に心を動かす。

旅に疲れる。
景観から取り残された私。
みんな知らない人。

動き続ける心。
心は、もちろん自分の心だ。
それはいつも、ここにある。
どこかに行っても、ここ。
宇宙の果てに行っても、ここ。

ここは、ここ。
毎日が、旅。

兎がほざく その11

兎がほざく その11

相撲の楽しみは、勝ち負けだけではない。

土俵のしつらえ、呼び出しの声、拍子木の知らせ、番付表の踊り上がる文字。

ひとときの非日常の楽しみ。
つまり遊びの楽しみだ。

かみさまと人とが遊びの時を共有する。

土俵上の一回限りの勝負。
精進と勝負運。
波打つ満座の心。