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超短編

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スクロールは1回か2回程度の超短編です。
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2023年3月の記事一覧

春雨の名残 【超短編】

春雨の名残 【超短編】

 でき得ることなら春雨の名残の水溜りの泥のようにただ乾かされて土埃に変じてみたい......今の彼にとってはこのような幻想の実現ほどに切望される恩寵はないのであった。彼は聖堂前の広場の朝日の当たるベンチで頭を垂れて身勝手な恩寵を泥のように待ち続けた。

花海棠 【超短編】

花海棠 【超短編】

 花海棠は雨の水滴の重さでうなだれながらもなお彼女の目線よりも高く咲いていた。自分と緋色の花との位置関係にさえ敏感な彼女には実のところこの街に知り合いとてなく憚るべき人目もなかった。花海棠の背後にはスカイツリーが濃霧の中で灰色に気配を消して街を見下ろしていた。