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日常の営みの音に眠る

iPadで本を読んでいたら、だんだんとダレてきて、ついには床の上に横になった。
ホットカーペットの上なので、触れているところすべてが暖かい。少し肌寒かったので、体の向きを変えてあちこちを順番に温めながら、最後にうつぶせになった。首は右に向けた。その体勢では自然と左耳が床と接することになる。

その瞬間、伝わってきたのは、どこかの家族の笑い声だった。
体全体がふわりと何かに覆われた。

集合住宅なので、ドアの開け閉めだったり、足音だったり、重い押し入れの扉をひらく音や、犬の鳴き声は耳にすることがあるが、普段はとても静かな環境だ。隣の部屋の話し声すらしない。
だから、笑い声を聴いたのは初めてだった。
家族で笑い合うっていいな。
正直なところ、家族との付き合いが大の苦手なわたしはあまり認めたくはない事実ではあった。それでも、ほんの一瞬の笑い合う声が、瞬間的にわたしを塗り替えてしまった。

家の中で家族と笑っている。
日常を営んでいる。
人間がそこに生きている。

そこから生まれるのは、優しさだ。
この世に独りではないと、誰かに感じさせる力だ。

しばらく同じ姿勢のままでいたが、もう笑い声が聞こえてくることはなかった。
ずっと笑っていたらそれも変だ。
わたしは、優しさに包まれたまま、眠ってしまった。

(了)

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