ポカリスエットのCM

年々暑くなっている気がする。2018年7月。
オフィスはクーラーが効いているけど、心地よさはあまり感じない。

(ポカリスエットのCMって爽やかでいいよな〜
よし、次はポカリっぽい曲にしよう!)

会社のデスクでそんな事を考えてるOLがいるなんてきっと誰も思わないだろう。

最近の仕事は暇を極めている。なのに、キーボードを叩く音や紙をめくる音があちこちから聞こえてくるのが不思議で仕方ない。
皆一体何をしているんだろう?

どうして自分の居場所があるんだろう。

専用のデスクもPCも用意された。だけど分かる、ここにわたしの居場所はない。
いつだって頭の中はどこか遠いところにいる。

今日は、さっき唐突に浮かんだ「視界に射した陽を」という鮮烈な歌詞とメロディに囚われている。同時に、強い日差しに目を細め、あまりの眩しさに手を翳すサラリーマンの姿を思い描く。

小さい頃は何も考えず、汗だくになってサッカーや野球で遊んだことを思い出す。好きなこと、今やりたいことに夢中になるのが自然だった子供時代。

だけど別に、大人になってから好きなことに夢中になっちゃいけないなんて法律はないのだから、いい歳した大人が会社のビルのその隙間をゴールに、日頃の鬱憤を丸めてボールにして思いきり遊んでみてもいいんじゃないか。

仕事中にそんな考えを巡らせてばかりいる。

暇な時間があると(否、仕事中も)自分の世界にどっぷり入ってしまう私の悪い癖。
その理由も判り、一度会社を休んだ。復帰という大きな山を越えたことは、ひとつの自信と経験になった。

だけど、今度はこの平坦な日々に嫌気がさしている。最近何かにずっと悩んでいる。

このままじゃいけないことはわかってる、でも踏み出せない。やりたい事は分かってるのに、分からないふりをしている。
大人になって、安定した道から逸れてしまうことが、どうしても怖い。

そうだ、この曲は同じように悩んでる社会人に向けてのエールにしよう、あわよくばポカリのCMに使ってもらうんだ!

やる気スイッチが入ったわたしは自分のデスクにある一番大きい付箋に目をつけた。
ピンク、ブルー、イエローの3色。Aメロ、Bメロ、サビの3色。

これなら仕事中に書いていても怪しまれないし、ちょっと見ただけじゃ歌詞と分からない。そしてポケットに入れて持ち出せる。天才か?

「付箋作詞法」を思いついてすぐ、溢れるように出てくる歌詞を次々と綴った。何枚にも重なった3色の付箋をポケットに入れて食堂に向かう。

急いで500円のランチを食べて、残された休憩時間はお気に入りのカウンター席で付箋をならべる。ノートに貼って構成を考え、歌詞をまとめる。曲のたまごができる。
わたしの一日で唯一楽しい30分間が生まれた。

家に帰ってギターでコードをつけてみる。次の日もまたその次の日も、ランチ後の30分のために会社に行く。

『熱に乗っていけ』ができた時、この曲は誰でもなく、自分へのメッセージだと思った。

勝手に期待されて勝手に失望される。畑違いと分かっていながら、本当にやりたい事もやらないまま、他人の評価のために必死に生きる。

そんな人生はもういやだ。

自由に生きてみよう、8月の熱に委ねるまま。


熱に乗っていけ / 亜美






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