何者
読書が好き。小説は人が書くから、人物の動作には必ず意味がある。行動からある程度の人間性が推測できる(し、作者もそれを望んで書いている)。
これは私が本にのめり込んだ理由を説明する上で欠くことが出来ないのだけど、私は周りとちょっと、ズレのある幼少期を過ごしていた。今もそのズレは埋まらないが、小学生の頃が1番如実に現れていた時期だと思う。空気が読めない代わりに、文字を読んで人の心理を知ろうとしてきたから、その癖が普段の生活でも抜けない。
だからいわゆる"媚び"が苦手。分かりやすくこちらを意識されると怖くなる。掴みどころがないように感じて、隠されているようで、むしろこちら側を見透かされているようで。
言い方が悪いようだけど、同性も異性も「分かりやすい人」が好きだなと思っていた。いわゆる天然な子、好きなタイプを包み隠さず話す人、表情に出やすい人、とか。
だけど、実際、現実はそう上手くはいかないのだ。人って結構、心の中で思っている事と違う行動をとる。私だって、心の中で(勉強しなきゃな...)と思っているのに部屋の掃除を始めちゃったりする。自分が悪いのを重々承知で母親に刃向かったり(お母さんいつもごめんなさい)。なんだったら私はそういうの多いタイプだと思う。
人の行動が、言葉が、丸ごと全てその人を表す訳ではない。表面だけで人間性を推し図ろうなんてのは驕った考えだ。どれだけ読書経験を積んだって、相手の本質は見えるようにはならないのだ。
最近「何者」を再読した。たくさん本を読むけれど、こんなに読了後の衝撃から帰ってこられなかった本は初めてで、図書室に返したあといつか絶対自分で買おうと思っていた。
就活の話で、6人の就活生達が主な登場人物。朝井リョウさんの小説はとにかく人間の解像度が高い。こういう人間はこういう行動をする、が本当に的確で、彼らは確かに現実世界に存在すると思わせる。Twitterという現代社会に溶け込みすぎたツールが巧みに織り込まれているのも、「何者」の現実感を助長させている。
人に勧めるなら、この本は「自分は第三者だと思って読んでいたら、最後に物語の中に立たされて心をナイフでえぐり取られる小説」って感じ。登場人物達に現実味があり過ぎるからこそ、どこかみんな共感できる部分があって、気付かぬうちに引き込まれている。特に主人公。最後のシーンは主人公への言葉か、あるいは本を読んでいる「観察者達」への言葉か。
これを読んでなお、私は「観察者」でいることを辞められない。だけどいつも心の片隅で理香がこちらを見つめている気がする。「そんな事したって何物にもなれないのにね」って。今まではそんなこと気づかずに、言動が人間の全てだと思っていた。なんて盲目なんだろう!私をじっと見据える理香がいないと、ずっと驕ったまま大人になるところだった。
読み返してもぐさっとくる、すごい本。映画も観ようと思う。
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