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あとからやってくる病

昔から、私はみんなと時間の流れ方がちがうんじゃないかと思っていた。
足も決断も行動も、なにもかもが遅い。そしてひと際遅いのが、頭の回転だ。
とにかく頭の回転が遅すぎる。

それを実感するのは口論のとき。
相手にワーッと言われると、私の脳は「どう言い返そう」と素早く回転するどころか、動きが鈍り、真っ白になり、カーッと血が昇って、熱くなって、なにも言えなくなってしまう。
言えない自分が恥ずかしくて、情けなくて、悔しくて。そんな想いが涙となって溢れ出る。
その結果「泣くなんて卑怯だ」と言われる。
こっちだって泣きたくて泣いているんじゃない! と言ってやりたいが、ただの負け惜しみにしかならないので言わない。
そう、泣きたくて泣いているんじゃないんだ。
なにも別に、カワイコぶってるわけじゃないし、泣けば口論が終わると思っているわけでもない。
それを「カワイコぶってる」「弱い子ぶってる」と思われるのもまた悔しい。
とにかく、泣いたら負けだ。
泣いたことで口論はうやむやになる。
しかし「あの時言い返せなかった私の想い」は心の中でずっと燻り、時間を経たのち、私の頭はなぜか突然回転しだすのだ。
そうだ! あの時ああ言えばよかったんだ!
けれどもその時にはもう、相手も「喧嘩なんてしてたっけ」と思うほど時間がたっていて、私のひらめきは言う機会すら与えてもらえない。
私はただ、言いたいことを言えないというストレスを受けるだけ。
なんて理不尽なんだろう。あとからひらめいたって、何一ついいことなんてない。

私はこれを「あとからやってくる病」と名付けた。
その時の感情、言いたいことが、その時現れずにあとからやってくる。だから、あとからやってくる病。

それはなにも口論に限ったことではない。
担当の編集さんと打ち合わせをしている時。
当然、私の書いたもの全てにオーケーが出るわけではないので、担当さんはその都度指摘してくる。
「〇〇ではなく△△にしましょう」ではなく、「〇〇ではない方がいいですね~(どうしましょう?)」という風に。
つまり、その場で改善案を話し合わなければいけない。
ここでも私は頭が真っ白になる。電話という、相手の顔が見えない場面だから余計に、なのかもしれない。考えているという沈黙がもう既に怖い。
結局「考えてみますね」に落ち着くのだ。
電話を切ったあと、頭の中でうんうん唸りながら考え、なんとか案を絞り出す。そして長文メールを送る。
私はいつも、ここでやりとりが増えるのがムダだなぁと思う。あの時電話口で返せていたら、あの場で良いなり悪いなり答えがすぐに出たかもしれないのに。そうしたら早く次の段階に進めたのに。
メールを送ってメールが返ってくる、この1ターンが時間のムダだ。そしてそのムダを作っているのは、間違いなく私。

あとからやってくる病のせいで、私は損をしているように思う。
その時、そのタイミングじゃなきゃできないことがある。
私の頭の回転があとちょっとだけでも速かったら人生をもっと楽しめたんじゃないかと思うと、なんだかやりきれないのだった。


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