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東大日本史の理論Ⅱ

続きです。

イメージをより具体的に

前回の記事「東大日本史の理論Ⅰ」に示したように、東大日本史は、日本史の知識を問うためだけの試験ではなく、日本史を媒介にして受験生の学力そのものを暴く試験だと言えます。

問題はいずれも、①日本史に関する基礎的な歴史的事象を、個々に暗記するだけでなく、互いに関連づける分析的思考を経た知識として習得しているか、②設問に即して、習得してきた知識と、設問で与えられた情報を関連付けて分析的に考察することができるか、③考察の結果を、設問への解答として、論理的な文章によって表現することができるか、を問うています。歴史的な諸事象が、なぜ、どのように起こったのか、相互にどのような関係や影響があったのか。それを自ら考えつつ学んできた深さを測ろうとしています。(東京大学「『地理歴史(日本史)』の出題の意図」2020年)

再び「出題の意図」を引用しましたが、受験生に求められている能力は、上の引用文から、「日本史の知識+資料文に反応し考察する力+論理的思考力と言語能力」だといえます。このようなことに留意して学習を進めましょう。

さて、ここまでが前回までの内容のおさらい+αです。

上にあげたようなことはいかにも抽象的で、実際に問題を解くイメージが湧かないかもしれません。もう少し具体的に説明をします。東大日本史を解く際の鉄則は、資料文を過不足なく利用することと、「資料文の評価」というプロセスを組み込むことです。

まず一点目。東大の問題は東大教授が熟慮を重ねて作った問題ですから、資料文に余計な要素はありません。可能な限り全ての要素に反応しましょう。

次に二点目。資料文は受験生がおよそ知らないような事も提示してきますが、(何度も言いますが)作問者は東大教授ですから、高校範囲を大きく逸脱したものは提示しません。求められているのは、「分析的に考察」する力です。自分の知識を使って、「出題者はどういう意図でこの文を提示しているのか=解答の中でどういう位置付けを与えることを期待しているのか」ということが見えてくるようになれば、解答のビジョンも自ずと見えてくるはずです。

これは執筆者が駒場の講義で習ったことですが、歴史学の基本プロセスは「問を立てる→史料批判→事実の解釈→歴史像の提示」です(詳しく知りたい方は岩波書店『東大連続講義歴史学の思考法』を参照)。このプロセスは、多少の違いはあれど東大日本史を解く際のプロセスに似ていると思っています。

東大が、入試において学問を受験生に体験させていると感じないでしょうか。日本史に限らず、東大入試にはそういう側面もあることを感じつつ、過去問を解いてもらえばと思います。

どのように解くか

さて、以上のことを踏まえて、解き方の一例を示します。もちろんやり方は人それぞれです。

これは、自分がベストと信じる方法を理由をつけて示したものです。批判的に検討し、取り入れてもよいと思ったことは取り入れて欲しいと思っています。

①資料文を概観する。
「何の文章か」、そして「全体的に何が言いたいのか」ということを掴みます。東大日本史は、『何かを読み取らせたいんだな』という問題が多くあり、おそらくその「読み取らせたいこと」「イイタイコト」を書いた答案は評価してくれます。そして、文章の細かいところに気を配る段階になるとそういう視点に戻るのは難しいので、最初にマクロの視点から説明文を見ておくことをおすすめします。

「イイタイコト」の大切さは下の記事を参照してください↓

場合によっては自分の知識と照らし合わせて文章同士の関係性を問題冊子に書き込んだり、知識を補足してもいいです。

②問題文を見る。
要求を掴みます。問題文の方を先に見る人もいますが、自分は、先入観が邪魔になる問題が出たときのことを考えて問題文を見るのは後にしていました。ここで、解答の大筋ができることもあります。

③改めて資料文を読む。
問題文を見た上で、資料文を精査します。東大日本史は「イイタイコト」があると同時に説明文に無駄はないので、マクロとミクロ両方の視点で眺める必要があります。説明文間の関係をもとに解答の論理構成を決めたりします。

④答案を書く。
これまでのプロセスをもとに答案を書きます。まずは下書きです。やり方は人それぞれですが、自分は「『イイタイコト』は何か・入れなくてはいけない要素は何か・それぞれどういう関係で繋がなくてはいけないのか」ということを書いて(頭の中で済ますこともありますが)、文章にして、字数や時間と相談しながら最終的な解答を決めるといった感じです。

いざ論述となるとめちゃくちゃな日本語になりがちかもしれませんが、めちゃくちゃな日本語=論理的思考力の欠如、と判断されかねません。自分は、
①一文の中で因果関係を表す接続詞(「ゆえに」「ため」)を多用しない。複数使う場合は文を分ける、
②「また」は論理的説明の放棄ととられかねないので極力使わない。
などのマイルールをだんだん決めていきました。最初うまく書けないのは当然ですから、段々自分なりの答案の書き方を見つけていきましょう。

論述表現に関しては、こちらの「補論」も併せてお読みください。


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