見出し画像

【CAST@NET vol. 007】様々なお茶の違いを科学する!

こんにちは!
私たちは「科学の面白さを多くに人に伝えたい」という思いで、実験教室やサイエンスショーを実施している東京大学の学生サークルです。

この科学コラムでは身の回りの不思議から数学まで、科学にまつわる幅広いテーマを楽しんでもらえるように書いています。
よろしければ、他の記事も見ていただけると嬉しいです。

今回のテーマは「香り・色・味から考えるお茶の違い」です。


5月といえば…

草木が生い茂ってきた今日この頃ですが、5月は新茶の季節だということをご存じでしょうか。そこで、今回は「香り・色・味」をテーマに、様々なお茶の違いについてお話していきたいと思います。

5月。お茶の葉も青々と茂っていますね。

そもそも、お茶ってなんだろう?

まずは、「お茶とは何か」ということから始めましょう。厳密には、お茶とは「チャノキ」という植物の葉っぱから抽出したものだけを指します。チャノキの学名は「カメリア・シネンシス」といい、カメリアはツバキを、シネンシスは中国を意味します。その学名が示すように、チャノキはツバキ属というツバキの仲間の植物なのです。実際、チャノキの葉はツバキの葉によく似ています。一方、麦茶やルイボスティー、ハーブティーなどのチャノキ以外の葉っぱから抽出されたものは「茶外茶」と呼ばれています。逆に言えば、緑茶であろうと紅茶であろうと、それらが厳密な意味でのお茶である限り、同じ植物の葉っぱから抽出されているということです。しかし、緑茶と紅茶では香りも見た目も味も違いますよね。このようなお茶の違いは、一体どこから来るものなのでしょうか?

暑くなるこれからの季節にぴったりの麦茶。実は、厳密な意味での「お茶」ではないのです。

お茶と発酵

端的に言ってしまえば、それは「発酵」の度合いの差異から生じています。お茶はその「発酵」の度合いにより、「非発酵茶」「半発酵茶」「発酵茶」「後発酵茶」の4種類に分類されるのです。具体的な名前を挙げると、非発酵茶には緑茶、半発酵茶ではウーロン茶、発酵茶では紅茶、後発酵茶ではプーアル茶といったものがあります。ただし、後発酵茶以外の3つのお茶でいうところの「発酵」は、科学的に正しい意味での発酵ではなく、あくまでも慣用的な呼び名に過ぎないようです。というのも、科学的に正しい意味での発酵では微生物の働きが関係してきますが、緑茶や紅茶の製造過程に微生物は登場しないからです。では、ここでいう「発酵」では、何が起きているのでしょうか?お茶に含まれる成分の変化に注目して見ていきましょう。

非発酵茶に分類される緑茶。日本で最もよく飲まれるお茶です。
発酵茶に分類される紅茶。世界では緑茶よりも飲まれています。

発酵により生じる香り

お茶の製造過程で「発酵」と呼ばれている化学反応が起こるのは、主に2つの工程においてです。1つ目は「萎凋(いちょう)」と呼ばれる、摘んだ後の茶葉の水分を飛ばすために広げて乾燥させる作業です。この作業により、「配糖体」と呼ばれる、糖と香気成分が結合した物質が分解され、香りが発されるようになるのです。半発酵茶であるウーロン茶や発酵茶である紅茶が「香りを楽しむお茶」と言われるのは、この工程を踏むからとも言えるでしょう。反対に、この工程を踏まない緑茶は「味を楽しむお茶」と言われています。

配糖体が分解され、香りが発される様子
https://www.shizuoka.ac.jp/cms/files/shizudai/agrcms/0100/2DaGHbnB.pdf
より抜粋

発酵により生じる色

2つ目は「揉捻(じゅうねん)」と呼ばれる、水分を飛ばした後の茶葉を揉む作業です。この作業により、茶葉に含まれるカテキンという成分が空気に触れることで酸化され、緑色から茶色へと変化していきます。非発酵茶の緑茶が緑色で、発酵茶の紅茶が茶色なのは、この反応が起きているか・起きていないかの違いによるものなのです。

お茶に含まれるカテキン類であるエピカテキン(左上1a)とエピガロカテキンガレート(左下4)が酸化されると、紅茶の色を作り出すテアフラビン(右上の化合物6)に変化します。
 https://doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu1962.40.513 より抜粋

味を決める3つの成分

最後に味の違いについてですが、これはお茶に含まれる成分の割合の違いによるところが大きいです。お茶の味を主に決めるのはアミノ酸・カテキン・カフェインの3成分と考えられており、大ざっぱに言えばアミノ酸は旨みを、カテキンは渋みを、カフェインは苦みを担当しています。この3成分のバランスにより、お茶の味をある程度まで説明することが可能です。例えば、緑茶にはほうじ茶や紅茶と比べてアミノ酸が多く含まれていますが、カテキンはあまり含まれていません。実際、身の回りにある緑茶飲料の宣伝文句には「旨み」という言葉がよく使われているかと思います。反対に、紅茶はカテキンが豊富で、渋みが特徴的です。

美味しいお茶を淹れるために…

このような性質を利用し、それぞれのお茶の成分に適した淹れ方をすることで、同じお茶でもより美味しく淹れることができます。例えば、カテキン類は冷たい水には溶け出しにくく、熱いお湯には溶け出しやすいという性質を持ちます。これを利用し、玉露を低めの温度のお湯で淹れたり、紅茶を熱湯で淹れたりすることで、それぞれ旨みと渋みを強調することができるのです。また、緑茶の中でも特にアミノ酸が多く含まれている玉露に特有の栽培方法として、「被覆栽培」と呼ばれるものがあります。太陽光をさえぎることによってアミノ酸の含有量が増え、反対にカテキンの含有量が減ります。これにより、旨みが増す一方で渋みが減ってマイルドな味わいになるのです。これは、アミノ酸が葉に蓄積され、太陽光を浴びるとカテキンに変化するという性質を利用したものです。

被覆栽培。太陽光を遮り、旨みを増やします。

おわりに

さて、お茶の香り・色・味の違いがどのようにして生まれるのか、理解していただけたでしょうか。香りや味といった感覚は主観的なものですが、科学の力でこれらを客観的に測ろうという試みを感じていただけたら幸いです。これから科学がますます発展していくにつれ、より美味しいお茶を飲めるようになるのかもしれませんね。

今回もお読みいただきありがとうございました。
ぜひ、他の記事もご覧ください。