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UT-Basecamp2期 振り返りレポート(後編)

2022年3月。UT-BASEが主催する自主ゼミ、UT-Basecampが再始動した。
以来、「最先端の教養を、最高峰の講師と。」をキャッチコピーに、文理を問わず次世代を担うための教養を身につけるべく、約30名のゼミ生たちが1学期間共に学んできた。
課題図書を通じてゼミ生たちが考えたこととは?
各界のトップランナーとの白熱したディスカッションの内容とは?
その全貌を、2回にわたる振り返りレポートでご紹介!
今回は後編(「ソーシャルビジネス」「ジェンダー問題」「メタバースとWeb3」回、そして最終発表会)をお届けします!

振り返りレポート前編もチェック!〜

5. 「ソーシャルビジネス」回

講師
安部敏樹氏(株式会社Ridiloverおよび一般社団法人リディラバ代表)
課題図書
「日本の民主主義の再評価」(日本国際交流センター)
参考図書

『なめらかな社会とその敵』(鈴木健)

設定された問い
【問1】
今あるソーシャルビジネスの例を1つ取り上げ、実際に取り組んでいる内容やその仕組みを調べてみましょう。
【問2】
課題図書の中で取り上げられている、日本における「市民社会」(p.4 -)を現在どのようにあなたは捉えていますか?これからどのような捉え方ができると良いでしょうか?
・日本における「市民社会」を言語化することで、日本で行われるソーシャルビジネスのあり方を考えましょう。
・これからの展望を考える中で、参考図書「なめらかな社会とその敵」の内容も踏まえられるとより良いです。
【問3】
問2で考えたような現状を、これから目指したい捉え方に変えていく過程において、ソーシャルビジネスでどうアプローチしうるか考えてみましょう。

ゼミ生からの質問(抜粋)
・ソーシャルビジネスで取り組むべき範疇とは?
・社会貢献の自覚がある状態が理想なのか、社会貢献が無意識になるのが理想なのか
・課題解決を自分ごととして捉えるためのブレイクスルーは何か

私たちは社会問題に対してどのように取り組むことができるか。次世代を担うリーダーの一人として、そして比較的恵まれた立場にいる私たちは何をすることができるのか。

ゼミ生はそういった思いを胸に、東京大学在学中に社会課題に取り組む学生団体「リディラバ」を立ち上げ、現在一般社団法人・株式会社リディラバの代表をされている安部敏樹氏をお迎えし、議論を行った。

特に論点となったのは「私たちは社会課題をどのように自分ごととして捉えることができるだろうか」ということである。安部さんは、社会課題に関心のある人の要素として「越境体験によるマイノリティになっている」ことを挙げた。自身がマイノリティになり居心地の悪さを経験することで、他人のマイノリティ性に気づくこともできるようになるというのだ。

現代において、社会問題は大きく「都市型」と「地方型」に分けることができ、前者におけるマイノリティは社会的流動性が高く、後者は流動性が低いという。そのような中で、マイノリティとしての明確な「原体験」は必要ないけれども、自分の体験に意味を付与するには、違和感に気づく力、そしてそのインプットを主体性に変えられる力が重要だということだ。

議論を終えて、ゼミ生からは「これまで『ノブレスオブリージュ』という言葉に空虚さを感じていたが、社会的想像力を養うという考え方にすごく共感した。自分もそのような力を養いたい」という声も聞かれた。

6. 「ジェンダー問題」回

講師
上野千鶴子先生(東京大学名誉教授/NPO法人WAN理事長)
課題論文
「東大インカレサークルで何が起こっているのか ―「東大女子お断り」が守る格差構造-」
課題記事
「上野千鶴子名誉教授インタビュー・余録 「東大の女性差別」が映し出す東大の課題、日本の問題」

設定された問い
【問1】
「東大インカレサークルにおける二重のジェンダー差別構造は、ジェンダー意識の低さに伴う罪悪感の無さ、偏差値ヒエラルキーに基づく男子の傲慢さと他大女子の低姿勢、インカレサークルに対する東大女子の嫌悪感など、さまざまな要素が絡み合って成立している。(p. 66)」とありますが、
(a)東大内でのジェンダー意識の低さをはじめとする要素(論文で挙げられている要素)は改善の道にあると思いますか。
(b)「二重のジェンダー差別構造」を支えている要素のあなたなりの観察、分析を教えてください。
(c)(b)に基づいた解決策としてどのようなものが考えられますか。
【問2】
「東大の女性差別」が映し出す日本の問題にはどのようなものが挙げられると考えますか。
【問3】
課題論文や上野千鶴子先生の記事を読んで、東大女子を増やすためのアファーマティブアクション(クォータ制導入、AO入試拡大について)の是非についてあなたの意見とその理由を教えてください。

ゼミ生からの質問(抜粋)
・弱者が弱者として尊重されるということについて。弱者として尊重される社会は生きている間にできないかもしれない。そんな中で「強者」を目指すことは悪いのか。「ノブレスオブリージュ」を問い直したい。
・全ての東大女子お断りなインカレサークルがなくなったとしても、東大生の差別の意識が変わるとは思えない。根本的に性差別の意識を変えるには具体的にどのようなことが考えられるのか。
・(ゼミ生の)母校の校則に存在した、男女によって異なる最終下校時間について。

参与観察をもとにした東大女子お断りサークルについての論文を読み、国内におけるジェンダー差別の構造や、その縮図としての東大におけるジェンダー差別について白熱した対話が長時間に渡って続いた。

東大に内在する問題についての論文であったこともあり、パーソナルな経験の共有から問題の解決策に関する質問までさまざまな視点から議論が繰り広げられた。論文やそれが明らかにする根深い既得権益への執着や性別役割分業。違和感を感じている人がいても変革が起きにくい年功序列の構造。

対話の終盤では、「どうすれば、問題に対する人々の意識を変えることができるのか」と言った質問が出たが、その際の上野先生の力強い発言にゼミ生は感銘を受けた。

社会の変革には、ホンネの変化ではなくタテマエの変化が重要
例えば痴漢をなくすことはできなくても、「痴漢は犯罪です』というタテマエができれば、痴漢はやってはならないことになる。
ホンネをすぐに変えることは難しい。けれど、タテマエの変化により公の場でしていいことと悪いことがハッキリとする。

最後には、上野先生がどのように東大内に実際的な変化をもたらしたのかについて伺うことができ、実りの多い回となった。

7. 「メタバースとWeb3」回

講師
国光宏尚氏(Thirdverse 代表取締役CEO)
課題図書
『メタバースとWeb3』国光宏尚 

設定された問い
【問1】
現在のWeb2.0に対してあなたはどのような不満がありますか?
【問2】
メタバース・Web3について、どのような変化(社会的・思想的・経済的)が起こると思いますか。その便益・弊害はどのようなものがあるでしょうか。「あなた」「大学」「社会」を主語として考えてみてください。
【問3】
メタバース・Web3(特にNFT、DAO、DeFi)は、今あるどのような問題に有効だと思いますか?

ゼミ生からの質問(抜粋)
・著書はメタバース・Web3を礼讃する内容だったが、そんな国光さんにとって、それらの欠点や怖い点は?
・バーチャル空間での消費活動について、メタバースやNFTはキャズムを越えることはできるのか。必需品、消耗品がないバーチャル空間での経済活動はブームが終われば停滞することもあり得るのではないか。
・メタバースやバーチャル空間における偶然性のデザインについて。
・メタバースが物理世界に優越するくらいの地位にはならないのではないかと考えた。国光さんは、なぜメタバースで生きる時代が来ると確信を持って語ることができるのか?

「Web3」がバズワードになる前からそれを提唱してきた国光宏尚氏との議論。
「メタバースにおいて、偶然性やノイズは擬制できるのか」「アイデンティティを選択できること」「自由意志は存在するのか」「人文学の意義は何か」など、概念的な論点が多く挙がった。

技術の発展を礼讃する国光氏と、技術の規制も必要であるとする学生の間で、意見や価値観の大きな対立が見られた。また、メタバースの成立そのものに懐疑的な学生が多く、議論の基盤が共有できていない場面も時折見受けられた。
スマートフォンが開発される前までは、世界のあらゆる情報が15cm平方の画面において展開されるとは誰も思ってもいなかったように、ゼミ生は自らの世界認識が「物理世界」に依然として固執していることを実感した。

池上先生との人工生命回に通ずる、価値観が転覆される楽しさや、科学コミュニケーションや科学ジャーナリズムの重要性を痛感させられる討論であったことに変わりはない。また、初回の千葉先生の「自分の世界を逸脱した世界において何をどのように語り得るか」という言葉にも通ずる、刺激的な時間となった。

8. 最終発表会

最終発表会では、UT-Basecampでの経験を通じて自身が考察を深めた内容について形式を問わず成果物を作成し、それを共有した。
ゼミ生は皆、講師の方々の言葉の中で自分に響いた言葉を取り上げ、そこからさまざまに施策を深めており、どれも非常に興味深いものだった。
ゼミ生からは「自分の成果物にさまざまな人からフィードバックをいただけること、また他の皆さんがそれぞれ考えた内容を知ることができること、いずれも非常に刺激的な時間だった」などの声が聞かれた。

以下、最終成果物の一部。
「文章と感情」
文学作品を読んで引き起こされる感情は、どこから起こっているのか。AI技術を使用して考察を進めている。

「教養とは何か」
UT-Basecampの標榜する「教養」を得ることはできたのか反省することから、「教養」とは何かについて考察している。

「これからのUT-Basecampを考える」
UT-Basecamp2期で得た体験を踏まえて、次期のUT-Basecampはどうあるべきかについて考察している。

「タテマエとホンネ」
日本におけるタテマエとホンネを概観した上で、東大のジェンダー問題を見つめ、改革のためにはどうすれば良いか考察している

9. おわりに

「最先端の教養を、最高峰の講師と。」
このスローガンのもと、6つのテーマを1セメスターかけて扱い、学びを深めたゼミ生たち。
大学の講義では扱われない、新たな学びを得ることができたことだろう。また、その過程で、かけがえのない友を見つけた者もいたようだ。
学びのコミュニティとしてのUT-Basecampでは、独自の読書会や勉強会が創発する。UT-Basecampを経て成長したゼミ生各自が中心となり、人と知の輪が広がっていくことを願って止まない。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
振り返りレポート(前編)では、「学びとは」「メディア」「人工生命」回をご紹介しています。
是非併せてご覧ください🙌

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