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ぼくたちが赤ちゃんに振り付けられるまで ー『子どもの身体を踊る』開催レポート

2019年3月24日(日)、『子どもの身体を踊る』と名付けたワークショップが開催されました。ひとまず体験したことをダーッと書いてみます。(公式レポートは主催のミミクリデザインさんが書いてくれるはず!)

このワークショップは、ミミクリデザインが主催する学習コミュニティ「Workshop Design Academia(以下:WDA)」の「研究会」として開催されました。WDAでは、対話、意味のイノベーション、グラフィックレコーディングなど、様々なテーマの「研究会」が豪華なゲストをむかえて開催されています。

ミミクリ代表の安斎勇樹さんとリサーチャーの青木翔子さんには、ぼくが運営していた赤ちゃん向けワークショップの視察をしていただいたことがあり、そのご縁から研究会を一緒に企画させてもらうことになりました。

赤ちゃんを相手にファシリテーションするとき、ぼくは赤ちゃんの身体を借りて世界を見る「Baby View」の視点を大切にしています。この研究会『子どもの身体を踊る』は、この「Baby View」を誰もが体験可能なものにすることを目指しました。といっても、ただ赤ちゃんを真似するだけではワークショップになりにくい。

そこで、ダンサー/振付家として、他者の身体をなぞる「トレース」をつかって創作されている砂連尾理さんとのコラボレーションを依頼しました。赤ちゃんだけでなくいろんな年齢の子どもの身体をトレースする「ダンス」を展開してみたい。これが今回の企画のねらいでした。

*企画の経緯はこちらのnoteに書いております。ぜひご参照ください。

そんなわけで開催されたこちらのワークショップ、ぼくにとってとても大切な1日となりました。それでは、ぼくの主観で1日をふりかえってみます。

9:00 準備1

ミミクリデザインのみなさんと会場の準備をするところから。会場となった東京大学福武ホールの3部屋のパーテーションをとって大きな部屋にし、授乳室と子どもの休憩スペース、そしてメインのスペース、グラフィックレコーディングの準備などをすすめる。

10:00 準備2

砂連尾さんと、保育士の2人、菊地みぎわさんと三輪ひかりさんが会場入り。挨拶をしたり、進行を確認したりしてオープンを待つ。

10:30 会場オープン

ぞくぞくと参加者の方々があつまってくる。子どもが実際に入ってくると、場の空気がなごやかでありながら「大丈夫だろうか・・・」という不安をともなった空気に変わる。

10:50 開始直前

ゆるやかに、砂連尾さんとぼくとでトークをしながら、スタートを待つ。タイムテーブルや会場構成、授乳スペースやおむつ替えの場所、お手洗いの位置などを伝えていく。

当日集まった子たちは、0歳から中学生までの多様な年齢の20人弱の子どもたち。3~7歳が一番多かったかな?

11:10 呼吸とストレッチ

参加者の方がそろってから、いざスタート。まずは呼吸を整え、ストレッチで身体をほぐす。

参加者の緊張がほぐれていない。子どもたちはまだ緊張している子もいれば、早速仲良くなってはしゃぐ子たちもいる。鳴り響くノイズの中でワークをするストレスフルな空間に不安感が漂いながら、砂連尾さんは動じず、ゆったりと進行していく。ぼくもノイズに飲まれないよう、砂連尾さんの時間軸に調子を合わせながらふるまう。

ペアストレッチでは、介助する人が相手の身体をのばす。「こんなに伸ばしたらヤバイのでは?」と思っても、意外と人は「痛た気持ちいい」と感じる。そのためには少し相手に対してふみこまなければならない。他人の身体に触れるだけでなく、力を入れて触れる。そのことで日常の中に引かれていた自他の境界がゆらいでいく

11:30 合気道

さらに合気道の「ハラ」のイメージをつかむワークをする。両腕を伸ばす。手首を持ってもらって、押してもらう。押される力を腕で踏ん張ってこらえようとしない。そうではなく、相手の力を自分のハラまで落としてから相手に返すイメージで、循環させる。そうすると、ぐっと動かなくなる。このワークには少し子どもも参加して、徐々に場が落ち着いてくる。

とはいえ、まだまだ容赦無くなり続けるノイズ。そのノイズのなかで、不安感をまとう参加者のみなさん。そのときの様子をふりかえりながら「一人一人が緊張で、見えない個室に入っているようだった」という砂連尾さんの言葉が印象に残っている。

12:00 握手しない握手

そこで、予定にはなかったワークを砂連尾さんが呼びかける。

まずは、会場を歩きながらいろんな人と「握手をしそうでしない」というワークをする。普通、目を合わせて手を出して握手をし、しばらくしたら手を離す。しかし、このワークでは、合図なく握手をはじめ、はっきりとした終わりがないまま握手をやめる、ということをする。

10分ほど動いてみる。ぼくもワークに混じる5歳の男の子にむかってゆっくりと手を差し出すと、「あ、握手ね」という顔をして手を差し出してくる。その手をなかなか触れあわせないようにすると「ん?なんだ?どうすればいいんだ?」と一瞬困惑する。彼もいたずらをしかえしてやろうと考えたのか、別の手を差し出したり、手をさかさにしたりする。それに応答してぼくは身体をさかさにしてみる。そうすると彼はケタケタと笑う。

参加者のコメントを聞くと、「相手によってやり方が違う。すごく時間をかける人もいれば、あっさり握手しちゃう人もいる」「普段やらないコミュニケーションで、心が温かくなった」というようなコメントが出てきた。

このとき、ワークに入れなかった子どもたちは、休憩スペースでスタッフの人たちが用意をしてくれた画用紙に絵を描いたりして過ごしていた。というと聞こえは穏やかだが、なにをしていいかわからない不安感が子どもたちの中にもあったのだろう、落ち着かなさがうずまく場になっていた。

12:15 触れ合わずたゆたう

今度は、握手ではなく、触れあわずに動いてみようという砂連尾さんの提案。場全体の動きを感じながら、たゆたゆように動いてみようという。一人一人が川の水面に浮かぶ木の葉のように、たゆたう

絵を描いていた子どもたちは、「おばけだ!」といってはしゃぎはじめる。たしかに、子どもたちが笑いかけてもレスポンスをせず、ゆらゆらと近づいてきては遠ざかっていく様は、おばけっぽい。いいリアクションじゃん!おばけ!とおもってぼくはテンションが一気に上がる。

それまでは、スタッフ、大人の参加者、赤ちゃん、幼児たちといった分断された時間がながれてた。だが、午前中の最後になってようやく、会場全体に1つの流れが感じられるようになった

12:30 お昼やすみ

そんなこんなで午前の部があっというまに終了する。お昼ご飯はスタッフの方にお弁当を用意していただいて、参加者のみなさんと会話をしながらご飯を食べる。さきほどストレッチでペアワークをしたためか、誰1人孤立することなく、福武ホールがピクニックの会場みたいになっていた。

保育士チームと話し合い、子どもの遊びスペースを大人のワークスペースに溶け込ませることを試みる。より、分断の少ない空間にさりげなくアレンジしていった。

13:30 午後の部スタート

気功の動きをして呼吸を整えるところからスタートする。合気道の技の掛け合いをして、あいての「痛気持ちいい」をさぐる。

13:45 人の動きをトレースする

次に、砂連尾さんや参加者の動きの真似をする。

何も考えず、遊びとして楽しい。ダンスをされている参加者の方が多かったので、実際に動いてもらう。ダンサーじゃない人の動きもやってみる。

14:00 物を身体でなぞる

今度は空間、物などをトレースする。デボラ・ヘイという振付家の考え方を、砂連尾さんが実演。指や手、足などで、窓や壁の線、机、パソコンなどをスケッチするように、なぞるように動かしていく。とてもダンスフルな動きになる。

参加者のみなさんの集中力がかなりあがってきているのがわかる。10分ほど空間をトレースしていただろうか。

その間、子どもたちは、夢中になってトレースに参加している子もいれば、「大人たちは一体何をしているんだろう」という顔をときどきしながら、走り回る子もいる。砂連尾さんやぼくのマイクをうばって「あー!」と声を出してケタケタ笑う子もいれば、グラフィックレコーディングをする坂間さんの近くで一緒になって絵を描いている人もいる。

悪く言えば、暇をもてあましてふざけている。よく言えば、大人たちの活動を尊重しながら、彼らなりに好奇心がおもむくままに、その場にいる

ぼくらが空間を節操なくスケッチするダンスに勤しむように、彼らはマイクがあれば声を出し、画用紙とペンがあれば線を描き、大人がいればタックルし、机があればしたにもぐる。そういうかたちでのダンスだと言えなくない。

14:20 雲をトレースする

ひとしきり物のスケッチを見た後、砂連尾さんの提案で「外に行って雲をトレースしよう」という。みんなで外に出る。5分間の間に雲を見て、雲を指や手でなぞってみる。

会場に戻ってから、見てきた雲のトレースを再現。手のひらで雲の輪郭を再現する人もいれば、体を大きく使って雲を描く人、指でつまむようにまだらな雲を表現する人。これはなかなか壮観な雲のダンスだった。

14:30 抱っこされる

残り30分。この段階までで、2時間半、ストレッチで身体をほぐし、ハラで力を返すイメージを共有し、始まりも終わりもないたゆたいの動作をし、さらには人や物や雲のトレースをしてきた。物理的な身体と、関係性と、そしてイマジネーションがほぐされた状態に、やっとなってきたと砂連尾さんは感じたのだろうか。

大人になってから、人に抱かれるっていう経験ってないですよね」「ペアで抱く/抱かれるワークをやってみよう」と、砂連尾さんが提案する。知らない人同士や親子で抱っこをしあってみる。ぼくも砂連尾さんに抱っこしてもらったのだけど、照れや不安をいったん脇に置いて、自分の身体をたんなる物だと思って力を抜いてみる。そうすると、物として身をあずけたのち、次第にポーッとした安心感が湧いてくる。

14:40 子どもの身体を踊る

そしていよいよ子どもの身体をトレースする。まずは、近くにいる子どもをトレースする。大人からきゃっきゃと逃げ惑う子もいれば、「こんな動きできる?」と煽るように特殊な動きをする子もいる。

あとで話を聞いて知ったのだけど、この時、トレースする大人をよそに画用紙の取り合いをしていた子たちがいた。それで怒っていた子がいたそうだ。でも、その子のお母さんは怒りをなだめたり、叱ったりすることなく、怒った子が画用紙を投げる様子を、トレースしていたらしい。

そんななかで、1歳近くの赤ちゃんたちは、真似されていることに対して明確なレスポンスが少ない。

1歳近くの動じなさに気づいた砂連尾さんが「2グループに分かれて、赤ちゃんのトレースをしよう」と提案。

1つのチームは、生後6ヶ月で、まだ寝返りをしたことがない子。

もう1つのチームは、1歳過ぎて、よちよちと歩き始めた男の子。

赤ちゃんの後ろに、大人や子どもがごろごろとねころがってトレースをする。あるいはよちよち歩きを再現する。乳幼児に振り付けられる大人たちのダンスは、この日のハイライトだった。

あとでわかったのだけど、6ヶ月の男の子は、トレースされていることが嬉しかったのか、それまでする気配すら見せなかった寝返りを、この日初めて決めてくれたのだそうだ。

15:00 クロストーク

ワークショップが終了する。参加者の方に3人組ぐらいになってもらい、感想を聞く。ちょっと「乳幼児に振り付けられる大人のダンス」があまりに良過ぎて、この時の記憶がない。

つかれた、ねむくなった、役割を脱いでたゆたうことの価値を考えた、といった感想があるなかで「危険な扉を開けてしまった気がする」というようなコメントをもらったことは覚えている。

安斎さんと砂連尾さんとのクロストークも、なんかいろんなこと話してたんだけど、何を話したっけか・・・・。ミミクリさんの公式レポートを待ちましょう。

打ち上げで話したこと/当日の感想

そんな感じで、15時以降はもうなんか朦朧としていて、打ち上げで餃子を食べにいったのだけど、正直何を話したか覚えていないのです。砂連尾さんに「臼井くんはヤクザな良さがあるから、この企画の話を受けたんだよ」と言われたことは覚えていて、そしてとても嬉しかったこともおぼえています。

おぼろげな意識のなかでツイートしたのは、こんなことでした。

今後書きたいこと

「で、このワークショップって一体なんだったの?」「なにがきみにとってチャレンジだったのさ」と自分に問いかけています。描きたいテーマはたくさんあるんです。たとえば・・・

❶どうすれば「その場そのもの」になることができるのか
❷印象に残った4つのシーン。
 怒る子のトレース/砂連尾さんが子どもの頬をつねったとき/
    初めてのトレース・はじめての寝返り/節操なく踊る身体そのもの
❸フィクションを信じることで何が起きるのか
❹赤ちゃんから大人まで多様な参加者を招くワークショップのつくりかた

など。今後継続して更新していこうと思っています。

謝辞

長くなっているのですが、最後にもう1つだけ。今回この企画にご協力いただいた方々に御礼をお伝えしたいです。

今回の企画は、ぼくもやったことのない、不確実性の塊でした。何より、怪我や事故なく乗り切ることができたのは、ひとえにみなさんのおかげです。当日は、トラブルがなかったわけではないはずです。子どもが落ちつかずに走り回るなかで、多くの気苦労があったことを想像します。次々に現れる小さなトラブルの芽をみなさんが迅速につんでいってくださったおかげで、ワークショップをなんとか終えることができました。

ミミクリデザインはアートマネジメントの専門家集団ではなく、かつ子どもの専門家集団でもない。にも関わらず、アーティストと子どもと大人の参加者を、いままでやったことのないかたちで混ぜ合わせるのは、とても不安だったと思います。

でも、だからこそ今回の企画は成立したと思います。子どもに過剰に奉仕しようとも、アート業界に忖度しようともしない、独自の価値の探求をすることでしか見出せないものがありました。それはひとえにミミクリデザインのポテンシャルそのものだったように思います。感動しましたし、ますますファンになりました。

そして、砂連尾理さん。かねてから作品を拝見していましたが、こうして一緒にお仕事できるようになったことを、本当に嬉しく、そして誇らしく思います。この一年、砂連尾ゼミ、小津ダンス、妊婦と踊る、などなど、砂連尾さんの活動をしつこめに追いかけてしまいました。今後も継続してフォローさせていただきます。ぜひまたお仕事ご一緒させてください。

砂連尾さん、ミミクリデザインの安斎さん、青木さん、鷹取さん、竹田さん、水波さん、坂間さん、松崎さん、風花ちゃん、ブレストにつきあってくれた旭くん、見学にきてくれた小田さん、そしてサポートできてくれた保育士の菊地さん、三輪さん、砂連尾さんを紹介してくれたオバマくん、何よりも参加者のみなさんに、この場を借りて感謝を申し上げます。

ありがとうございました。


photo:水波洸(ミミクリデザイン)

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ぼくも!!!
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子ども向けワークショップの企画・運営が得意です。noteでは発達心理学や認知科学をベースにした「赤ちゃんの探索」、ワークショップの作り方やアートの見方についての「アート・ワークショップコラム」を連載しています。株式会社Mimicry Designディレクター
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