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アートの探索遠足#2 アーティゾン美術館レポート

2020年2月29日「アートの探索遠足」を開催しました。

この企画は、臼井隆志の定期購読マガジン「アートの探索」をご購読いただいている方々と一緒に美術展に足を運び、対話型鑑賞を楽しむゆるいイベントです。毎月第4or第5土曜日に実施を予定しています。

今日はその第2回のレポートを書きます。

目的地:アーティゾン美術館「コレクションの現在地」展
対話した作品:
・ウンベルト・ボッチョーニ「空間における連続性の唯一の形態」
・ヴァシリー・カンディンスキー「自らが輝く」
・オシップ・ザツキン「母子」
・黒田清輝「ブレハの少女」

コロナウィルスが世間を賑わせるなかで、この遠足企画も実施するかどうか悩んだのですが、こんなときに美術に触れる意味を感じたくて、実施しました。ぼくを含め、7人で遠足に行きました。

今回の目的地はアーティゾン美術館。東京駅・日本橋・宝町の間に位置する場所で、建物ごとリニューアルした旧ブリヂストン美術館です。オープン記念となるコレクション展は、美術史のなかのスーパースター勢揃いといわんばかりの豪華絢爛な展覧会でした。

オンラインでチケットを購入し、QRコードを読み取って入館。入館前には空港の検査機のような機械を通過してから入るのも印象に残りました。

展覧会は、思っていたよりも人がたくさん集まっていて、このコロナ騒動のなかで心の換気を求めるかのように美術を求めているのではないかとかんじました。

最初の彫刻作品「空間における連続性の唯一の形態」

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6Fでは20分ほど自由に鑑賞したのち、最初の作品で対話型鑑賞を行います。ウンベルト・ボッチョーニの「空間における連続性の唯一の形態」というブロンズ彫刻作品です。

1913年につくられたこちらの作品は、走るように足を広げた人型が、そこにまとった筋肉や鎧が炎のようにうねった抽象的な彫刻でした。

「鎧みたい」
「男性の筋肉質な印象を感じる」
「ファイト一発的なかんじ」
「骨の造形がされているのでは?」

といった意見がぽつぽつと語られるのを「どこからそう思ったんですか?」と問いを立てて、作品の観察を深めていきます。

彫刻作品は見る角度によって表情を変え、解釈が変わっていきます。

文字通り360度なめまわすようにながめながら

「お尻の筋肉や肩甲骨のようなかたちがある」
「このゴツゴツしているのは喉仏の骨なのでは?」

こんなふうに考察が深まっていきました。

ボッチョーニは未来派を代表するアーティストで、この作品には飛行機やサッカー選手といった当時の先端性の象徴があらわされていたそうです。この作品のマッチョなかんじは、未来派がのちにイタリアファシズムに受け入れられたことを考えると、また別の意味を帯びてきます。

ふたつめの抽象絵画「自らが輝く」

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ふたつめに鑑賞したのはヴァシリー・カンディンスキー「自らが輝く」という抽象絵画でした。

カンディンスキーは抽象絵画の先駆的なアーティストで、作品もさることながら美術理論化としても有名です。

「R」や「A」といったアルファベットのようなかたちと、幾何学的な図形が色調豊かにおりかさなるこちらの作品は、一見すると読解が難しく、ぼくもこれまでカンディンスキーについてあまり深く鑑賞したことがありませんでした。

「心臓のような、臓器みたいな有機的な感じをうける」
「お菓子の家みたいな、ファンシーな感じがする」
「部屋の中に街があり、そのなかに宇宙があるような、ありえない組み合わせが広がっているよう」
「かちゃかちゃ、ぼわーん、みたいな音を感じる」
「左側の四角が気になる」

といったように、心臓、お菓子の家、都市、宇宙、音といった見立てが繰り広げられていきます。抽象絵画をめぐって対話する魅力は、人の「見立て」を聞くたびに、見え方が変わることです。

同じものを見ているはずなのに、まるでモーフィングするようにかたちがかわったように感じるのが、対話型鑑賞の不思議な感覚なのです。

この2つを熱心に鑑賞すると、もうみんなだいぶ披露してしまったので、残りの二つはライトに鑑賞しました。

3つめの作品「母子」

フロアを変え、みんなが自然と集まって対話をはじめたのがオシップ・ザツキン「母子」という作品でした。

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最初は

「赤い猿に見える」
「どうしてこんなヘンテコな首の角度なんだろう」

といって、おもしろおかしく鑑賞していたのですが・・・

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背中の方を見てみると、かなり背中が丸まっていることがわかりました。そのポーズを実際に真似してみると、力がぬけ、うなだれてしまった母親の感情が、対話をしていたメンバーに伝播するような感覚がありました。

「もしかしたら、腕に抱いた子が亡くなってしまったのかもしれない」
「だから、手を開いて、抱くこととを断念しているのかもしれない」
「右腕が描かれていないことは、喪失を表しているのかもしれない」

と、考察しながら、この彫刻で描かれた母親へのシンパシーが生まれていきました。

彫刻作品において、背中を見て、ポーズをトレースしてみて対話することで意味が浮き彫りになる体験は、非常に新鮮でした。

参加していただいた方々の感想

まとめ

今後「アートの探索遠足」最初15分は自由鑑賞・1時間ほどの対話をしてまた15~30分自由鑑賞をする、というぐらいのボリュームでも良いかな〜と思いました。

ふしぎなことに、本物のアート作品を前に2時間対話しつづけるのは、かなりつかれるのです。対話型鑑賞は、作品に描かれたもののかたち・テクスチャ・光・空間を感じながら、作品の意味を推察したり、類推したりします。脳内が超複雑なマルチタスクをしている状態です。

ただ、だからこそ、頭にいい汗を書いて心地よい疲労感をおぼえる、知的エクササイズなのです。

この騒動のなかだからこそ、こうした知的なエクササイズは需要がありそうなものですが、多くの美術館が休館しています・・・。次回、もし実施できないとしたらオンラインで対話型鑑賞をやることにしたいと思います。次回まで、しばしお待ちください!


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