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アヴァンギャルドは完璧な人材不足だ、と清志郎さんが言ってたけど。

最近、思い出がポロポロ落ちてくるから書き留めておこう。考え事ばかりしてるから、「思い詰めた表情でお茶注いでたよ」なんて言われる。ただ単に思い出したことを言葉に変換しようと試みているだけなんだけど、他人には、物思いに耽っているように見えるみたい。気を使わせてしまうのは気の毒だから、人前で考え事はしない方がいい。だから、私の部屋で、私の手帳に、自分だけの言葉で、とりとめもなく、ポロポロ落ちてくるだけの思いを、書き留めておくことにしよう。

子供の頃、パンの耳が沢山入った袋が10円で売られていて、これで私は一生生きていけるって思ったことを思い出した。私は食パンの白くてふわふわの部分があんまり好きじゃなくて、耳が大好きだった。耳ほど美味しい。耳しかいらない。世間は、私が美味しいと思わない方が好きで、私は、そうじゃない方が好き。それって得なことだなって思ってた。

あれから、私は花屋に通う。菊は蕾の方が人気らしいけど、私は開いた菊が欲しい。「開いた菊はないですか?」と訊くから、花屋さんも最近はわかってくれていて、行けば開いた菊を沢山おまけしてくれる。蕾は咲かないまま腐って落ちることが多いのに、開いた菊は、豪華で、蕾の菊よりもずっときれいだし長持ちする。今は、開いた白菊の花束が私の一番のお気に入り。私はまた、開いた菊とパンの耳でしばらく生きていける。

高校生の頃、全然欲しい服が売ってなかったから、洋裁教室に通って自分で服を作ってた。作れない服は、高校生には高価な、たまたま見つけたお気に入りの店でいつも買ってたのだけど、ずっと後に、そのブランドがヒステリックグラマーだと知った。何にも知らずに、ヒステリックグラマー着て、パンの耳食べながら洋裁してた私が面白くってね。そんなことを思い出して、思い詰めた表情でお茶注いでたのよ。blues聴いて、ヒステリックグラマー着て、友達もいなくて、ずいぶん変わった子だった。

近頃、テレビのコマーシャルは「人と同じ道じゃつまらない」とか、「はみ出したっていい」とか、「常識より非常識を」なんて、逆に同じようなことばかり言っている。私には、お手本を薄紙でなぞってるだけのペラペラの言葉に感じてしまうだけでなく、もしも、無垢な若者や、常識や基本がない人がまともに受け止めてしまったら、かえって危険なんじゃないかと思うことがある。私は生まれてからずっと、人と違うと感じていたけど、気付いたらはみ出していただけで、はみ出したいと思ったことはなかった。そして、大人になって、勉強すればするほど、基本が一番大事だと知った。洋裁なんて、完璧に基本がないとできないからね。基本が大事。常識は大事。合わないと思う常識があれば、改良すればいい。非常識でいいわけがない、非常識より思いやりが大事、と、私はいつも思っている。

とにかく今の時代、コンテンポラリーは腐るほど有り余ってるけど、アヴァンギャルドは完璧な人材不足だ。と、かつて清志郎さんは言った。しょっちゅう流れるハイクラス転職のCMも、これぐらい気の利いたことが言えないものか。その「今」だって、もう20年も前。さらにアヴァンギャルドに憧れたアヴァンギャルド風で溢れた今の時代、本物のアヴァンギャルドを見極める方法は、基本があるか、良識があるかどうか、だと思う。清志郎さんにしても、タモリさんにしても、実際、月が水瓶座のアヴァンギャルド星座だけど、美しい言葉遣い、美文字、博識、完璧な基本と、良識がある上質な人。そもそも常識がないとはみ出せないし、はみ出し過ぎたら事故るだけ。本物のアヴァンギャルドは、常識に囚われないということに囚われていない。本物は自らはみ出そうとせず、自然に、ただそこにいるはずだから、よく観察して見つけるといい。

そういうわけで、ポロポロ考え事ばかり落ちる私の、とりとめのない独り言はまた続くだろう。今日はママの月命日。明日はWOWOWで、my room。満中陰の日に見たあのすごいコンサート。やっとだ。2ヶ月楽しみに待った。明日は、美容室行って、大塚さんと話して、できたもの買って、早く帰ろう。涙目で歌う宮本さんを、あのすごい「冬の花」を、ママにも見せてあげよう。


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