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「おもてなし」と「テキサス野郎」

滝川クリステル氏のプレゼンのおかげで「世界共通語」と化した「O・MO・TE・NA・SHI」だが、おもてなしとは一体何なのだろう。

「おもてなしとは」でググってみるといろいろと出てくる。

・心のこもった待遇
・顧客に対して心をこめて歓待や接待やサービスをすること

あたりが一般的か。こちらのサイトでは「おもてなし」とマナー・サービス・ホスピタリティの違いを解説し、「おもてなしとは最上級の目配り・気配り・心配り」としている。なるほどなるほど。


とはいえ、やってはいけない「気配り・心配り」も存在する。例えば結婚式の招待状。たとえ「相手の手間を省くため」であっても、これを「出席」「欠席」と印刷するのはマナー違反とされる。

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(参考画像・・・marryより)


招待する方もされる方も「こんなの面倒だなぁ」と思いつつ、決して口には出さずに慣習に従う。

「社会人としての常識」「面倒とは思わない」という人もいるだろうが、「おもてなしとは最上級の目配り・気配り・心配り」であるならば「Aさんは面倒くさがりだから『出席・欠席』で印刷、Bさんは礼儀に厳しい人だから従来通り『ご出席・ご欠席』で印刷・・・」となってもおかしくないような気がする。


こんな「馬鹿げたこと」を考えるようになったきっかけは、米国に住む友人(生粋のアメリカ人)とのチャット。彼はテキサス州在住で、テキサス以外ではオクラホマ州とネバダ州にしか行ったことがない。ネバダの目的はラスベガス。オクラホマはビールを買うため。彼の住む地区では夜間の酒類販売が禁止されているので、お隣のオクラホマまで買いに行くのである。愛車は当然ピックアップトラック。おそらく電車に乗ったことはない。共和党支持者でクリスチャンだが、毎週末教会に行っているかどうかは不明。ステレオタイプのアメリカ人で、典型的なテキサン(テキサス人)ともいえる。


そんな彼とのチャット内容は以下の通り。

「日本ではチップはいらないのか?」
「不要。習慣がない」
「ネットで見たが、バーのウエイトレス(おそらく居酒屋の店員さん)がひざまづいてオーダーをとっていた。あれもチップなし?」
「なし」
「よほど給料がいいんだな。こっちのバーなら、せいぜい10ドル程度だ」
「同じだよ」
「マジ?」
「マジ。フルタイムでも、3万ドル行かない」
「頑張ればマネージャー(店長)になれるから?」
「なれない。よくて時給が11ドルになる程度。日本人は我慢強い。上司に『やれ』と言われれば、素直に従う」
「そんな酷い店なんか辞めて、別の店に行けばいいだろう」
「どこにいっても似たようなもの。これがジャパニーズ・スタンダード」
「マジか?」
「7-11(コンビニ)のレジもスーパーのレジもだいたい時給10ドル。客がいなくても立ちっぱなし。そもそも椅子がない。時給10ドルであっても、店員は高級ホテル並みの接客を求められる。それが日本だ」
「apprentice(見習い)か?」
「れっきとした仕事だ。多くはパートタイムジョブ(アルバイト)で、歩合もなければボーナスといった特別手当もない。金銭面でいえば、時給がすべてだ」
「・・・・・・」
「さらにややこしくなるが、パートタイムジョブをフルタイムで働いたとしてもパートタイマーのまま(full-time working part-time worker)で、フルタイムで働く『正社員』(full-time emplyee)とは全くの別物。正社員はパートタイマーに比べて、給与も待遇もいい」
「ということは、チップなしでも頑張る理由は正社員を目指しているから?」
「そういうわけではない。100%ではないが、パートの先に正社員の道は続いていない」
「マジか?お金以外に、なんの目的があって働いているんだ?」

このあとも説明を続けたが、

「ちょっと高めの日本式旅館ならば、従業員一同が勢ぞろいしてお出迎え・見送りをしてくれる」

と、おもてなしの一例を挙げた時点で「VIPでなくてもか?そんなことをして本来の仕事に支障ないのか?そのための従業員を雇っているのか?だったら余剰人員の首を切って、他の従業員の給料を・・・」

となったので友人には「これが日本式のホスピタリティ、 O・MO・TE・NA・SHIだ。俺にもよくわからないが、お金がすべてじゃない」と有無を言わさず強制終了し、話題を変えた。以上が「おもてなし」について考えることになったきっかけである。


どうやらオリンピック関連で日本の事がいろいろとTVで紹介されているらしい。「おもてなし」以外でもいろいろと日本について尋ねてくるが、その回答内容にかなりのカルチャーショックを受けたようだ。

「日本ではSUBWAY(マクドナルドを超える世界最大のファストフードチェーン)はあまり人気がない。パンの種類や野菜を選択するのが面倒だから」

というのが理解できないらしい。

「タコ・ベルがない。ケンタッキー・チキンならある」

と言ったら信じてもらえなかった。

「学校では生徒が自分たちで給食の配膳をする」
「給食は全員の配膳が終わるまで、食べ始めない」
「生徒が自分たちで教室やトイレの掃除をする」

と言ったら驚いていた。

「制服警官は拳銃を所持しているが、訓練以外で撃つことはほとんどゼロ」
「マジ?」
「日本車は右ハンドル」
「嘘つくな。俺のTOYOTAは左ハンドルだ」
「TOYOTAもポルシェもフェラーリも、両方作っている。左ハンドルしかないのはアメ車だけ」
「マジ?」
「公共の場(公園・ビーチなど)で酒が飲める」
「マジ?」
「居酒屋(バー)に行けば、2時間20~30ドル程度でアルコール飲み放題」
「マジ?」
「ジーンズにアイロンはかけない」
「それは俺もしない。テキサンを馬鹿にしてるのか?」
「PANDEX(パンダ・エクスプレス)より安くて美味い中華チェーンがある」
「マジ?」
「救急車はタダ。治療費も安い。盲腸で入院(全額自己負担)しても、1万ドルでおつりがくる」
「マジ?」
「おまけに日本のナースは優しい」
「マジ!?」


いろいろと情報提供しているうちに、訪日への意欲が高まったらしい。「日本にもAVIS(レンタカー)とMOTEL(車で泊まるホテル)はあるのか?」と真剣に訊くので、

「車の運転はやめておけ。お前の腕では100%事故る。車がなくても公共交通機関が発達しているので問題ない。大都市部なら英語表記もあるが、基本的に英語は通じない。スマホとグーグルがあればなんとかなるが、free-wifiはないと思え。ローミングサービスの選択を間違えれば、恐ろしく高い請求書を目にすることになる。

食事については問題なし。日本語が読めなくても店先にサンプル模型が置いてあるし、メニュー表にも写真がある。

ホテルは難しくはないが、ちょっと戸惑うかも。アメリカ系のホテルであってもベルボーイにチップは不要。ピローチップも不要。すべて宿泊費に含まれている。ただしコンシェルジュにはチップは必要。

日本式の旅館は初心者にはお勧めしない。あまりにもハードルが高い。もし泊まった場合は、NAKAI-SAN(仲居さん)と呼ばれるroomkeeperにはチップが必要。部屋に案内されたときに渡すのがCOOL。

部屋に鍵がない場合もあるが、気にしてはいけない。不在時にNAKAI-SANが勝手に部屋に入ってBED-MAKING(布団を敷く)してくれるが、これも気にしてはいけない。NAKAI-SANはお前の執事であり、母親である。お前にプライバシーはない。

夕食も朝食も、基本的にチョイスできない。Pre-fixで出されたものを食べるのみ。高級旅館なら可能だが、我々庶民の手が届くレベルの旅館ではあきらめるべし。食べられないものがあれば事前に申し出れば、多少の変更は可能」

といった具合に基本的なポイントを伝えたのだが、どうやら日本旅行はあきらめたようだ。最後にこう残して、去っていった。

「日本は未知の国(uncharted country)。オモテナシに興味はあるが、不気味なので受け入れられない。テキサスにもサザン・ホスピタリティがあるが、どうやら別物のようだ。ところでお前はいくら稼いでいる?ダラスのAmazon倉庫でも時給16ドル以上稼げるぞ。8時間X20日X12月で年収3万ドルだ。来るならTEXTしてくれ。CU(see you)」

そして昨日、このu-tubeのURLが "omotenashi in USA"の一文と共に送られてきた。

有名な動画なので知っていたが、

”THX. let me know when u come to JP. I will omotenashi U"
 (ありがと。日本に来たらおもてなしするよ。)

とtextしておいた。


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