闇堕ち金融広告を読む〜FUNDINNOが言わないリスク
金融商品の広告というのは、油断するとすぐ邪悪になります。別に詐欺的な商売をしているわけではない金融機関でも、客層を広げるために広告を打とうとすると、説明すべきリスクをちゃんと説明せず、メリットばかりを強調してしまいがちです。そもそも広告との相性が悪い業界なんでしょうね。
今回はそんな「闇堕ちした広告」の一つを解説しようと思います。題材は、大森南朋さんのテレビCMで目にした人が結構多いかもしれない、株式投資型CF(クラウドファンディング)の「FUNDINNO(ファンディーノ)」による、こちらのPR記事。
「クラウドファンディングの仕組みで未公開株に投資できるという『ファンディーノ』が、『怪しい』と感じて問い詰めたら、意外と怪しくありませんでした」という構成のPR記事なんですが、端的にいうと問い詰め方が甘過ぎです。担当者の説明は、未公開株投資のデメリットまで赤裸々に語っているように見せかけて、この金融商品が抱える重要なリスク要因を意図的に無視しています。
不適切な説明①「倒産する確率は低い」
「デメリットまで赤裸々に語っているように見える」のは、このあたり。
未公開株投資はリスクが高いじゃないか! 倒産したらどうする! という素朴な不安に対して、「いえ、倒産確率は意外と低いんです」と反論しているんですが、重要なのはそこではありません。
「倒産しなくても、あなたのお金は戻ってこない」
未公開株投資で最初に理解しなければならないのはこの点なのですが、このPR記事では最後まで全く触れられずじまいです。
「投資したら、お金は戻ってこない」のが未公開株
株式投資の特徴として、「いつでもすぐに売買できる(流動性が高い)」イメージを持っている人は多いと思います。正しいのですが、それはあくまで「上場株式」という、選ばれた超エリート企業の株式だけに当てはまる特徴です。
本来、「株式」という金融商品は、「投資したら最後、お金は戻ってこない」のが最大の特徴です。元本は戻らない代わりに、「その企業の商売がうまくいけば、利益の分け前を『未来永劫』もらい続けられる」という契約なのです。
企業から見ると、株式とは「借金」と正反対の特徴を持つ、資金調達の手段です。事業が成功した場合により多くの分け前を渡す約束をする代わりに、返済義務のない事業資金を調達する方法、それが株式です。
しかし人類は頭がいいので、「株式市場」を作りました。投資先企業からはお金を返してもらえませんが、保有する株式を「他の投資家に売って換金する」ことができるようになったのです。これにより株式投資は、やめたければいつでも株式を売却できる、非常に使い勝手のいい投資法に進化することができました。
ところが「未公開株投資」は、昔と同じ、使い勝手の悪いままの株式投資です。例え投資先企業が倒産していなくても、投資家にその株式を換金する手段はありません。10年経ってもその企業は存続しているけれど、パッとしない企業のままなのでお金が戻ってくるメドはたたない、という展開は十分あり得ます。
あり得るというか、それが未公開株投資で一番、可能性の高いシナリオかもしれません。実際にファンディーノのサービス開始から3年半、150社が資金調達をしてきて、倒産したのはたった2社とのことですが、投資家が株式を換金できた(イグジットといいます)企業もたった2社。残りの140社以上は、「倒産してもいないけれど、お金を取り戻す方法もない」状況なのです。
ちなみにファンディーノは将来的に、投資家同士で未公開株を売買できる仕組みの導入を目指しているようですが、上場株と違って「買う人を見つける」のが大変なので、簡単にはいかないと思われます。
こういう未公開株投資の特徴を踏まえて、あのPR記事の説明は適切といえるでしょうか。私にはそうは思えません。尺の短いテレビCMならともかく、十分に文字数を使えるPR記事なのですから。
不適切な説明②「33%増の金融商品は他にない」
PR記事の不適切な点は他にもあるので、最後にいくつか触れておきます。
「年33%増の金融商品なんて、きっと今の日本では他にないと思います」
あるに決まってるでしょうが。この言い方はもはや詐欺師レベルです。
「確実に年33%増える」金融商品は確かに存在しませんが、ファンディーノのこれは、「150社中2社だけが達成した」運用成績じゃないですか。そんな確率でいいなら、普通の株式投資(上場株投資)でいくらでもあるし、インデックス投資でそれができた時期だってあるし、個人的にはFXで何度も達成してます。
不適切な説明③「値動きがないのがメリット」
「ベンチャー株はなんといっても、値動きしにくいところが良いんです」
これもほぼ詐欺師のトークです。ベンチャー株は値動きしにくいのではなく、「値動きが見えない」だけです。本当の企業価値は、事業の進捗次第で日々変動しています。むしろ既に業績の安定した上場企業より、明日をも知れぬベンチャーの方が激しく変動して当然。単に、売買が日々行われているわけではないので、実際に売却できる価格を知る術がないのです。
企業価値の変動が可視化されるから透明性が高まるというのが、「株式が上場する」ことの最大のメリットの一つです。それをあたかも「上場株のデメリット」のように語るなんて…。
サービス自体は全く不適切じゃない
ファンディーノという、株式投資型クラウドファンディングの仕組み自体は、全く詐欺的ではありません。リスクをちゃんと理解した上で活用すれば、日本人の投資に多様性をもたらしてくれる、志の高いサービスだと思います。
とはいえ、世の中にある「投資」の中でも、未公開株のリスクの高さは最大級。本質を理解せずに、気軽に手を出していい投資ではありません。こういう投資商品を扱う以上、「あの広告」はないんじゃないかな、と思ったので、指摘させて頂いた次第です。
(物欲しげな目でじっとこちらを見ている)