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走るだけがトレーニングじゃない

九州の市民ランナー、塚本秀志さん。
実業団を引退してからも競技を続けて、
今でも国内外のレースで活躍をしています。
また、「走るだけがトレーニングではない」という持論の元で、体幹を鍛えるために釣りをしたり、海に潜ったり、集中力を養うためにジグソーパズルをやってみたり、枠にはまらない活動を続けている方です。

そんな塚本さんと牛山純一が初めて、
インターネットを使っていろんなことを話しました。

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「塚本秀志」×「牛山純一」

今回のテーマは、
「走ること以外で強くなる」、
「トレーニングに対する考え方」、
「厚底シューズとスパイク」、
ランナーが日頃抱えている疑問をぶつけ合いました。
「驚き」と「発見」が詰まった対談をお届けします。

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塚本 秀志(つかもと・しゅうじ)
1983年10月4日生まれ

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北九州市在住
九州の市民ランナー
香椎高校(福岡県)→黒崎播磨
専門は長距離種目
5000m:14分03秒99
10000m:29分28秒98
ハーフマラソン:1時間3分21秒
マラソン:2時間20分36秒
2019年北九州マラソン優勝

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牛山:よろしくお願いします。

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塚本:よろしくお願いします。
まさか、私が牛山さんのnoteに登場するとは思っていませんでした。

牛山:フェイスブックでやり取りはしていましたが、こうしてお話しするのは初めてですね。

塚本:今これを読んでいる人は、私が出てきて驚いているか、この人誰だろうと思っていることでしょう。

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牛山:私が最初に塚本さんを知ったのは、フェイスブックだったと思います。共通の友達の誰かが「いいね」をしたのを見て、その投稿の内容がすごく面白くて、それがキッカケでした。

塚本:そうだったんですね。

牛山:ただ、そうは言ってもいきなり友達申請をするのも失礼かと思っていたら、逆に友達申請が来たわけです。これは、承認するしかねぇ!ってワクワクしましたね。

塚本:当時から、牛山さんのブログは絶大なる人気を誇っていましたので、失礼のないよう、DMでご挨拶させていただいたのを今でも覚えています。ただ、丸1日だったか2日だったか、返信が来なかったんですよ。

牛山:そう、フェイスブックのメッセンジャーの設定の関係で、友達以外の人からのDMはすぐに表示されなかったんです。

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塚本:布団の中で震えていたのは内緒の話です(笑)。

牛山:塚本さんからのDMがリアルタイムで表示されていたら、3秒以内に返信してましたね。

塚本:それからは、お互いに意見交換し合える事で新しい発見があったりと、今でも勉強させられる面が多々あります。

牛山:誰でも波長が合う人と、集まったり、お酒を飲んだり、バカな話をしたりすると、楽しいし、盛り上がるんですよね。そこで、もし意見が食い違ったとしても、ケンカにならないし、逆に食い違っているからこそ新たな発見に繋がるので、そういう人同士が出会うには、SNSは面白いですね。

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塚本:そうですね。

牛山:友達申請を送ってくれてありがとうございます。

塚本:ところで、当時、私はどんな投稿をしていたんですか?

牛山:私が最初に読んだのは、たしか「釣りで筋肉を鍛えた」という投稿だったと思います。それも、カツオとかチヌでも釣るのかと思ったら、ヤマメだったんですよね。久しぶりに1000mを走ったときに、人間に負けたのが悔しくて、「ヤマメを釣って筋肉鍛えるしかねぇ」みたいなことが書いてあって、すごくインパクトがありました。

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塚本:普段一切筋トレを行わないので、ヤマメの当たりだけでも腕に良い刺激が入るんですよ。これも立派な筋トレだと思い込ませています。

牛山:他にも、「走るだけがトレーニングではない」と言って、海に潜ってたじゃないですか。

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塚本:そうですね。海中では潮の流れが速かったり、波が高かったりするので、自分の体勢を保つことに必死です。逆立ち状態になるなんて事は茶飯事ですので、体幹の強化にはもってこいですよ。

牛山:そんなコンディションの中でもちゃんとサザエとかアワビとか獲ってくるんですよね。只者ではないと思いました。陸上競技って、獲物を捕まえるために、速く走ったり、川を跳び越えたり、石を投げたり、そういう人間の行動から始まったと思うんですけど、そこに繋がると言うか、身体を鍛えることと生きることがリンクしているあたりに感動しましたね。

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塚本:しかも、海に潜ると、体幹を鍛えられるだけではなく、アイシングの効果もあるんですよ。

牛山:なるほど(笑)。実は、私も塚本さんを見習って海に潜ってはみたのですが、海の波の揺れやうねりで酔ってしまって、体幹強化どころではなかったです。もちろん、サザエどころか海藻1つさえも採ることはできませんでした。

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塚本:釣果は無かったんですね。信州人は、海に潜る機会が少ないと思うので、順応しにくいのかもしれませんね。

牛山:ところで、塚本さんは、今は実業団を引退して、いわゆる市民ランナーとして競技をされていますよね。どんなところを目指しているのですか?

塚本:私は、何かを目指していると言うよりも、陸上を通してたくさんの方々と、知り合えることに喜びを感じています。
私は、記録の良し悪しで、他の方を甲乙つけたりはしていませんが、陸上を通して知り合う方々は素晴らしい人が多く、その方々と知り合うためには、自分が強く(速く)なれば、各レースに呼んでいただいたり、選抜チームに召集されたりと、そういう機会を与えていただけるので、競技を続けているというのが大きいですね。

牛山:なるほど。それは私も同じです。

塚本:これは、北九州の学生ですが、こう言ってもらえると、とても嬉しいですね。

牛山:これは、モチベーションに繋がりますね。

塚本:現に、こうして牛山さんと繋がっているのも、やはり陸上を通してですからね。

牛山:海に潜って、アイシングしながら体幹を鍛えていたら、山でアイスクリーム食べてアイシングしている人と繋がってしまったわけですね。

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塚本:そういうことになりますね(笑)。

牛山:同じ世代ということで、30代を半ばにして、いろいろ考える時期にも差し掛かっているのでしょうね。それで、「走ることだけがトレーニングではない」というわけですね。

塚本:多くのランナーたちが、ウエイトトレーニングを取り入れているように、何も速く走るためには、走るだけがトレーニングではないと言ったところでしょうかね?

牛山:そこで、自分もウエイトトレーニングをしようって思わなかったんですね。

塚本:ウエイトトレーニングにも興味があるのですが、その知識が無く、また時間があまり取れないと言ったところでしょうか。

牛山:器具とかも使いますからね。

塚本:あと、今一番やりたいのは、朝練習です。ただ、眠くてできません。

牛山:私も、朝練習を継続してやりたいとは思ってるのですが、できていないのが現状です。やはり眠いですからね。

塚本:牛山さんも同じかもしれませんが、仕事が終わった後に走って、お風呂に入ってという生活をしていると、ご飯を食べるのが21時くらいになってしまい、それから翌朝5時くらいに起きて朝練習をしようとはなれないのです。

牛山:私は、朝練習は、起きることがトレーニングの8割くらいを占めているのではないかと思っています。走り始めてさえしまえば、10kmでも20kmでも走れますから。起きたら「勝利」みたいに思ってますね。

塚本:共感できる部分はまさにそこです。朝早く起きることがトレーニングの8割を占めているのなら、起きるだけで足が速くなるのではないか、私の考えはそう言う少し人と違った視点にあります。

牛山:なるほど。そう言われると、確かにそうですね。

塚本:例えば、その違った視点と言うのは、私の周りのランニング友達は、「1kmを3本、3分を切って走る練習ができないと、3kmで9分を切れない」と言う方がほぼ全員です。

牛山:普通に考えたら、そう思いますね。

塚本:でも、誰がそんなことを決めたのかと思うのです。私も先日3kmのT.Tをしましたが、走っていなかった時期が長かったので、直前にやった1km×3本は、1本も3分を切れませんでした。しかし、3kmのT.Tは8分41秒で走る事ができ、それ以降のトレーニングでは、1kmを3分で余裕を持ちながらこなせるようになりました。逆転の発想と言うか、トレーニングに正解は無いと思っています。

牛山:1km×3本を3分01秒-3分01秒-3分0秒でしか走れなかったのに、3kmを8分41秒で走れたというのは驚きですね。もはや、理論的な説明ができないですね。

塚本:練習で走れないときほど、原因を探る。またそこから巻き返していく過程が楽しいんです。

牛山:つまり、「走れない現状」よりも、「走れない原因」に焦点を当てるということですね。

塚本:そうですね。

牛山:調整に自信がある証拠ですね。熟練工の職人みたいな感じですね。

塚本:今でこそレース本番ではそのようなことはありませんが、レース直前の練習で調子が悪いときの方が、ドキドキして楽しいです。もはや変態ですね(笑)。

牛山:逆境に強いんですね。ギリギリまで追い込まれて、覚醒して、進化するみたいな。

塚本:実業団を引退してからは、個人のレースでは、失敗しても誰にも文句を言われることはありませんので、割り切って走ることができますね。

牛山:個人で走るランナーの特権ですね。実業団時代は、スパイクを履かなかったのに、最近スパイクを履くようになったのも、そのようなことが関係しているのでしょうか?

塚本:今でこそ、厚底シューズが普及してきましたが、私は実業団時代からクッション性がある方が自分に合っていると感じていました。よって、ここにきて、厚底シューズが陸上界を圧巻していることは、私にとっては追い風なのですが、地面を蹴って走るタイプの私にとっては、クッション性を得る代償として、スピードを失ってしまうことに繋がったわけです。

牛山:つまり、厚底シューズを履いた結果、スピードが落ちたと。

塚本:そうですね、私の場合はそうなります。そこで、15年ぶりにスパイクを購入し、スピードを強化しようと思いました。

牛山:実は、私もスピードが落ちた感覚があって、先日スパイクを履いて走りました。

塚本:牛山さんもですか?驚きです。

牛山:この1年くらいは、トラックでも厚底シューズのヴェイパーフライ4%を使って走っていました。スパイクを履くよりも速く走れるというわけではないのですが、少なくとも同じくらいでは走れる実感があったのと、スパイクに比べて楽に走れる(負担が少ない)ので、よく使っていました。

塚本:ほー。

牛山:正直、スパイクを履いて走るのが怖いくらい、ヴェイパーフライに慣れてしまいました。これは、走りの技術面でどうなのかと思って、スパイクを履いて走ろうと決めたのです。実際に走ってみると、やっぱりスパイクだとキツイんです。

塚本:キツイと言うのは?

牛山:ヴェイパーフライを履いていれば、もっと速く(厳密には、楽に)走れるのにという感覚があるので、それがもったいないというか苦しいんです。四輪駆動(4WD)の車に乗った後に、後輪駆動(FR)の車に乗ったような感覚ですね。

塚本:牛山さんほどのスピードがあっても、厚底シューズとスパイクでそこまでの差を感じるのですね。

牛山:ただ、スパイクで走ってみて思ったのは、滑らない分、踏ん張りが利くことでしたね。厚底シューズは、コーナーを抑えながら、ストレートでスピードに乗るような感覚があります。対して、スパイクは、コーナリングで減速せずに走れる。トラックと言うコースの半分がコーナーというステージではこれは大きいと思いました。

塚本:私と牛山さんとでは、走り方のタイプが違いますが、非常に面白い感覚ですね。

牛山:昔、「タイガーパウオルビット」という短距離用のスパイクがあったのですが、スパイクそのものに傾斜があって、200m/400m、4×100mRの1,3走者用という、コーナリング専用のものでした。短距離界では、スピードを上げたときに、横グリップが不足することが、昔から分かっていたのかもしれませんね。

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塚本:私は、コーナーの走り方にそれほど重きを置いたことはありませんが、そのような考え方もあるのかと思うと、これも新たな発見ですね。

牛山:グリップと言う観点からすると、茅野市のトラックは真冬なると路面が凍るのですが、やはり、スパイクが厚底シューズよりも力を発揮しますね。

塚本:凍ったトラックの上を走ることが無いのですが、凍結したトラック路面でヴェイパーフライは危険ですね。

牛山:やはり、使い分けというのが大事になってくるのでしょうね。そういう意味では、最近、サッカニーを履いてみたいと言うのは、どんな心境からですか?

塚本:私は、陸上競技に関しては、変わったシューズや人が履いていない少数派のものを使ってみたくなるのです。過去に、スポーツ量販店でシューズを見ていたら、店員さんから「何かお探しですか?」と声をかけられました。

牛山:よくありますよね。しかも可愛い店員さん(笑)。

塚本:その通りです。それで、雑談を交えながら、私が元々走ることが職業であったことを伝えると、その店員さんは、新人さんだったみたいで、逆にランニングシューズの選び方を教えて欲しいとお願いされました。

牛山:それで、何て答えたのですか?

塚本:「デザインです!」と答えました。

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牛山:えっ?!

塚本:シューズの性能にこだわるのであれば、まずは自分の走力を上げた方がいいんですよ。シューズに走らせてもらうわけではないので。

牛山:なるほど。

塚本:ゆえに、量販店などで購入を考えている方と言うのは、楽しく走りたい方が多いのではないかと思い、自分の気に入ったデザインのシューズを履いて、まずは形から入ることで、走る楽しさを知ってもらうのが重要かと思いました。

牛山:そこに繋がるわけですね。

塚本:その延長と言うわけではないのですが、前例のないサッカニーのシューズを購入することで、自らのモチベーションアップを図ったのですが・・・

牛山:3分で完売というわけですね。

塚本:はい、クレジットカードの登録に手間を取ってしまいました。

牛山:ナイキのアルファフライのときも一瞬で売り切れでしたね。

塚本:転売する人とか、どげんかしてほしいです。(九州弁)

牛山:ホントですね、国が儲かるだけですよ。私はサッカニーは知りませんでしたが、スケッチャーズを密かに狙っています。

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塚本:スケッチャーズはノーマークでした。推進力の方向に興味がありますね。ヴェイパーフライNEXT%ですら履きこなせていないので。

牛山:反発が強すぎて、履きこなすのが難しいみたいです。

塚本:現役の実業団ランナーでさえも、履きこなすのが難しいみたいですからね。

牛山:陸上って、「これを履いて走れば速くなる」というモノがあったとしても、実際に誰かが速く走って証明しなければいけないっていうのが面白いですよね。つまり、良いモノができたら、モデルを作らなきゃならないというか、出会わないといけない。

塚本:誰も履きこなせないシューズ、そういうのも好きですけどね(笑)。

牛山:ドラクエに出てくる与えたダメージの1/4が自分に返ってくる「諸刃の剣」的な感じですね。

塚本:私に言わせれば、ヴェイパーフライは諸刃の剣です。

牛山:最後に、「走ること以外で速くなる」という最初の話題に戻ってみたいのですが。

塚本:はい。

牛山:これから、こんなことをやってみたいとか、やってみたら面白いってことはありますか?

塚本:私が今後取り組んでいきたいと思っているのは、「積極的休養」ですね。

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牛山:「走ること以外で速くなる」というテーマの真骨頂みたいなところですね。

塚本:私は朝練習をやっていない分、距離を踏む、練習量を増やすということを補うためには、「毎日走る」ことだと思っています。昨年(2019年)私が全く走らなかった日は、3日間のみです。

牛山:3日間ですか!それはスゴイですよ。

塚本:そのせいもあってか、今年の1月に疲労骨折をしてしまい、最も重要視していた2月の北九州マラソン(フルマラソン)を欠場することになりました。

牛山:一番狙っていたところで、走れなかったのは悔しかったですね。

塚本:それから、身体を休めることも大切だと痛感させられ、今日に至ります。

牛山:私も、ちょうど同じ時期にアキレス腱を痛めましたので、その気持ちが分かりますね。マラソンで速さを追求していけば、健康を犠牲にする側面があるかと思います。筋肉や運動機能は、鍛えれば強くなるのでしょうが、骨や腱が物理的に強くなるとか、関節が摩耗しなくなるわけではないんですよね。私たちの身体が消耗品であるということを念頭に置いておくことって大事ですよね。

塚本:牛山さんが以前、「トレーニングも休養のうち」と言っていたように、私も「休養もトレーニングのうち」だと思い、今後取り入れていきたいと思っています。

牛山:「休養」というのは、「身体を休める」という目的の他に「良いイメージを定着させる」目的があると思っています。

塚本:見落としがちなところですね。

牛山:良いフォームで走れたときや、課題をクリアーできたとき、良い感覚が得られたとき、うまくいったときに、睡眠をしっかり取ると、脳みそに「良いイメージ」を定着させることができます。これが、余裕がなくて苦しい状態だと「悪いイメージ」が定着し「弱くなるトレーニング」になるわけです。だからこそ、「トレーニングの終わらせ方」というのは、休養においても、とても重要だと思っています。

塚本:なるほど・・・。この話、居酒屋7軒くらいはいけますね。

牛山:そうですね、福岡国際マラソンに行くときにでも、やりましょう。

塚本:ぜひ、もつ鍋でも食べながら。今日はとても面白かったです。 

牛山:こちらこそ、どうもありがとうございました。

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2人の対談はこれで終わりです。
最後までお読みいただき、どうもありがとうございました。


福岡県北九州市 ⇔ 長野県茅野市
2020年7月2日 オンラインにて

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