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比較によって楽に走る

私は普段、1人でトレーニングをすることが多い。
そんな私でも、ときには他の人と一緒に走ることがある。

それは、友人とトレーニングするときや、マラソン大会などに出場するときだ。

そんなときに、ふと思うことがある。

人の後ろを走ると、楽に走れる。

そんなことは常識だと思うかもしれない。ランナーなら誰もが経験したことがあることだろう。

ただ、昔からその理由がよく分からなかった。

集団を引っ張ることが多かった私は、なんとかして後続のランナーを引き離したかったのだが、追走されてしまうことが多く、挙句の果てには、「牛山さんの後ろは走りやすい」と言われて、正直困ってしまったこともある。

どうして、人の後ろを走ると楽に走れるのだろうか。

1つの要因としては「空気抵抗」だ。

マラソンで20人を超える集団の後方を走っていると、向かい風の影響を受けていないことを感じることができる。

しかし、これが集団でなく1人のランナーの後ろだったらどうだろうか。
空気抵抗の低減も多少はあるだろうが、そんなに大きな差になるようには思えない。しかも、追い風(しかも強風)のときは尚更だ。

また、前のランナーと少し離れて走る場合(30mくらい離れている場合)でも、1人に比べて楽に走ることができることからも、空気抵抗以外の要因が大きいことは明らかだと思う。

さて、ではどうして人の後ろを走ると楽に走れるのだろうか。

本来動物の持っている「狩猟本能」だとか、競走ゆえの「闘争心」という要因もあると思うのだが、私は「比較することによって効率良く走ることができる」のだと思っている。

私たちは、今でこそ自分が走っているペースをGPSウォッチ等で確認することができるようになったが、昔は自分がどのくらいのペースで走っているのかが分からなかった。

トラックでは距離が短い間隔(200m/400m)で確認できるため、自分のペースを理解しながら走ることができるものの、ロードになれば自分がどのくらいのペースで走っているかが分からないため、感覚だけに頼って走っていた。

ロードが苦手というランナーも結構いて、駅伝は1区専用というランナーがその典型だった。

自動車で例えるなら、スピードメーターもタコメーターも付けていない状態で運転しているようなものかもしれない。

人は、何か比較するものがないと、自分の状態が掴めない。

それは速さだけでなく、気温も同じだ。

私の住んでいる長野県茅野市というところは、真冬にはマイナス10℃を下回る極寒地であるが、そんな中でもジョグをすることは日常茶飯事である。

マイナス10℃に慣れていると3℃がやたら暖かく感じるため、とても気持ち良く走ることができる。

ところが、今年5月に入って15℃くらいの日が続いた後に急激に3℃くらいまで冷え込むことがあったのだが、そのときは寒くて全く身体が動かずに走ることができなかった。

同じ3℃でも全く違ったということだ。

速さも温度も、比較によって全体の中で認識できるということなのだろう。

人は抽象的な命令に対して、うまくイメージを作ることができないと言われている。

例えるなら、1000mを3分00秒くらいで走れる実力を持ったランナーが、「速く走れ」と言われるのと、「2分55秒/kmで走れ」と言われるのとで、どちらが速く走れるか。

おそらく「2分55秒/kmで走れ」の方だろう。

それは「2分55秒/kmで」という情報により、経験の中にある「2分55秒/kmのペース」と「現状のペース」を比較して、その差を比較するからだ。

比較した結果、その差を埋めるように「もう少しペースを上げなければ」と思いながら走ることになる。

「速く走れ」は目指すペースが分からないまま走るため、何かと比較することはない。

実際に2分55秒/kmのペースで走れるかどうかはさておき、走りのイメージがより明確になることで、出力される運動のレベルも上がるというわけだ。

人の後ろを走るというのは、これと同じことが起こっているのだと思う。

実際にそのペース(2分55秒/km)で走る人がいて、その人との差を認識しながら走ることによって、目標と自分の現状との差を理解することができるのだろう。

目の前に具体的な目標が見えることによって、あとはその差を埋めるだけでいい。

その「差を埋めるだけでいい」というのが「楽に走ること」の本質なのではないかと思う。


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