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うしをいのお気に入り記事

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#2000字のドラマ

【短編小説】涙くんと涙ちゃん

「見ててな」 藤野は上目で俺を見ながら、人差し指で自分の目頭を差した。そこから、ツー、と涙が溢れ出す。鼻筋を通って、口元まで垂れてきたところで、涙を手で拭う。 俺は、急に泣き出した友人をまじまじと見る。 「まあ、びっくりするよね。これが俺の特技というか、特殊能力」 藤野はテーブルの紙ナプキンで涙を拭き取っている。 「自在に涙を流せる・・ってこと?」 藤野は頷く。 テレビで見るような、役者さんが役に入り込んで泣くのとはワケが違う。2秒ほどで、蛇口を捻るように藤野は

時よ止まれ、お前は美しい【#2000字ドラマ】

 ツキがない時……なぜか色んな“ついてない”は、だるま落としみたいに重なる。体育でボールが顔面に当たった。自販機で好きな飲み物が品切れだった。お気に入りのキーホルダーが壊れた。  そして今、学校の帰り道。ダイヤが乱れて駅は激混みで、人混みに押されながら電車に乗り込み、吊革にしがみついた。そして右の隣の隣に苦手なクラスメイトの男子、加藤(かとう)の姿を発見した。いつも無表情で、あまり人とつるまずに、一人で音楽を聴いてる加藤。今まで話したことはない。  加藤は私に気づいたよう

からやぎ【短編小説】

インスタグラムを開けば、都会に出ていった同級生たちのすてきな日常が、私をボコボコに殴ってくる。打ちのめされて、モヤモヤとした暗雲のような気持ちが心の底に溜まっていくのを感じる。ハァ〜〜〜。煙草の煙と一緒に、思わず特大の溜息をつく。流行りの店、都会にしかない服、化粧品、話題のスポット…。そんなものこの田舎町にはない。何処を探したってひとつも無い。 「幸せが逃げたな」 いつの間に隣に立っていた上司がせせら笑う。彼は胸ポケットからiQOSを取り出して吸い始めた。ひとつひとつの動作