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これがゲーリー・クーパー?

 ゲーリー・クーパー主演、ハワード・ホークス監督の『ヨーク軍曹』を見る。題名はなんとなく知っていたが、初めて見た。そして、色々な意味で驚いた。主人公はテネシーがどこかの田舎の青年のアルビン・ヨーク。父親は貧しい農夫だったが、今は信心深い母親と弟、妹たちと暮らしている。農業にあまり適していない土地しかなく、悪たれた日常を送っていて、牧師の説教をピストルで妨害するような青年だったが、可愛らしい女の子、グレイシーと知り合い、真面目に農地を耕そうと思うが、大きな岩を取り除けない。
それで農地に適した土地を買ったほうがいいということで、七面鳥を標的にした射撃大会に参加する。銃の扱いはお手のもので、見事に七面鳥を仕留め、その七面鳥や、ロバ、時計等々を金貸しに提供して金を借りるが、一足先に、他の青年、ゼブにその先を越されててしまう。実は、ゼブはヨークが結婚したいと思っていたグレイシーを好きだったので、単なる嫌がらせだったのだが、失意のヨークは不貞腐れて嵐の中を馬に乗って飛び出し、馬の蹄鉄に雷が落ちて失神する。ところが気がつくと泥の中に倒れていた馬が元気に起き上がった。不思議に思いながら、明かりが漏れてくる小屋にゆくと、牧師――本職は雑貨屋――が説教をしている。
 このことをきっかけに、ヨークは回心、暴れ者だった自分を反省し、信心深いクリスチャンになる。そんな時、第一次大戦が勃発、ヨークのもとに召集令状が届く。ヨークは、人殺しはしたくない、と牧師に訴え、牧師は良心的兵役拒否の権利があることを教えるが、いろいろと条件あり、結局、兵士として戦場に送られる。その戦場でヨークは、射撃の腕前を見込まれて軍曹になり、とある戦場でドイツ兵を七面鳥に見立てればいいだと、自分に言い聞かせ、一人で百数十人のドイツ兵を捕虜にする。ヨーク軍曹は英雄として帰国し、リンドバーグに匹敵するような大歓迎を受けるが、信仰心に厚く、ニューヨークで見たいところはあるかと市長に聞かれて、地下鉄というものがあるそうだが、それを見てみたいと答えるような素朴さは、変わらず、母親と恋人の待つ、故郷に帰ってゆく、という話。
 実話のようだが、乱暴者の田舎者、それも農夫を、都会的なダンディというイメージのあるゲーリー・クーパーが演じるのがなんとも不思議だったけれど、アメリカ人にはそうでもないのか。それはわからないけど、もう一つ、不思議だったのは、第一大戦に行くわけだから、日本で言えば大正時代のはじめ頃だが、アメリカの田舎は、西部劇の世界と全然変わりがないということ。移動は馬や馬車だし、無軌道な若者が奇声をあげ、ピストルを撃ち鳴らす場面も西部劇そのもの。しかも、その若者をゲーリー・クーパーが演じているのがなんとも不思議な光景に見えたのだ。

これが1916年のアメリカの田舎。左は息子みたいだが、弟。この弟の方が、突っ張っていて、危ない感じがしたが、ストーリー的には、単に年の離れた弟というだけだ。
回心するヨーク
グレイシーとヨーク。
信仰心の厚い母親と。この頃はまだ暴れ者の農夫だけど、長身を持て余しているように、自分の役柄をちょっと持て余しているような感じがなくはない。そこがクーパーのいいところかも。


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