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カカオレポートをつらつらと。

フェアトレード商品を扱う会社に勤めています。
カカオ旅から帰って、1月~2月。小売店のニュースレターと、オンライストアのコラムに簡単なレポートを寄稿させてもらいました。また、映画の上映会に合わせてミニ報告会を開催させていただきました。こういった、個人的な興味関心から行動で、有休をいただいたりして迷惑もかけているのに、ポジティブに受け止めてそれを活かせるようなチャンスを得ることができ、職場のみんなと会社にとても感謝しています。そして、そういった気概は、この会社の好きな理由のひとつです。

また、福岡では報告の機会をいただき、たくさんの方に直接お話できました。うしこ手作りチョコもふるまい、一緒に楽しんでいただけたのがとてもうれしいです。

いちばんシンプルにまとまったコラムのレポートをベースにいくぶんか修正・補足を加え、このまま掲載させていただきます。一番下に、リンクを張っています。写真などふんだんに使っているので、さくっと読みやすいと思います。

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「カカオがどうやって育っているのか、自分の目で見たい!触って確かめたい!」

そう思い続けていた私は、カカオを栽培しているタイジュさんと知り合った翌月、フィリピン・ミンダナオ島のカカオ農園に立っていました。

カカオの栽培に最適とされるのは、南北緯20度のカカオベルトと呼ばれる熱帯地域。年間を通して20度以上の気温が必要なカカオは、一方で強い日差しが苦手。シェイドツリーと呼ばれるカカオよりも背の高い木々を必要とする植物です。

訪れたカカオ農園は北緯6~7度、平均気温は28度。ココナッツやバナナの木の心地よい日陰の中にありました。カカオは1年を通して実をつけますが、半年に1度収穫のピークが訪れます。ミンダナオでは5~6月頃と11月〜1月頃。

私が訪れたのは12月。カカオの木の枝先には、人の顔よりも大きな葉っぱ。幹には緑や赤、黄〜オレンジのカカオポッドと呼ばれるカカオの実が直接なっています。カボチャのような手触りでひんやりしていて、ずっしりとした重量感が。今年の実は雨が少なく小さめとのことでしたが、それでも1個500g程度。大きい時にはその倍近くにもなるというから驚きです。

フィリピンの朝は早い。朝5時頃、私は鳴り響く教会の鐘で目を覚ましました。教会の敷地を分けて建てられた建物は、児童養護施設HOUSE OF JOYのゲストハウスです。私が目を覚ました時には、人々の朝はとうに始まっているように感じました。ちょうど日曜日だったこともあり、すこしおめかしした子どもたちがぞろぞろと帰ってきます。

カカオ仕事は、カカオたちの状態に応じてその時に必要な仕事をする、といった具合なので始業時間が決められているわけではないそうです。朝ごはんをいただいたあとは、タイジュさんとジャニーさんの収穫作業に、ご一緒させていただきました。

カカオ畑への道すがら、近くの市場で豚肉と野菜を買いました。年季の入った自動車で向かいます。見渡す限りのバナナ農園を抜けて、森の奥のカカオ畑へ。農園についたら作業開始。

カカオの木を見て回り、黄色やオレンジに熟れている果実だけを1つずつ収穫して回る。収穫には、ナタではなく日本の剪定ばさみを用いる。柿農家に生まれた私にはなじみのあるツールだ。

さて、カカオの収穫の大変さの話だ。当然、収穫したカカオポッドをもって歩き回るのだが、10個収穫したくらいから「重いですね」と弱音を漏らしてしまう。ちょっと気合を入れて米袋を運ぶようなイメージです。

そうして歩き回って収穫したカカオポッドは荷台にまとめておいて、水牛の力を借りてぬかるんだ坂を上り、小屋まで運びます。水牛はカラバオという名前で女の子。「乗ってみる?」と言っていただいたのに、すこし怖くて、申出を断ってしまった。

カカオは収穫して終わりではない。なたを使ってカカオの種子を取り出します。かぼちゃを切る時、包丁が入りにくい、あの質感なので、勢いをつけてなたを振り下ろさなければいけません。左手に持ったカカオに向けて、右手のなたを振り下ろす。なんともケガをしそうで怖い作業です。2〜3か所に切り込みを付けたら、バキッと実を割り開き、白い果肉(カカオパルプ)に包まれたカカオの種子を取り出します。ちなみに、この果肉はライチのような少し甘酸っぱくてフルーティな味わい。実離れが悪いので、食べるというよりも舐める感じ。

さて、取り出した種子はカカオパルプごとバナナの葉を敷きつめた木箱に流し込み、発酵スタート。まずは、上段で嫌気発酵。種子を包んでいたカカオパルプがアルコールにかわる。その後、下段で好気発酵。撹拌し、空気に触れさせることで、アルコールをもとに酢酸菌や乳酸菌の力で発酵する。酸っぱい香りがキツイ。実は、チョコレートになった際の味や香りは、この発酵が決め手だと言われています。渋みを減らし、香りの前駆体ができるのがこの発酵の過程だからです。そうして、約1週間ほどかけて、十分に豆が発酵したら、今度は天日干しでじっくり乾燥させます。

こうして、やっと「カカオ豆」と呼ばれる状態となるのです。ここまでくれば海外に輸出することもできます。チョコレートメーカーに売ることもできます。収穫してすぐに出荷、とはいかないところに、ほかのくだものや野菜と大きく異なる点があります。ここからどうやればチョコレートになるのか?というお話は、他の記事にて、簡単なチョコレートの作り方を記したいと思います。

ところがフィリピンでは、果肉を取り出した後の工程を、カカオ農協に任せている農家が多いと聞きました。この重要な発酵を成功させるには、まとまった量の果実が必要なため、小規模のカカオ農家では、その都度の収穫量だけでは難しいのです。集められたカカオは、”タブレア”と呼ばれるカカオ分100%の固形物へ加工され、国内に流通しているそうです。

短い滞在期間中、空港以外では板チョコを目にしませんでしたが、一方で海外大手メーカー製のカカオ分の低いチョコレート菓子はコンビニなどにも並んでいました。

カカオの栽培といえば児童労働が大きな問題となっています。今回のフィリピンのカカオ農園で児童労働を見ることはありませんでした。しかし、訪問した地域の生活水準はフィリピン国内でも低く、様々な困難を背負って生きている人・子どもが多いそうです。

「過酷な経験をしてきた子どもたちがいる。
僕たちが高品質のカカオを生産する基盤をつくることができれば、
その子たちが大きくなったとき、安心して暮らすための仕事として、
カカオ農園が地域の人々の暮らしを受け止められるかもしれない」

そう静かに話してくれたカカオ農園のタイジュさん。質素ではあるものの、それが生き物だったことのわかる新鮮な食べ物をいただき、おひさまと一緒に寝起きし、笑いあって1日1日を重ねる暮らし。

それは日本よりも健康的で豊かさに満ちているようにも感じたほど。
すっかり、この日常が好きになっていた私です。

タイジュさんの話を聞いて、しばらく何も言えませんでした。
この農園で、カカオとそこで働く人が引き受けているものの重さが後からずっしり響きました。

カカオの長い旅。

木漏れ日の中で大切に育てられ、時間と行程を積み、たくさんの人の手を介して、いま私の口の中に。チョコレートが口の中でほどける瞬間に、カカオの記憶を想像することができそうです。

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コラム:カカオのふるさと
http://shop.sisam.jp/column/8062/

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