見出し画像

私と彼女 -裏- #9


もう会わないと決めていた。
会ってはいけないのも重々承知だった。

でも――。


あれからすぐに、警察が被害者家族の通報を受け捜査を開始。
事情聴取や現場検証の結果、通報の通り他殺だと予想された。

恨みを抱いていたであろう人物、事件当時近くに居た怪しい人物、事件関係者など、利害関係の疑われる人物が重要参考人としてリストアップされ、そして被害者家族や目撃者の供述に基づき、容疑者として一番に名前が上がったのが私だ。

家の前には警察官のような人物がウロウロしていたので、本当はすぐにでも身柄を確保されてもよかったけど、その前に最後に彼女と話したいと思ってしまった。
声を聞けるだけでいい……。
気づくと私は彼女へ電話をかけていた。

すると、彼女がいつも乗っているバスが丁度通りかかり、車内でめちゃくちゃ慌てているのが見えた。

「ふふっ。」
ニヤニヤしながら見つめて居ると、案の定彼女が恥ずかしそうにバスから降りてきたので

「ガハハっ!慌ててやんの!」

と無意識に声をかけてしまい、向かいのバス停から手を振った。
すると電話を切った彼女が私に飛び蹴りをしそうな勢いで走ってきて

パチンっ!

「いっった!何す……。」

頬を叩かれたかと思えば苦しいくらいに抱きしめられた。

「バカたれ!ふざけんな!良かった……。」

「それ、思った感情全部声に出てない?」

「うるさいなぁ!」

強がりながらも泣く彼女の頭を撫で、背中をさすって慰める。
「ごめんな。」
心配させてしまって、もう会うことができなくて。

「ここじゃなんだから」と二人で人目のつかない高架下の公園へと移動した。

「ねぇ……。」と話し始めた彼女は、

「何してたの?どこに居たの?あの留守電なに?本当のことなの?もしそうなら……、そうなら、これからどうするつもりなの?」

一気にたくさんの質問をされたため、それに対し一つ一つ細かく丁寧に説明した。

「……だいたいは分かったけど、なんで殺しちゃったの?誰を殺しちゃったの?」

「それはさすがの君にも言えないなぁ!」
わざと明るく振舞ってみたが、彼女は心情が分かったのか、教えて貰えないのが嫌だったのか哀しそうな顔をした。

伝えたかった内容を思い出した私は彼女を守る為、これから知っておいて欲しい事柄を彼女へ話す。

「よく聞いて欲しいんだけど、実はもう警察にはバレてるんだ。明日辺りには君のとこにも来ると思う。
だから、その……。私のことは『知らないです』で貫き通して欲しいんだ。変なことに巻き込んじゃってごめん。」

暫く沈黙したあと彼女は

「じゃあ、二人で逃げよう。」

と提案してきた。
その時の私は目を点にさせていたと思う。

「……なんでそうなるんだい?私より馬鹿なのお前?」
「ふふふ、そうかもね。」

彼女はどこか楽しそうだった。
お子ちゃまのお遊びと呼ぶにはあまりにかけ離れているんだけどな。  
それに下手に危険に巻き込むのは心が痛む。

「ごめん、それは無理だ。絶対できない。」

「大丈夫だよ、私、絶対守ってみせ……」
「駄目だって、これはお遊びじゃないんだ。それに君には共犯者になって欲しくない。」

暫くこんな押し問答が続いたが、一向に引かない彼女に私が折れた。
逃亡劇ごっこ、多分これが最後の思い出になる。
暫くは外に出られないだろうから、この我儘くらいなら聞いてもバチは当たらないだろう。

……そうだ、もしかしたら彼女になら全部話せるかもしれない。
彼女になら弱音を吐いてもいいのかもしれない。
小学生の頃、唯一私を名前で呼んでくれた優しい女の子、私が生まれて初めてずっと一緒に居たいと思えた女の子。

「実は、君にだから話すんだけど……。」
重い口を開いて、一生懸命話した。
かっこ悪いとか体裁とかこの際どうでもよかった。何故だか彼女なら受け入れてくれるような気がして仕方なかったから。

「今までずっとひとりぼっちだったんだ、私。不安なまま生きてきて、実は今でもこの先どうしたらいいかなんて分からなくて、ひたすら暗い道を進んでる感覚で……。」

そして気づくと私は今までの自分の生い立ちや兄貴の事を話していた。

「……これまで生きてきて他人に頼るなんてしたこと無かった。でも、君に出会って初めてこの人なら頼ってもいいって思えたんだ。
こんな事急に話してごめん。」

泣きそうになりながら重い話をしてしまい、少し気まずい私に対し彼女は微笑んでこう言った。

「私で良かったのかな。でも嬉しい、ありがとう。」
続けて彼女はこう言った。
「じゃあこれから私、ずっとあなたの傍に居るね。」

「なんじゃそりゃ、メロドラマじゃあるまいし。」

笑いながらはぐらかしてしまったが、
「ずっと傍に居る」か。
そんな優しい言葉、初めて言われた。
正確には二度目だ。
初めて会った時も彼女は「私たちずっと友達で居ようね!」と言ってくれた。

(私ってとことん昔のことを引きずる人間だな、我ながら呆れる……。)

彼女は真剣だけど、少しドキドキした様子で作戦を立て始めた。

内容はこうだ。
顔が破れている私を変装させ、一緒に夜が明ける前に出来るだけ遠くにランデブーをするというもの。
まぁ、ランデブーなんて一言も言っていなかったけど。

「ちなみに変装ってどんなの?ハゲはやだよ?」

「あのね、ふふふ……」

彼女は不敵な笑みを浮かべた。
嫌な予感しかしない。



#9 -終わり-

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?