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私と彼女 -裏- #3


兄貴のことを調べるのは簡単ではなかった。
誰も知らない兄貴の顔を二十数年会っていない私がどう調べたらいいものか、全く検討つかなかった。
「どうしよっかなー…」
頭を抱えて悩んでいるといつもの如く後輩が私に突っかかってきた。
「どうしたんすか先輩、めずらしいっすね、女にでも振られたんすか?」
とニヤニヤとしながら聞いてきた。
「お前いつかぜってぇぶっ殺す。」
私が後輩に何度目かの殺意を向けていると、見た事ある人が店の前を横切った。

ガタッと椅子から立ち上がると一目散に店から飛び出しそいつを追いかけた。
後ろから走ってくる私の足音にビックリした様子のそいつが振り向く、途端におどろき笑顔になる。
「おー!誰かと思ったらお前、元気してんのか!連絡もまともによこさんでよぉ!」
中学の時世話になった担任だった。
「せんせーこそ、元気かよー!随分とヨボヨボになったなぁ!」ガハハと二人で笑うと肩を組んでしばらく話した。
担任と会うのは実は中学卒業以来だった。
「必ず連絡しろよ、お前はずっと俺の大切な生徒の1人だ」と言ってくれ涙ボロボロの鼻水ドロドロでお別れしたのを覚えてる。
「そういやお前、兄さん見つかったんか?」と聞かれ、
「いや、それがまだでさ。今また煮詰まっちまってて…」と話すとそっかしょうがねぇよなぁと残念そうにした。
久しぶりの再会に花を咲かせようとした時、お約束の怒鳴り声が私に向かって響いた。
「やっべ、店長!!」下手に逃げると今度こそお陀仏になってもおかしくない、私は引っぱたかれるくらいならと思い、気をつけをしてそれを受け入れた。
うん、引っぱたかれた。
それを見てた担任がまたガハハと笑う。この店で働いてる事を伝えると「今度食べにくるわ」と言って担任は歩いてった。
風が強くて、ふと空を見上げると雲行きが怪しかった。
そのせいか、私の心もざわついていた。


情報量の多い数日間を過ごし、1ヶ月程経ったある日のこと、また兄貴の元同級生の女性に会う機会があった。
「こんにちは、この間は急にあんな話をしてごめんなさい。」
彼女は深々とお辞儀するのがクセらしい。
「いえ、全然…」

「実は、あと少しだけ言わないといけないことがあって。」
と話し始めた。
彼女は看護学生で、インターンがあった為兄貴の入院している病院へ希望し実習を行って居たらしい。
「その実習中のことなんだけど、実は彼1度意識を取り戻して…」
えっ、と私が驚いていると
「ただ、一瞬のことで…目は覚ましたらしいんだけどまた眠ったように今までみたいな状態になったって…」
その目には涙が滲んでいた。

「まじっすか…くそぉ…。」

「でも、もしかしたらまた目が覚めるかもしれないって、有り得ないことではないって担当医の先生が言ってたの!
希望はありそうで、あなたが来ればもしかしたらと思って…」と言われた。

二十数年も会っていない兄貴に会うのはすごく怖かった。
迷っていたからこそ、最初会ったときわざと病院を聞かなかった。
もし目を覚ましたとしても、私が誰か気づかなかったら?
私との記憶だけが無くなっていたら?そう思ったら聞けなかった。

彼女は再度、「あなたが最後の希望なの、お願いします…。」と深々と頭を下げた。
私は腹をくくって会うことを決めた。


数日後、私は兄貴の居る病院へきた。
あの女性に付き合ってもらって。
「病室、ここだよ。」と言って、案内してくれた。
ガラガラとドアを開ける。
緊張感が私の背筋を走った。
部屋の奥にあるベッドを覗き込む。
そこには一人の男性が眠っていた。
久しぶりに会ったその男性は、やせ細っていて身体の至る所に管が通っていた。
その見た目は正直少し怖かった。
「あの日から…ずっとこうなんすか?」
彼女に尋ねた。
「うん、そう。事件が起きてから今日までずっと…。」
泣きそうになっていると、その人は
「ちょっと二人きりの方がいいかな。私外に居とくね、何かあったら呼んで」
と言って半強制的に二人にされた。
あの人はたまに少し強引で怖い。

「…」
2人きりの部屋に静寂が訪れる。
なんて声をかければいいか分からない。
「お兄ちゃん?…私だよ…」
変わらず起きなかった。
当たり前か。私が来て話しかけてその声に反応して兄貴の目が覚めて万々歳!ハッピーエンド!読者の皆またなぁー!
なんて都合のいい事起きるわけがない。
ふと、顔に目をやる。
長いまつ毛にサラサラの黒い髪、私と同じ少し高い鼻。目の下には泣きぼくろがある。
「イケメンかよ、くそ…」
ふと手を見てみる。白く華奢で綺麗な手。
あ…私と同じ形の爪だ。少し丸みを帯びている、決して縦長ではない爪。嬉しくて思わずふっ、と笑いが溢れた。
「…ん?なんだこれ…」
気になる痣が腕にあった。
明らかに最近できたような痣だった。
その痣を触ろうとした時、ピクっと血管が動いた。
ん?と思って兄貴の顔に目をやる。

「え…。」

兄貴の目が、私を捉えた。
起きた…。

起きた!!!!!!!!!!

え?!え?!どうしよう…!
え!!!!!

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