有期契約労働者への賞与・退職金の不支給についての最高裁判決の評価

令和2年10月13日に、どちらも最高裁第三小法廷で、有期契約労働者への賞与の不支給及び退職金の不支給が(改正前の)労働契約法20条に反しないとの判決が下されました。

改正前の労働契約法20条は働き方改革に伴い削除されていて、現在は、ほぼパートタイム・有期雇用労働法の8条がそれに相当します(この内容は後ほど)。

改正前の労働契約法20条は、次の通りです。

有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

詳しくは最高裁判決の判決文をお読みいただくのが良いですが(裁判所HP→最近の最高裁判例などから読めます)、今回の二つの判決は、有期契約労働者に対して、無期契約労働者に支払っている賞与や退職金を支払わなくても改正前労働契約法20条にいう不合理には当たらない場合である、と判示しました。

判決では、(個別の認定については、特にメトロ事件などで若干微妙な点もありますが、)有期契約労働者と無期契約労働者とでは職務の内容が違う、人事異動などの範囲や可能性も違う、といったことが認定されています。

そして、もう一点、これらの判決の結論に影響を及ぼしたと考えられるのが、いわゆる正社員登用制度の存在とその運用です。

いずれの判決の事案においても、正社員(すなわち無期契約労働者)への登用制度が存在し、かつ、それなりに機能していた(〇年から〇年の間の数年間にわたり20人程度の登用といった実績が認定されています)ことが判示されており、この点は結論にそれなり以上の影響をもたらしているのではないでしょうか。有期契約労働者と無期契約労働者の間に労働条件の差があっても、それに不満があれば無期契約労働者を目指せばよい、ということにつながるからです。

また、退職金関係のメトロ事件については林景一裁判官の補足意見(林道晴裁判官同調)と、宇賀克也裁判官の反対意見が付されています。

林裁判官の補足意見について特に興味深かったのは、退職金制度を創設するには長年にわたる金員の積立なども必要であるので、使用者側の裁量が大きくなる、との議論です。実際、無期契約労働者の4分の1の額だとしても、会社経営には結構なインパクトだと思いますので、一定程度理解できなくはないところです。なお、労働組合との話し合い等で制度を創設するのは望ましいね、というのはその通りだと思います。

宇賀裁判官の反対意見では、実際のところ無期契約労働者よりも(延長を繰り返した)有期契約労働者の方が勤続年数が長くなることもある、有期契約労働者についても代務業務(いわゆる、シフトの穴埋め)を行っていた、といったところから、改正前労働契約法20条にいうところの不合理な相違にあたる、としたものです。

なお、冒頭に申し上げたように、改正前労働契約法20条は、パートタイム・有期雇用労働法(正式名称は短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)の8条に生まれ変わっています。条文は次の通りです。


(不合理な待遇の禁止)
第八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

改正前の労働契約法20条と比較すると、労働条件として基本給や賞与といったものが明示されていること、判断の基準がより明確化されていること、などが挙げられるように思います。

今回、改正前の労働契約法20条のもとでは、賞与や退職金の不支給は不合理な相違ではないとされましたが、パートタイム・有期雇用労働法8条のもとでも同じ判断になるとは限りませんし、事案が違えば(特に正社員登用制度の運用など)、結論も異なりうるので、今後も判例の傾向を見守っていきたいところです。

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