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【短編】本日はあめ

 東京に来て五日目の朝。初めて飴が降った。最近の天気予報はえらいもので、昨日の予報通り。外れはしなかった。
 カーテンを開けて外を見ると赤、黄、青、紫。ない色などないとばかりに、様々な色の塊がバラバラと降っていた。よく見ると飴はご丁寧に包み紙に包まれ、両端がねじってあった。

「東京は"あめ"が降るんだってなあ」

 先に上京していた幼馴染にそう言ったのは昨日のことである。
 イントネーションという概念が存在しない地方出身からすると、雨だろうと飴だろうと、発音は全て同じ"あめ"で統一されている。降っているものなど見て判断すればいい。
 テレビをつけると、外からの中継が流れていた。地面を叩きつける飴の音がうるさくてリポーターの声が聞こえず、スタジオとの会話が成り立たない。途中で中継は途切れた。
 七時を過ぎたところで携帯が鳴り始めた。誰からなんて考えなくてもわかった。

『すげぇ降ってんな。ベランダにちゃんと網張ったか』

件の幼馴染だ。

「張っといた」

 網は昨日ホームセンターで買ったもので、東京では必需品だぞと強く言われればそうかと納得して購入せざるを得なかった。先人には従ったほうが賢明だ。
 カンカンと時折鳴る音はベランダの手すりに当たり跳ねた飴の音で、ベランダに張っていた網には飴がすくえるほど集まっていた。

「どうすんだこれ」

『だから、飴屋に売るんだって』

 そういえば、そんなことを言っていたような気がする。

『もうすぐしたら飴屋が来るから。袋に入れとけよ。トラックが来たら下降りろよ』

 電話は切れた。
 まだ飴は集まりそうだが、遠くから飴屋飴屋とやかましく連呼する声が近づいてきている。両手ですくってその辺に転がっていたレジ袋に入れる。
 時折落ちてくる飴が頭に当たり、これが結構痛かった。
 なんとなく味が知りたくなって新しく網に引っ掛かったピンク色の包みを開けて口に入れてみる。食べられないこともない、とは幼馴染談だ。

 甘いような、甘くないような。でもやっぱり甘いような。

 口に入れてすぐ溶けて消えたそれは微かに桃の味がしたような気がした。包みの色がピンクだからそう感じたのかもしれない。
 これが東京の味かと思ったがここは東京は東京でもほぼ埼玉だ。しかし、言わずにはいられなかった。

「東京ってすげえなあ」
 
 袋の口を閉めてアパートの階段を走り降りた。

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