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公認心理師カリキュラム等検討会を振り返る(第1回:平成28年9月20日)【後編】ー熱き思いー

 第1回公認心理師カリキュラム等検討会では、各構成員が公認心理師への期待、養成に対する熱い思いが語られています。
 本稿ではそれを要約して書いていきます。議事録も結構詳細に逐語的に書かれているので、私の受け止め方でかなり要約してしまっている所もあります。勝手に見出しをつけたり感想を書いたりもしているので、ぜひ生の議事録も読んでいただければと思います。

本記事【前編】はこちら

議事録は厚生労働省HP内で公開されています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syougai_380707.html

全国児童発達支援協議会 副会長 米山明

子どもの発達とそれにかかわる諸問題への専門性への期待
 私自身小児科医でありまして、障害のあるお子さんたちの、いわゆる療育と言いますか発達支援。就学前のお子さんたちは、母親を中心とした家族支援ということが求められている。本人の発達を支援したり、成長発達を支援したり、あるいは育ちの基盤である家族を支援するという、当然のことながらそういうことを中心にする、それが療育と考えています。障害が分かる前からのいわゆる母子保健、あるいは妊娠のときから、今……というようなことも、母子保健のレベルでの心理師への期待も。発達障害等のあるお子さんたちに対する虐待の問題もあるので、そういう意味で子供の発達を丁寧にカリキュラムで勉強していただきたいと思っています。
保健医療分野について
 法第2条で保健医療と書いてあるのですが、実は保健というと先ほどの母子保健は行政が一番関わって、4か月健診から1歳半あるいは3歳、そして発達障害でよく言われる5歳健診とか、行政としての保健サービス。私も小児科医で病院で勤めていますので、医療という中では、これは精神科も発達障害も含めて気づきの段階というと、保健サービスのほうに入ると思いますが、もう一方で医療については保険診療ということで診療報酬にも関わってくる。保健医療の分野は、もしできれば職務が大分異なると思うので、分けていただいたほうが分かりやすいと思っています。それから保険診療で、今後、公認心理師資格要件が保険診療にどう求められるか。例えば、少し前にあった言語聴覚士の保険で言うとリハビリの中に含まれましたし、障害関係では障害リハ、あるいは精神の等々。いろいろな心理療法が関わるので、法律上はもちろん一緒ですが、もしできればここの内容を少し分けるほうが分かりやすい。
教育分野について
 支援を要する者について言うと、子供というところでは教育の分野に入っていますが、保健のところはもう小児保健というと乳幼児というのが就学前に入っています。教育のほうで児童・生徒・学生となっていますが、就学前のお子さんを是非「小児」として書き入れていただけたらと思います。
福祉分野について
 福祉の分野について申しますと、児童福祉施設の範疇に障害児施設が入っています。いろいろな調査では少し抜けてしまうこともあるので、いわゆる児童養護施設や里親等々がありますが、そこに障害児施設を入れていただくほうが、厚労省関係の家庭局あるいは障害福祉の両方に加わっていますので、そこを是非と思います。職務内容のところにも、「家族関係の調整」と「家族の支援」という言葉を入れていただけると、よりスムーズではないかと。
司法・法務・警察分野について
 司法・法務・警察に関する分野でも、医療としての精神疾患、あるいは子供でいうと発達障害等も含めて、医療との連携ということが大事になってくると思いますので、そこを是非入れていただきたい。
最後に
 子供の育ちというところでは、心理職の方が一番中心になってやっていますので、心理士の方々が本当に私たち医療の支えになっていますし、御家族の支え、それが子供の育ちの支えになると思いますので、是非そうした法律のほうも併せて進めていっていただければ。
 障害特性とか発達の特性に対することを親御さんに伝えるというような、ペアレントトレーニング、ペアレント・プログラムとか言っていますが、そうしたことを心理師さんが中心となっていくものと思われますので、是非と思います。
現任者について
 児童の福祉施設あるいはそういった小さな規模の施設はたくさんあります。そうするといろいろな区市のサービス管理、責任など、いろいろな管理者等々がある。現任で小規模だと多分、試験を受けるまでのカリキュラムをこなしきれない可能性があって、その辺は是非お含みいただきながら、公認心理師の試験に向けて準備をしていただければ。

【感想】
   小児科医だけあって、子どもをめぐる諸問題、保健・医療・教育・福祉・司法と多岐にわたる分野について意見されています。子供とその家族への支援という視点に立ち、分野や管轄の垣根を超えた専門性を持ってほしいという思い、諸分野にまたがる汎用性の資格への強い期待を感じました。

東京都調布市立飛田給小学校 校長 山中ともえ

 全国の特別支援学級の設置校の学校長協会の副会長もしている。学校のスクールカウンセラー、市区町村の教育委員会や教育相談所の中にいる心理職の方と、学校としては両方お世話になると思う。
スクールカウンセラー
 スクールカウンセラーのほうですが、お願いするような範囲がものすごく広がっています。いじめや不登校はもちろん、今のお話にも出てきました発達障害。中学校になると、反社会的な行動、暴力なんていうことに対応もします。何か事故がありますと、心のケアということで、心理職の方に学校へ来ていただきます。それから、発達障害とは少し異なると思いますが、精神疾患関係もあります。小学生でも、小児うつと診断されるような例もあります。それから、中学校になと進路相談の関係。あと、教員の悩みでどうしたらいいかなんてことの相談にも当たってもらっている。心理士の方もいろいろ専門があるので、なかなか大変な状況と思っています。
教育相談所のカウンセラー
 教育相談所のほうにもカウンセラーがいて、スクールカウンセラーでなかなか対応できない部分を、市区町村にいるカウンセラーのほうにつなげたりということもある。今、特別支援学級に入るお子さん、通級による指導のお子さんというのが、すごく増えている状況なので、そういったことの判断や相談というものもかなり増えている。
家庭の問題への対応
 家庭的なものにもスクールカウンセラーは対応しているのです。虐待傾向ですとか、家庭の問題というものも非常に多くなってきています。教育相談のスクールカウンセラーと、市区町村のほうの心理職と、連携していたりするのですが、なかなかそういうところがうまくいかない。
特別支援教育
 通級による指導だとか、特別支援学級に入るお子さんなどの検査もあると思うのですが、時間的なものもあってできないとか、スクールカウンセラーとしては検査のところまでできないということも。特に障害のところについては、そういった検査や判定に加わっていただくということがある。もちろんお医者さんのほうが診断はなさると思うのですが、学習障害だとか、そういったところでは、心理職の方の判定というのがずいぶん大きくなってくると思う。私たち教員がこのお子さんはLDだとか、アスペルガーだとかということは言えませんから、そういったところでの役割というのは非常に大きくなってきている。
分野をまたぐ連携
 医療ですとか、福祉だとか、場合によっては警察とかと連携していかなければいけないのですが、そういったところの知識も、スクールカウンセラーの方には持っていただかないと。ポンと来て、そこの地域のいろいろなシステムだとかが分かっていないと、なかなか有効な相談に結びついていかないのではないかと思います。
スクールソーシャルワーカーとの役割分担
 今はスクールソーシャルワーカーも入ってきていて、スクールソーシャルワーカーの中で公認心理師の資格を持ってということも出てくると思う。スクールソーシャルワーカーとの役割分担、その辺が分からない。実際にスクールソーシャルワーカーの方は、家庭に訪問したりということをしていただいている。その辺の役割分担みたいなものも。
スーパーバイザー制度
 スクールカウンセラーは各学校にいて、市区町村や都道府県でいろいろな研修を受けたりしていると思うが、そういう方のスーパーバイザーの制度。そういったこともきちんとしていないケースも少しあるので、そんなことも必要ではないか。

【感想】
 学校の校長、教員の立場からの意見ですが、さっきの米山構成員の話とも通じるところがあり、分野を超えた知識がないとうまく機能しない、連携できないという指摘が含まれていると思いました。公認心理師の想定している職域、これは「場所」で区切っているだけの便宜上のものであって、確かに分野ごとに特に必要とされる知識というのはあるかもしれないが、それだけじゃ現場では役に立たないよ、という事かと思います。公認心理師は、いろんなことをちゃんとわかっていて連携ができる専門家を育てて欲しいという思いを感じました。

一般社団法人日本臨床心理士会 会長 村瀬嘉代子

汎用性・現実的判断の教育
 この資格が出来るまで半世紀以上かかる間に、現実の心理的な問題というのは非常に複雑で、多層にわたる要因が絡んで起きている。例えば、この表(【前編】に掲載している「臨床心理技術者の職域と主な職務内容」)は一応分野別に分かれていますが、こんな分野の中にきれいに収まるというよりは、実は教育の問題を考えていきますと、そこに医療があり、福祉があり、その背景には産業の状況がどうかという、そうした広い視野で今何から着手すべきか、自分の立場で責任が取れることは何か、こういうときに、どこのどなたに、どのように御相談し、あるいは依頼するか、そうした現実的な判断を的確にできるという教育がベースではないかと思うのです。
憎まれ口
 憎まれ口のようではありますが、日本に外国から心理学がいろいろ輸入されたときに、どちらかというと理論と技法が先にありき。これが、やはり現実とちゃんと循環するような教育体制を作ること、それをカリキュラムに反映していくこと。問題の性質に応じて、いろいろな方と協力し、あるいはチームワークで仕事をしなくてはならない。そのような意味で、これまでの研修体制を少し見直していくことが、大きな課題。
表の補足
 ですので、ここの表は、これが抜けているとか、たくさんあると思います。例えばこの司法の所で裁判官となっていますが、本当にここでいい仕事をするためには、刑事さんですとか電話交換手とか、むしろそういう方と、どうやってさり気なくいい関係を持っているかということが、その職場で意味のある情報をきちんと得る、どう判断するかということにも影響しますので、この表は本当に骨子の所だと御理解いただけると有難いと存じます。以上です。

【感想】
 私が山中構成員の【感想】の所で触れた部分を言ってくれています。分野別に区分はしてるけど、実際の実務上は分けることはできない。広い視野で各分野について知っておいて、それを現実的な判断に結びつけることが求められると。それと理論や技法についても。海外で確立したこうしたものを、そのまま日本の社会・文化・風土、そしてそこに生きる国民に対して適用するためには、やはりそのための教育が必要だということ。
 村瀬構成員は、当時日本臨床心理士会の会長という立場であり、日本の心理職の中で一番取得者人数が多い資格である臨床心理士をこれまで牽引してきた一人という立場でもあると思います。これまでの臨床心理士教育の反省点を見直し、公認心理師の教育につなげるという事かと思います。

公益社団法人日本精神科病院協会 常務理事 林道彦

医療の中での心理職の必要性
 医療心理師国家資格制度推進協議会の会長もしております。精神科医療の領域に心理職が必要だという発端は、精神保健法改正の1987年まで遡ります。なかなか国家資格にそれが結びつかなかったのですが、現在も精神科医療現場に心理職の国家資格が必要だという認識には、全く変わりがありません。それどころか、医学や医療が昨今発展しまして、特に身体医学が進歩しまして、人の命を預かるという使命・視点から申しますと、心理社会的アプローチの必要性はむしろ高まっているのではないかと考えています。
医学の必修化
 チーム医療、これが精神科医療の質の向上に大いに役立っていると思います。ただ、心理職の資格といいますか、民間認定ですので、なかなか精神科医療現場に心理職の採用が進まないという現況があります。そこで、医療の中の心理職を考えてみますと、やはりカリキュラムの中に医学、あるいは精神医学や小児医学、そういうカリキュラムを是非必須で教えていただきたいというのが1点です。
7条2号ルート(Bルート)の実務経験と大学院の実習について
 医療機関の立場からしますと、無資格者を採用して、そこで2年間養成して、そして通るか通らないか分からない国家試験を受けてもらうということになる。そういう医療機関は、特に国公立となると皆無だと思う。このコースが有名無実にならないように、国家試験に当たっては平等になるような御配慮を是非お願いしたい。具体的には国家試験問題が、4大の座学の中から出題するとか、実習の問題を出題するとか。また、実務経験の年限は大学院と同じ2年間にしていただきたい。
 もう1点は大学院のコースに、医療機関での現場実習を入れていただけないかということを強く願っています。

【感想】
 精神保健法改正の1987年から約30年に渡って心理職の国家資格について議論されてきたがなかなか成立に結びつかなった。ようやくできた公認心理師という資格を、有名無実のものにしたくないという思いは精神科医としても強いのだと思います。そして医療の中で他職種と連携するには医学教育は必須だと指摘。
 実務経験については、無資格者を何年か雇って、それで国試に通らなかったらどうするのか、雇用側としての意見も出されていますし、もっともだと思います。新規取得者を雇用する以上に教育コストがかかるのに、わざわざ養成途上の無資格者を雇う施設があるのか。一方、法律(公認心理師法)で定めてはいるのだから、これを有名無実なものにしたくないという考えも示されており、実務経験の期間は2年が妥当だという考えを示しています。ただ、国試の内容は学部で学ぶ内容だけにするとか、その辺はちょっと暴論のようにも感じました。

東京少年鑑別所 首席専門官 鉄島清毅

刑事施設・更生施設の心理職
 この領域の心理職は、主に法務技官(心理)、心理技官と言われていまして、職域としては先ほどの表にもありましたが刑事施設といって、刑務所、少年刑務所、拘置所に勤務したり、少年院、少年鑑別所など、全国にある矯正施設で勤務する者が、全国で既に数100名いる。刑事施設に、受刑者の再犯防止と社会復帰のため調査をする者と各種のプログラムの実施に携わる職員。少年鑑別所の勤務者が最も多い。
採用と研修
 非行・犯罪臨床に関する専門性の獲得のため、採用後の独自の研修システムを中心に対応している。例を挙げると、初任から中堅まで、段階に応じた集合研修であるとか、勤務施設で、同じ心理職の者からのスーパーバイズを密に行う。加えて、矯正施設の職員は国家公務員総合職試験とか、法務省矯正心理専門職の採用試験によって採用された者であり、必ずしも心理職の資格取得は必須ではないものの、心理学等の専門性を想定した試験区分からの採用をしている。
少年鑑別所の新たな役割
 少年鑑別所法が昨年6月1日付で施行され、地域援助業務というのが正規の業務になった。これまで非行少年に対して面接や心理検査等を行うことで得た非行・犯罪に関する心理学の専門的なノウハウを、地域社会に還元して、非行・犯罪の防止、少年の健全育成に貢献していこうということで、地域の一般の方々の信頼を受け、直接心理的な支援をしたり、関係機関と連携したりするというのが急増している。そうした中で、国家資格としての公認心理師が法定され、地域の方々がより安心して我々のサービスを受けられる前提ができるのではと感じており、少年矯正の大きな転換期とも非常にマッチした、歓迎すべき動きと思っている。
公認心理師への期待
 現職の法務技官(心理)等が、公認心理師をこれから取得するというプロセスの中で、臨床家としての基本姿勢を再確認したり、非行・犯罪臨床とも関連する領域についての幅広い知識を吸収したり、連携を図る上で必須となる、各領域の法的枠組みをしっかり身に付けたりするということは、非常に有益だと考えています。
 これから公認心理師を目指す方には、矯正施設における心理臨床活動に興味関心を持っていただく意味で、非行・犯罪心理学を学んだり、少年法や少年鑑別所法という基本法規を学んでいただくことを期待している。
育成プラン
 実務を長く経験していると、この理論を当てはめれば事足りるという事例というのは、ほとんどない。カリキュラムのエッセンスをいかに効率よく学ばせるかということのみではなくて、勉強する側の主体性を損なわないような形にして、直面している事態や事象を自分がしっかり考えて、納得してから次のステップに進むような、そういう働き掛けができるようなプログラムを策定して、結果として現場で起きている実践と理論をうまく自分の中で統合していけるような、そういう素地を作れるような育成プランがあれば非常にいいなということを考えています。以上です。 

【感想】
 この領域の心理職は国家公務員として採用された後、独自の研修プログラムで養成されます。これまでの民間の心理資格よりも、その研修・育成システムの歴史もあるのだと思います。そういうところからも、エッセンスを効率よく学ぶだけでなく主体的に学ぶ、実践と理論を自分で上手く統合できる人材、そういう方を育てるのが大切なのだという思いがあるのかと思います。
 少年鑑別所の地域援助業務というのは従前から行われていたのですが、それが正規業務となったことで、かなり力を入れているということですね。そのためには多機関との連携も必要だし、そのための知識も要るので、公認心理師ができたというのはタイミングが良かった。既に採用されている技官にとっても学びの機会になるし、これから公認心理師を目指す人には非行・犯罪心理学や基本法規を学んでもらい、進路の一つとして知ってもらうチャンスでもあるという所ですね。
 この領域は施設と業務の性質上、他分野と比べると心理職が何をしているのか表に出にくい傾向もあります。なのでなかなか関心を持ってもらいにくい。カリキュラムでちゃんと定めて、こういう現場もあるんだと知ってほしいという思いはとても強いと思います。

東京保護観察所 民間活動支援専門官 角田亮

更生保護の立場から
 更生保護は、犯罪をした人や非行のある少年を社会の中で適切に処遇していくことによって、その再犯・非行を防いで、これらの人たちが自立して改善、更生することを助けるという活動。そのことによって社会を保護し、御本人と公共の福祉を増進しようというものです。その中心は、その罪を犯した人や非行のある少年を社会の中で生活させながら、定期的に面談して生活の様子を把握し、必要な指導や助言を行っていく保護観察という業務。
心理学の必要性(理解の視点)
 犯罪や非行の原因はいろいろあります。本人の資質的な問題は様々。資質的な問題だけではなく、家族の問題や友達関係の問題、その中での集団力学の問題、学校や職場での問題、地域社会の問題等、幾つもの要因が絡み合ったり、重なり合って犯罪や非行は生じている。こういう要因を見極めて適切な介入をしていくために、心理学における専門的な知識や技術が不可欠。
心理学の必要性(関わりの視点)
 保護観察の対象者は、必ずしも支援や援助を求めて面談に来るわけではない。処分として言われて来る。そういう中で、相手との信頼関係を確立し、変化への動機付けを行い、本人と地域社会にとって望ましい方向に生活を変えていっていただく、立て直していただくということが必要。そのためには、本当に高度な心理学的な知識と技術が必要とされます。
心理学の必要性(援助の視点)
 保護観察官は心理学を含む人間科学の専門職試験の合格者から採用されている。採用後も臨床心理学に関する研修を受け、特に認知行動療法に基づく各種専門的処遇プログラムも実施している。また、保護観察は地域の保護司と協働して行っているので、保護司の方々に対する助言、そして対象になっている方の御家族への助言、支援も当然行わなければならない。また、犯罪や非行の予防や犯罪者の立ち直りなどに関する地域社会に対する啓発活動も行っております。そういう意味でも心理学の専門的な知識や技術が生かせると考えている。
公認心理師への期待
 更生保護の分野では、触法精神障害者に対する医療観察も行われており、保護観察所に配属されている社会復帰調整官が、精神医療や精神福祉の関係機関とともにその社会復帰を促進している。今後、心理学に関する専門的知識と技術を持った公認心理師が保護観察官や社会復帰調整官として更生保護の業務に従事するようになれば更生保護の業界にとっては、より一層の専門性と社会的評価が得られることになると期待している。
実務経験について
 保護観察官や社会復帰調整官の業務の経験が、公認心理師の資格試験を受けるための実務経験として認められることを期待している。更生保護官署は、更生保護施設という民間の施設と一緒に仕事をしていが、この更生保護施設の職員の経験も実務経験としてお認めいただければと考えている。
カリキュラムについて
司法・法務・警察領域、我々の業界においては特殊な事情がある。対象の方の福利、立直りを支援するだけではなく、再犯を防止して社会を守るという課題もある。そういう面で2つの役割を持っており、そのような中で、面接で話した内容が面接者限りで終わるということはほとんどなく、守秘義務にも限界がある。本人の話だけではなく、事実の確認も重要な業務。最近の犯罪者の処遇においては、実証的根拠に基づいた業務が重要視され、犯罪者のリスクアセスメントの考え方、処遇プログラム、処遇の結果の評価の考え方についても理解が必要になってくる。その辺の所もカリキュラムに含めていただけるとよろしいかと。
 変化を求めていないが面接には来たという方に、変わっていただくためにどのように動機づけをしていくのかということ、関係機関との連携が非常に多くなります。チームでの援助の方法、コミュニティー心理学、社会内処遇も含めた犯罪者処遇に関する司法の制度、これらを御理解いただければ。扱っている対象者の性質上、依存症、攻撃性や衝動性ということに関する知識が不可欠。また、犯罪被害者の存在も忘れてはならない。犯罪被害に遭われた方の心理、これらの方のケアについても学ぶ必要がある。公認心理師としての倫理も重要な課題になるかと考えている。以上です。 

【感想】
 鉄島構成員の話は施設内処遇なのに対して、保護観察官や社会復帰調整官は、社会生活での処遇となります。来ないとか、居なくなるとか、そうしたことがないように、動機づけなど、関わりを作る能力というのはすごく必要になるのかなと思います。また、ここでもやはり他施設多職種との連携というのは大切ですね。援助の理論や技法だけでなく、制度についてもしっかり把握しておかなければならないところです。
 守秘義務については、制度上も一対一という関係だけではない訳で、クライエントは誰かと考えると、処遇の対象者と言えるのか、依頼人という意味では社会だったり国と考える事もできるのかな、などとも考えます。この職域だけの問題ではなく、他の分野においても他職種連携、チームであたる以上は守秘情報の範囲というのは常に考慮しなければいけないところとも思います。

社会福祉法人桜ヶ丘社会事業協会桜ヶ丘記念病院 理事長 佐藤忠彦

 精神科七者懇談会というものがあります。そこに2009年にこの問題について委員会が設置され、私は委員長を務めている。精神神経学会の委員にも属しております。林先生が紹介された推進協に、七者懇も入っている。
心理職と精神科医の関係
 なぜ、精神科医がこれだけ長年(心理の資格の問題に)関わっているのかというと、幾つかあるかと思う。19~20世紀にかけて心理学と精神医学は相携えて学問的に協働してお互いに発展し、お互いに敬恭し合ったということ。もう1つは、精神科医療機関関係で仕事をしている心理職の方は大変多いということ。そうすると、いわゆる多職種協働という点で、私どもは大変、歴史も経験もあるということは申し上げていいかと思います。
カリキュラムについて
 これまでの大学院や学部カリキュラムについては、批判といいますか指摘が大変多く、これを抜本的に変えてほしいということを委員会やいろいろな所でよく聞く。何が必要なのかというと、医療現場の実習や研修が非常に不足している。実習や研修をするための精神医学、医学一般の知識やカリキュラムが足りない。
倫理的な問題
 そのほかに法的な問題が多々あります。中でも先ほど御指摘がありました守秘義務、心理関係の先生方がお聞きになる利用者の方のお話、医者が聞く話、相互に患者がこっちは秘密だよ、あっちは秘密だよと言ったときに、どのように守秘義務を問題にするのかということは大変大きな問題。倫理の問題にもなる。
 身体疾患の問題。卑近な例は、うつ病だと思っていたところ頭蓋内の腫瘍であったということ。そういう法的、倫理的な問題があります。
専門性
 学会の委員会を主催している松田ひろし先生が、過去のシンポジウムでおっしゃったのは、とにかく心理は何でも屋でなければいかん、生活作りをしなければいかんのだと、大変、松田先生は地域のことをいろいろやっていらっしゃるので、あえておっしゃった。一方、大学や実際に研究を積まれている先生方から見れば専門性ということになろうかと思う。その辺の折り合いをどのように付けるのかということは大きな作業かと思う。
 そういう点で、我々の時代の医学教育は医者のことだけ。現場に長年いると、こんなこと教わっていないということが多くて、書類だ何だ法的な改正があれば対応するということに追われております。心理の先生方も是非、私どももそうなのだからということも押し付けがましいのですが、何でも屋であると同時に専門性というところの折り合いをどのように付けるのか。

【感想】
 精神科医の団体からの要望としては、林構成員もそうでしたが、医学のカリキュラムを取り入れろと言う事ですね。これは何も公認心理師を医療職に仕立てようという訳ではなく、医療以外での様々な場所で働くことがある公認心理師だからこそ、医療に繋いだ方が良いのかどうか、そうしたアンテナは持っておかないと、クライエントの不利益になりかねない、ということだと思います。
 何でも屋か専門性か、というのは折り合いという風に言ってるのでどうなのかなと感じます。何でも屋というのは、専門性がないという訳ではなくて最低限心理職としての専門性があった上で、ジェネラリスト的にやりなさいという事じゃないかなと思ったのですが、それはそれでそういう人がいていいし、そういう働き方がマッチする現場もある。心理の視点をもっていろんなことができるというのも一つの専門性だと考えます。一方で特定の領域に特化したスペシャリスト的な人もいる。特に公認心理師として折り合いをつけるという問題ではないんじゃないかと思うのです。まぁ、事務作業的なこともあるかもしれませんが、これは特定の職種に限った話でもないでしょう。

一般社団法人日本心理学諸学会連合 理事長 子安増生

日本心理学諸学会連合について
 1999年に創設された心理学及び、その関係学会の調和ある発展を期してということで設置されております。必ずしも心理学という名称が付いている学会ばかりではありません。 心理学は非常に総合的な学問で、いろいろな分野の方が心理学に参入されてきている。
基礎と実践の教育 
 基礎的と実践的な分野の両方が心理学に必要であり、両方の素養を持った方を育てるということで、口で言うのは簡単だが、実はこれは大変な事業です。そういう意味でカリキュラムをどのようにするのかということが非常に重要。資質を高めるためにはたくさんのカリキュラムを用意することが必要だが、片方では今現実に大学側にいるスタッフでどのようなことを用意できるのかということもあり、バランスの取れたカリキュラム編成も考えていただければ。
発達について
 既に米山先生や山中先生からも、子どもの育ち全般に関わる発達診断、発達障害、発達支援ということもありますが、これから高齢化社会に向けて加齢も重要な問題。生涯発達的視点が大事になってくる。発達という用語が行政用語の中にまだ十分定着しておりませんので、この辺のことについて私自身努力していきたいと思っております。
心理系と医療系の協調
 大事なことは、この資格は日本心理学諸学会連合、医療心理師国家資格制度推進協議会、臨床心理士国家資格推進連絡協議会、この三団体が会談を68回ぐらい重ねて、意見を合わせながら作り上げてきた資格。今後とも心理系、医療系が一体となって作っていくべき事柄であると最後に申し上げます。ありがとうございました。

【感想】
 基礎と実践の両立、そして養成機関の人員等の限界。大切な視点ですね。心理学、その隣接領域の学問も含めるととても幅が広くなります。それらを限られた養成の期間でどのようなバランスでデザインするか。それをこの検討会でやっていくのですが、果たしてどうなるか。と、当時思っていました。

日産自動車株式会社人事本部人財開発/HR プロセス
マネジメント部安全健康管理室 栗林正巳

産業・労働分野の状況
 職域を代表して少し要望を発言します。データにもありますように職域で心理士の方々が活躍されているのは9%。将来的には、これが広がっていくだろうという希望も含めて少し述べます。
 弊社では、10年ほどEAPを通して心理士の方に活躍していただいている。その状況は、当然、労働者が不調になったり、悩みがあるときに相談カウンセリングをしていただくという使われ方。
必要な知識
 本人に寄り添うということは心理士の方々はとても得意だが、職域を考えると労務管理の視点がかなり必要。カリキュラムの要望として、労働三法の基本的なところは理解していただきたい。取り分け労働基準法は知っておいてほしい。知った上で相談に乗ってほしい。
  もう1つは労働契約とはどのようなものなのかも、是非認知していただきたい。安定的な労務を提供できて期待されるアウトプットを出せるというところで初めて労働契約が成立するわけで、そこの観点を心理師の方々にも十分理解していただき、それに絡むと雇用機会均等法や労働安全衛生法も理解していただきたい。特にストレスチェックが法制化されたので、労働安全衛生法などはかなり関連が出てくる。
企業での経験
 知識的なところだけではなくて、企業とはどのような所なのかという経験を是非積んでいただきたい。企業側としてはインターンシップで受け入れることは全然構わないので、EAPの会社に一定期間勤めていただくということもいいかもしれません。あるいはリワーク施設で働いてみるということもいいかもしれませんし、産業保健総合支援センターで相談員をやるということも非常にいいことだと思う。そういう経験と労務管理的な知識を合わせ持ってやっていただければ、企業にとって非常に有効な心理職の方々が誕生してくるのではないかと日々思っております。以上です。

【感想】
 産業・労働分野での心理職の役割は、今後もっと必要とされるだろうと日々感じています。心理職も、自分でオフィスを構える人以外は労働者として雇われる、組織に属するということになるので、どの分野においても組織の視点は必須となるし、組織に対して何が出来るかと考えると、産業・労働分野での知見というのは大変役に立つだろうと考えます。
 例えば、病院で医療分野の心理師として雇われたから、職員の対応はしません。とか、そういう事を言っていると「シンリシさんはどうも扱いにくいなぁ」と思われてしまいます。現場によっても違うでしょうが、そういう話が出たら乗ってみる、あるいは提案してみる。ちょっとやってみて、主要業務もあるからなかなか難しい、メンタルヘルスを主にやるための心理師を雇えないか、そうやって雇用が増えていけばいいなぁと思っています。

日本臨床心理士養成大学院協議会 会長 川畑直人


 全国に170校ある臨床心理士を養成する大学院の代表をしている。また、臨床心理士会の副会長も務めている。私自身キャリアの全てを心理専門職としての仕事、教育に捧げてきたので、公認心理師制度の行く末に対して深く思いを寄せている。
公認心理師の役割
 極端に単純化して申し上げます。国民の心の健康の保持増進のために公認心理師に求められる役割は、どのような現場や職に就こうとも次の3点に集約できる。第1は人と関わること、第2は人の心を理解すること、第3は得られた理解を本人、若しくは周囲の人間の幸せにつなげること。
 通常関わりが求められるのは、打ち明けられない悩みがある、精神疾患や発達障害を抱えている、虐待により大人を信用できない、人と人、集団間の対立や葛藤に巻き込まれている等、コミュニケーションが難しい状況。そういう状況で人の心を理解することは簡単ではない。かすかな表現やサインを見落とさず、想像力を働かせながら言葉にならない思いを酌み取ることが求められる。その理解を本人や周囲の幸せにつなげるため、置かれている状況や環境、人間関係、生きてきた歴史を考慮して自らの知識と経験を重ね合わせ、一定の認識まで高めなくてはならない。その認識を当事者や周囲の方々に理解できる言葉に翻訳して伝える技術を持っていなければならない。
求められるカリキュラム
 このようなことができる人材を養成するために学ぶべき心理学は、実験室で明らかになる統制された要因間の法則性の集積よりも、生きた人間が実生活や社会環境の中で体験する事柄に向けられた心理学である。もちろん、科学的思考法を理解させるために、実験デザインや統計の手法を学ぶことは重要。しかし、それらは先に述べた生きた人間が直面する心理学的課題の追及に活用されることが重要で、それゆえ、観察や面接等、質的研究領域を重視すべき。
 第2に、社会の様々な領域において役に立つ実践を行うために、心理学以外の隣接関連科目を充実させるべき。特に医学、精神医学、保健学の知識は、どの分野においても必要。しかし、領域横断的な仕事が期待される公認心理師には、教育、福祉、司法、産業についてバランスよく学べる環境が必要。
 第3に、人と関わる能力を養うために、実際に人と出会い、人と交流を持つ実習に力を注ぐべき。中でも個々のクライアントと信頼関係を築きながら、継続的に相談関係を維持する能力は、公認心理師に求められる技量の要になる。それを養うために学内相談施設でスーパービジョンを受けながら継続的な面接を行うという、臨床心理士教育が培ってきた方法は、絶対に教育の中心に据えるべき。
アセスメントの教育
 心理検査の実施、採点という単なる手続を覚えるのではなく、個々のクライアントとの出会いの中で人格全体の理解の中に検査結果を反映させる視点を養うべき。外部機関の実習においては、実務に触れるということ以上に、そこで体験する事象を心理的視点から理解するように臨床実践歴のある指導者を交えた振返り討論、あるいはスーパービジョンを組み合わせる必要がある。
体験的な学びとしての実習
 臨床実践を含む実習は大学院教育に置かれるとしても、学部の時代からPBLやALを活用した教育によって、体験から学ぶ姿勢を準備させるべき。他職種との連携、チームとして仕事をする能力を養う上でも重要。いずれにしても、このような臨床実践を含む教育は心理専門職を育てるためには必要なので、大学院での教育は欠かすことができない。もしこの資格を学部教育だけで取ることができる安易な資格にしてしまうと、せっかくできたこの国家資格制度を台無しにする、あるいは本当に役に立つ心理師を必要としている現場に大きな混乱を引き起こすと考える。
卒後教育を見据えてのカリキュラム
 心理専門職の教育は決して大学院修士課程で完結しないという認識を、教える側、学ぶ側、社会の側も共有する必要がある。資格取得後、実践領域の経験を踏まえて専門性を高めていく努力が必要で、そのためになるべく早い段階で卒後教育のグラウンドデザインを描き始め、その大きな枠組みの中で大学院までの教育を考えるべきです。以上です。

【感想】
 「人間の幸せにつなげる」非常に大切なところだと思います。そのためにどんな教育が必要なのか、養成課程での教育はその基礎の部分だという事。そして基礎をしっかり作っておくことが大切だと考えます。最初の会合での意見ということもあり、カリキュラム(内容)よりも教育の在り方や姿勢について強調している感じでしょうか。

公益社団法人日本医師会 常任理事 釜萢敏

幅広い分野に対応できる公認心理師
 医療に携わる立場で心理職の方にも、大変お世話になってきた。私は心理職の方は、教育の立場から出てきており、医療をやっていた者とは少し認識の違いがあったという思いを持っている。今後のカリキュラムの検討に当たっては、そこのところはしっかりすり合わせができれば。保健医療それ以外の部分においても、公認心理師の果たす役割は非常に大きいので、それらに全てしっかりと対応できるカリキュラムを作らなければいけない。まず、この資格を取得するところをクリアして、その後しっかり卒後教育をやっていかなければいけない。
人口減少、少子高齢化を見据えて
 私は医療従事者の今後の養成、需給に関わってきている。これから人口がどんどん減少して、若年の人口は特に減る。その中で、この職種にどれだけ優れた人材を集められるのかということが非常に大事な問題なので、そのことを皆様に踏まえていただき、是非、御議論願いたい。

【感想】
 心理の人が教育から出てきた、というのはちょっと「?」と思いましたが、まぁ歴史的に教育学部に心理学科が設立されている大学もあるし、スクールカウンセラー事業で心理職の存在が広まった背景などもあるので、そうみられるのかな…と。日本医師会からの出席者に「保健医療それ以外の分野においても~しっかり対応できるカリキュラムを作らなければいけない」と言ってもらうのは心強く思います。

公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会 常務理事 大野博之

臨床心理士資格認定協会
 資格認定協会の立上げは1988年。3万人を超える臨床心理士を養成認定し、その後の研修を義務として5年ごとの資格更新制を整備した。その内容は、心の専門家に固有に求められる職業倫理に基づく専門資質等の維持向上を図りながら、公益に資する諸事業を運営している。
 臨床心理士養成大学院、認定事業において、平成28年度現在、170の大学院の認証を行っている。155が第1種、残りが第2種です。第1種については、附属実習施設の設置が必須。有料相談機関として地域貢献を果たしながら教育に従事するという形を取っている。
カリキュラムについて
 公認心理師が法律で認められた、我々も積極的に受け入れる方針。基本的なスタンスは、いろいろな問題を持つ人たちに対する対応の仕方をしっかり見据えながら、同時に我々の所では教育の立場でいえば、公認心理師がどのように育っていくのかということは臨床心理士との兼ね合いもありますので、共存共栄の立場から、その内容について検討を進めたい。
 幾つかある懸案の中で今回特に触れておきたいことは、公認心理師法第7条第2号における、これは受験資格と学部卒業者の関係ですが、学部卒業者の実務経験について。
実務経験について
 臨床心理士資格認定協会の見解では、学部卒業者に必要な実務経験が最低5年必要と考える。公認心理師は法にあるように、保健医療、福祉、教育の3領域を基本に汎用性のある資格として位置付けられていることです。学部卒後、最低この3領域の研修を必須とするならば、現実的に5年でも足りないかという考え。
社会人の扱い
 社会人の取扱い。実際、医療の関係、例えば医師や看護師の方も、臨床心理士の資格を取っている。そういう意味で多職種との関係については、常日頃、念頭に置きながらやって取り組んでいる。社会人についても配慮をお願いしたい。

【感想】
 これまでの本邦で、心理職系の資格で最も取得者人数が多い臨床心理士、その資格を認定している大元の発言です。本稿執筆時点(2020年11月)でも公認心理師との「共存共栄」を謳っていますが、その具体については曖昧なまま。この頃から言ってはいたんですね、「共存共栄」。
 逐語風の議事録ですが、いくらかの省略はあるでしょうし、その正確な文脈は分からない、と断りを入れた上でですが、「臨床心理士との兼ね合い」と言うのはいただけない。認定協会としては臨床心理士との差別化をして欲しいのでしょうが、公認心理師がどのようなものになるのが広く国民のために役立つのか、という話をしている時に『既得権を侵害しないでくれ』と言っているようにも聞こえる。臨床心理士という資格が生き残ること前提で、新しい資格の話を進めるというのは違うんじゃないかな、と思います。
 うがった見方かもしれませんが、認定協会の言う「共存共栄」というのは、共に発展していこうというポジティヴな言葉ではなく、どうにか臨床心理士が生き残る道を探すというルサンチマンなんじゃないかと感じてしまいます。

一般社団法人日本スクールカウンセリング推進協議会 副理事長 石隈利紀

公認心理師資格の位置づけ
 スクールカウンセリング推進協議会から来ており、同時に日本学校心理士会の会長をしている。公認心理師と他の資格がこれからどのようになるのか。公認心理師は全ての領域に関わる基本的な資格を目指している。ほかの資格は2階建て、学校や産業の領域が強くなることを目指していく。ただ、他の資格もこれから頑張って力を上げていかなければ公認心理師の上に来ませんので、しばらくは両方持っているということでアピールするのかと思っている。
学校現場の心理支援職
 スクールカウンセラーは平成7年から臨床心理士の方の貢献でかなり定着してきている。臨床心理士の方が約84%で残りの16%が学校心理士、教育カウンセラー等。それから特別支援学校の地域支援の先生方は、いろいろな学校に行ってアセスメントをしたり家族支援をしたりと、アメリカのスクールサイコロジストのような仕事をしているで、これも心理職に近い。
 そしてフレックス高校や定時制の学校では、教員という立場で専任カウンセラーという、ほとんどカウンセリング中心の仕事の人もいる。そういうものを含めて、これから附帯決議の既存の資格として、例えば、学校領域では臨床心理士を筆頭に学校心理士、臨床発達心理士、特別支援教育士、ガイダンスカウンセラー等が検討材料になると思っている。
予防開発的援助
 村瀬先生に作っていただいた横長の表はとても分かりやすく、教育に関する分野で主な職務内容の最後にストレスチェックがある。これはとても大事で、今回の公認心理師の行為の2条の4項にあるように、予防開発的なことを学校の教員や職員、心理職、福祉職等が協力してやるというところが、私は主な職務内容の1つになるのではないかと思っている。そして予防開発的な援助により虐待や貧困の連鎖を防ぐというところでは、かなり現場が頑張っている。教職員のチームに心理職が入って、ほかの専門家とつないでいけるといいのかと思う。
サイエンティスト・プラクティショナーモデル
 先ほど子安先生がおっしゃったサイエンティスト・プラクティショナーモデルが、アメリカ等ではサイコロジストのスタンダード。サイコロジストがきちんと心理学を学んで、心理学的な技法だけでなく、その心理学にはバイオサイコソーシャルというか、生理心理学的なことも含めて、まずきちんと学ぶ。
 それから、プラクティショナーは現場で実践ができるということ。これは、ただ勉強して現場に行っているということだけではなく、現場経験の中から、きちんとエビデンスを見つける。最近、エビデンス・ベースド・プラクティスとよく言いますが、実際に現場でやってみると、プラクティス・ベースド・エビデンスという視点も重要。カリキュラムの中で、心理学を学ぶことと、現場で学ぶということのバランス。村瀬先生がおっしゃった循環ということがポイントになる。 

【感想】
 公認心理師を基礎資格として、これまでの資格をその上位資格に位置づける2階建て構想。学校心理士や臨床発達心理師、産業カウンセラー等の特定分野についての既存資格はそうした道も有りうる。ただ、そのためには公認心理師よりも上にくるような設計をしないといけない、という話ですね。まずは基礎となる公認心理師をしっかり作る。
 予防開発的なところ、。出てきた問題に対応するだけでは問題の根本までたどり着かない。問題の発生を予防するという視点は大切だと思います。
 サイエンティスト・プラクティショナーモデルについて、エビデンスを基に実践を行うだけじゃなくて、実践の中でエビデンスを見つけていく。サイエンティストですからね、既存の知見を扱うだけじゃなくて自分で新たな知見を見つけていかないといけない、という事ですね。

第1回検討会のふりかえり(私的雑感)

 思ったより長くなって前後編に分けました。これから公認心理師の中身を考えていこうという、その第1回目の集まりですから、構成員の皆さんも非常に意気込んでおられたと思います。今回はカリキュラムの内容は議論されていないので、そんなに何回も読み返してこなかったのですが、公認心理師とはどうあるべきか、その一番基本的な話がされているのでとても重要でした。公認心理師は働く現場、「分野」と言われますが多岐にわたり、分野の中でもいろんな役割があるので、必要な知識や技能は様々です。養成段階で何を学ぶのか、とても大事な事を今後の検討会・ワーキングチームで議論をしていきます。

個人的キーポイント
 今回で非常に大事なところは、北村座長も言っていた「アウトカム・ベースド・エデュケーション」というところ。何を学ぶかをただやみくもにアレもコレもと詰め込んでも意味がない。公認心理師の養成課程でどんな人材を育てるのか、国試を通って資格取得段階でどんな公認心理師がキャリアをスタートさせるのか、そうしたゴールを設定して、そのためにどんな教育が必要かを作っていく。2階建ての上位資格の構想をもっている所もこの時点からあるようですが、それについてもいえることだと思います。上位資格者とはどんな人材なのか。ただ学会の作った研修なり講習を受けましただけではなく、認定の過程をしっかり作らないと意味がない。
 もう一つは、大学と大学院(あるいは実務経験)の6年間というごく短い期間でどれだけのカリキュラムをこなせるか。想定されているだけで5分野、それぞれで必要とされるものも少しずつ異なるので、学ぶべきことは非常に多くなり、学生の負担、教員の負担、実習や実務経験施設ではその現場の指導者の負担もあります。必要だからと言ってアレコレ詰め込んでしまって良いのか、ゆとりのないところに学びは生まれるのか。そんな危惧もありました。
 心理学についてしっかり学ぶカリキュラムは必要だとは思いますが、学部の段階ではそれ以外の、心理学近接領域はもちろん、一見心理学に関連しないような学問領域に関しても、興味の赴くままに学ぶ機会を作ってほしいと強く思っています。サイエンティスト・プラクティショナーモデルという話も出ました。サイエンスは自然科学だけでなく社会科学、人文科学も含むという捉え方があります。公認心理師は言うまでもなく、生きた人を相手にしますので、生物としての「ヒト」だけでなく、社会の中で生活をしているひとりの「人間」、唯一無二の「その人」について理解をしなければ支援はできません。心理学だけをガチガチに詰め込むようなカリキュラムにならなければいいな、と願っていました。

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