公認心理師の受験資格②

 公認心理師の受験資格①
では、公認心理師法第7条に規定される、所謂正規ルートについて書きました。本稿では特例措置での受験資格について書きます。

特例措置での受験資格

 受験資格の特例措置は公認心理師法附則第2条に規定されています。
(以下条文)
第二条 次の各号のいずれかに該当する者は、第七条の規定にかかわらず、試験を受けることができる。
 この法律の施行の日(以下この項及び附則第六条において「施行日」という。)前に学校教育法に基づく大学院の課程を修了した者であって、当該大学院において心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めたもの
 施行日前に学校教育法に基づく大学院に入学した者であって、施行日以後に心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めて当該大学院の課程を修了したもの
 施行日前に学校教育法に基づく大学に入学し、かつ、心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めて卒業した者その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者であって、施行日以後に同法に基づく大学院において第七条第一号の文部科学省令・厚生労働省令で定める科目を修めてその課程を修了したもの
 施行日前に学校教育法に基づく大学に入学し、かつ、心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めて卒業した者その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者であって、第七条第二号の文部科学省令・厚生労働省令で定める施設において同号の文部科学省令・厚生労働省令で定める期間以上第二条第一号から第三号までに掲げる行為の業務に従事したもの
 この法律の施行の際現に第二条第一号から第三号までに掲げる行為を業として行っている者その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者であって、次の各号のいずれにも該当するに至ったものは、この法律の施行後五年間は、第七条の規定にかかわらず、試験を受けることができる。
 文部科学大臣及び厚生労働大臣が指定した講習会の課程を修了した者
 文部科学省令・厚生労働省令で定める施設において、第二条第一号から第三号までに掲げる行為を五年以上業として行った者
 (略)
(以上条文)

 ということで、附則第2条1項に4ルート、同条2項に1ルートの計5ルートがあります。

ややこしいので、厚労省HPにある受験資格取得方法(心理研修センター作成)の図を貼ります。(https://www.mhlw.go.jp/content/000306882.pdf)

資格取得方法

 附則第2条1項1号~4号までが区分D1~Fに、同条2項が区分Gに対応しています。ちなみに、前回書いた正規ルートは区分A~Cになります。
 巷では「区分〇」と言ういい方よりも「〇ルート」と言われているのを聞くことが多いので、以下からは「〇ルート」とします。

上記の特例措置の各ルートをまとめると
〇D1ルート:
 2017年9月15日より前に大学院を修了している人
 ⇒履修科目の読み替えができれば受験資格あり
〇D2ルート:
 2017年9月15日時点で、大学院に在籍していて修了していない人
 ⇒必要科目を履修して修了することで受験資格取得
〇Eルート:(説明のため勝手に分けます)
 E-1:2017年9月15日時点で、大学卒業していて大学院に在籍していない人
  ⇒大学の履修科目が読み替え可能であれば、大学院に進学し、必要科目を履修して修了することで受験資格取得
 E-2:2017年9月15日時点で、大学に在籍している人
  ⇒大学で必要科目を履修して卒業し、大学院に進学し、必要科目を履修して修了することで受験資格取得
〇Fルート:(ここも説明のため勝手に分けます)
 F-1:2017年9月15日時点で、大学卒業していて大学院に在籍していない人
  ⇒大学の履修科目が読み替え可能であれば、指定機関での実務経験を経て受験資格取得
 F-2:2017年9月15日時点で、大学に在籍している人
  ⇒大学で必要科目を履修して卒業し、指定機関での実務経験を経て受験資格取得
〇Gルート:
 2017年9月15日時点で、法第2条1号から3号までに掲げる行為(※)を行っていた人
  ⇒現任者講習を修了し、施行規則(省令)第5条各号に該当する施設で5年以上の実務経験があれば受験資格取得

(※)法第2条1号から3号に掲げる行為
 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。
 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。

各ルートの注意点

Gルートだけ期限付き
 最も大きな注意点としては、Gルートだけは「この法律の施行後五年間」と期限が定められているという所です。
 現在の公認心理師資格試験スケジュール(予定)(https://www.mhlw.go.jp/content/000664598.pdf)によると、2022年7月頃に行われる第5回試験までの期間限定の受験資格となっています。
 また、5年以上の休職・離職等ブランクがあると、実務経験の期間が合算されないので、そこにも注意が必要です。

 一方、D1~Fルートには期限の定めはありません。受験資格を得た後はいつでも受験することができます。また、大学を卒業していて科目の読み替えができていれば、任意のタイミングで大学院進学又は指定機関での実務経験のコースに進んでE・Fルートでの受検資格を目指すこともできます。
 ただし、今後養成カリキュラムの見直しなどが行われれば、当然科目読み替えの考え方も変わってくる可能性もあります。あくまで「現時点では」期限が決められていないと考えるほうが良さそうです。

科目読み替えが出来なかったら
 D2・E-2・F-2ルートは、在学中なので必要科目をちゃんと履修して卒業・修了すれば良いのですが、D1・E-1・F-1ルートは既に卒業・修了している方なので、科目読み替えが可能かどうかが、受験資格を得るためのカギになります。

大学院の履修科目の読み替えができない場合
D1ルートでの受験資格は得られません。受験資格を得るには…
 ①Gルートの条件を満たせば受験可能
 ②大学の履修科目が読み替えできれば、大学院に入りなおしてEルートの受験資格を目指す
 ③大学の履修科目が読み替え出来れば、指定機関での実務経験を経てFルートの受験資格を目指す

大学の履修科目の読み替えができない場合
Eルート・Fルートでの受験資格は得られません。受験資格を得るには…
 ①Gルートの条件を満たせば受験可能(そもそもGルート受験ができれば、大学院進学や指定機関での実務を要するE・Fルートでの受験は考えないかもしれませんが…)
 ②大学に入りなおしてA・Bルートの受験資格を目指す

というように、科目読み替えができず、Gルートの受験資格も満たし得ない、となると大学又は大学院に入学し直さなければならなくなるので、非常に大変です。
 現在、在学中の方々も単位の取得忘れには用心してください。

「特例措置」であるということ

 本稿で確認したのは、あくまで「受験資格の特例措置」であり、現任者や履修中の学生への配慮のための制度です。Gルートは2022年の試験で受験資格失行、法施行時に大学1年生だった方もストレートにいけば2023年の試験を受験でき、2024年の試験からはA・Bルートの正規課程で養成された受験生も現れます。
 Gルートの認定基準が甘いとの批判もあり、そのことを以て「公認心理師の質は低い」と危惧する声も聞きます。私の周囲では実例を聞かないのですが、噂では「クリニックの受付業務で認められた」や「業務上の部下への監督・指導をもって認められた」等という話も聞き、そこまで拡大解釈されると現任者ってなんなんだ、と思わなくはないです。事実とすれば制度設計上の問題はあると思います。
 ただ、こうした危惧の声が広まることで、公認心理師全体の質が低くみなされる事を私は懸念しています。

「公認心理師の質は低い」という声に対して留意したいのは
①受験資格は試験を受けるための資格であって、合格を担保しない
②あくまでも「特例措置」であり、特にGルートは期限も決まっている

という点です。
 ①は「受験者≠合格者」という当たり前のことです。受験資格の認定が甘くても、それがそのまま試験に合格して公認心理師となる訳ではありません。現任者とするには明らかな疑問があるような、制度上の欠陥のために受検資格を得た方が、受験者のうちにどのくらいいて、どのくらいが合格しているのか、現時点で公表されているデータでは分かりません。そういう人を数名知っているとか、噂に聞いたというレベルに過ぎず、実態は分からないのです。不正確な情報を基に、公認心理師全体(またはGルート合格者全体)の質が低いとも受け止められ兼ねない言説は慎むべきと思います。
 ②は、現在は「特例措置」での受験者しかない移行期間であることの確認です。Gルートに関する発信の中には、特例措置のが期限付き受験資格であることが添えられていないものも見かけます。現任者であれば学歴や職歴に関わらずGルートでの受験資格を得る可能性はありますが、これが特例措置期限と切り離されて、批判的に「(ザルな審査で)誰でも受験資格が得られる資格」(≒だから質が低い)という部分だけが広まってしまうことを懸念します。公認心理師という資格そのものの価値の毀損に繋がります。

 公認心理師はまだできたばかりの新しい資格です。関心を示す人、これから情報を集めようとする人もいるでしょう。まだまだ国民に広く知られた資格というわけではありません。これから知ってもらわなければならない段階です。
 なので、制度上の欠陥を議論し指摘するのは正しい行いだと思いますが、そのために誤解が広まってしまうのは避けたいです。誤解のせいで公認心理師という資格とその登録者が低く評価される、そうした社会意識が形成されてしまうことを心配します。
 公認心理師資格及び公認心理師制度を良くしていくための建設的な議論はするべきです。ただ、議論する場所や情報の受け手について考慮し、誤解を招きかねない不十分な情報を拡散しないように注意することも必要です。

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