公認心理師の受験資格①

 2015年に公布され、2017年から施行された「公認心理師法」。日本で初めて心理援助職の国家資格ができました。
 その受験資格について、「学歴は関係ない資格」、「専門学校で取れる資格」とする誤解も耳にします。そしてこうした誤解からなのか、「公認心理師は質が低い」とする声もあります。
 本稿はこうした誤解について考えてみます。

公認心理師の受験資格(大枠)

 受験資格については公認心理師法第7条に規定されている。

(以下法文)
第7条 試験は、次の各号のいずれかに該当する者でなければ、受けることができない。

 学校教育法(昭和22年法律第26号)に基づく大学(短期大学を除く。以下同じ。)において心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めて卒業し、かつ、同法に基づく大学院において心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めてその課程を修了した者その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者

 学校教育法に基づく大学において心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めて卒業した者その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者であって、文部科学省令・厚生労働省令で定める施設において文部科学省令・厚生労働省令で定める期間以上第2条第1号から第3号までに掲げる行為の業務に従事したもの

 文部科学大臣及び厚生労働大臣が前二号に掲げる者と同等以上の知識及び技能を有すると認定した者
(以上法文)

 上記はそれぞれ1号ルート、2号ルート、3号ルートと呼ばれる事もある。
 1号ルートは、大学+大学院
 2号ルートは、大学+指定施設での実務経験
 3号ルートは、主に海外で心理学等公認心理師となるために必要な科目と同等以上を修めた者が想定される

その他その者に準ずるもの

 1号及び2号では、「その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者」という文言がある。これを確認するために、省令(公認心理師法施行規則)を参照する。

(以下省令)
第4条 法第7条第1号の文部科学省令・厚生労働省令で定める者は、次のとおりとする。

 学校教育法(昭和22年法律第26号)による大学(短期大学を除く。附則第8条第1項第1号を除き、以下同じ。)において第1条の2各号に掲げる科目を修めて同法第102条第2項の規定により大学院への入学を認められた者であって、同法による大学院において第2条各号に掲げる科目を修めてその課程を修了したもの

 学校教育法による専修学校の専門課程(学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)第155条第1項第5号に規定する文部科学大臣が指定するものに限る。附則第8条第1項第2号を除き、以下同じ。)において第1条の2各号に掲げる科目を修めて卒業した者であって、同法による大学院において第2条各号に掲げる科目を修めてその課程を修了したもの

 法第7条第2号の文部科学省令・厚生労働省令で定める者は、次のとおりとする。

 学校教育法による大学において第1条の2各号に掲げる科目を修めて、同法第102条第2項の規定により大学院への入学を認められた者

 学校教育法による専修学校の専門課程において第1条の2各号に掲げる科目を修めて卒業した者
(以上省令)

 第4条2号及び同条2項2号で、「専修学校の専門課程」の語が出てくる。これが「専門学校を出たら取れる資格」という誤解の発端だと思う。
 まず言えるのは、専修学校の専門課程を卒業した後に、大学院で科目を修めて終了するか、指定施設での実務経験が必要となることだ。つまり、専修学校の専門課程を卒業するだけで公認心理師受験資格を得られるルートは存在しない。
 また、専修学校なら何でもいいかというと、そういうわけでもなさそうなので、学校教育法施行規則の該当箇所も確認する。

(以下省令)
第百五十五条 学校教育法第九十一条第二項又は第百二条第一項本文の規定により、大学(短期大学を除く。以下この項において同じ。)の専攻科又は大学院への入学に関し大学を卒業した者と同等以上の学力があると認められる者は、次の各号のいずれかに該当する者とする。ただし、第七号及び第八号については、大学院への入学に係るものに限る。

(一〜四の二まで省略)

 専修学校の専門課程(修業年限が四年以上であることその他の文部科学大臣が定める基準を満たすものに限る。)で文部科学大臣が別に指定するものを文部科学大臣が定める日以後に修了した者
(以上省令)

 つまり、専修学校というだけでは要件を満たさず
1.修業年限が4年以上
2.文科大臣が定める基準を満たす
を前提にして
3.文科大臣が指定する
専門学校でなければならない。

 文科大臣が指定する専修学校専門課程は文部科学省のHPで一覧を見ることができる。
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shikaku/07111316/002.htm
 平成30年3月28日現在となっており、更新されているのか不安だが、文科省HP内を検索してもどうやらこれが最新のようなので、平成30年3月28日以降に新たに指定された専修学校専門課程はないと考えたほうが良さそうだ。そしてこの一覧には、公認心理師になるためのコースや学科はなさそうである。

 1号ルートでの養成を大学+大学院としたために、大学院への進学資格を有する「指定された専修学校専門課程を卒業した者」を制度上加える必要があった。しかし、文科大臣が指定する、公認心理師になるための科目を修められる専修学校専門課程は未だ存在しない、というところだろう。

2号ルートの指定施設

 法7条2号には、「文部科学省令・厚生労働省令で定める施設において文部科学省令・厚生労働省令で定める期間以上第2条第1号から第3号までに掲げる行為の業務に従事したもの」とあり、実務経験を積む施設と期間を省令で定めることになっている。
 単に大卒で経験を積めば受験できる、という訳ではない。
 指定機関については、厚労省HPに掲載されている。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000210738.html
 現在、全国9施設。うち2施設は「少年鑑別所及び刑事施設 」、「裁判所職員総合研修所及び家庭裁判所」なので、公務員として採用された上での研修となる。民間での2号ルート施設は現在7施設とまだまだ少ない。
 期間については省令にて定めており
(以下省令)
第6条 法第7条第2号の文部科学省令・厚生労働省令で定める期間は、2年とする。
(以上省令)
とあるので、2年以上の期間従事する必要がある。
 指定施設では、公認心理師を養成するカリキュラムを備える必要があるので、2年になるかそれ以上の期間になるかは、その施設のカリキュラム次第となる。

①のまとめ

 本稿で見たのは、法7条に定められたルート(移行期間の特例措置に対して、正規ルートとでも言おうか)についてだった。特例措置については②で触れたい。
 まとめてみると
○1号ルート
 大学(指定された専修学校)+大学院の6年の養成
○2号ルート
 大学(指定された専修学校)+指定施設での実務経験(2年以上)の最短で6年の養成
○3号ルート
 外国の大学において心理に関する科目を修めて卒業し、かつ、外国の大学院において心理に関する科目を修めてその課程を修了した者等

 となります。指定を受けた専修学校専門課程は見当たらなく、2号ルートの指定機関も少ないので、当面は大学+大学院がメインルートとなるでしょう。
 指定専修学校が今後増えるか?というと、そこまででもないと考えます。
 理由としては、専修学校の課程で養成が完結しない(大学院進学もしくは数の少ない指定機関への就職をしなければ受験資格は得られない)、4年課程が必須、ということから、大学に比べてのメリットがないからです。
 大学と同じ4年間通うなら、学費は国公立大に比べて安くはならないでしょう。途中で進路変更を考えたときは、大卒か専門卒かでは、今の日本で選択肢は大きく変わってきます。
 専修学校としても、「受験資格が得られる」とは言い切れないので、ここに手を出すのは労多くして功少し、ではないでしょうか。

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