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私の脳内で「草彅剛に最後不気味に高笑いしてほしい」と三谷幸喜が言った。「burst!〜危険なふたり〜」鑑賞記録



その一言一句を聞き流すまいと耳を澄まし、
息をするのも忘れるほど集中してしまって、
淀みなく紡がれていく膨大な台詞の合間に、
彼らがひとつ呼吸をするのと同時に、
慌てて忘れていた息をした。


「burst!〜危険なふたり〜」


10月23日、日本青年館ホールで香取慎吾、草彅剛主演の舞台を観劇してまいりました。

二人芝居であり、ダブルキャストでもあるという奇抜な演出は、これまでいちども体験したことのないもので衝撃的だった。
前半後半で、予告なく二人の役が逆転する。
一瞬戸惑いはするものの、あっという間にそれぞれの「根上」と「青木」になる。その感覚が新鮮で面白かった。
舞台転換もほとんどなく、派手な仕掛けもなく、とにかくずっとシンプルな板の上にいる二人の掛け合いだけで話が進んでいくのに、全然集中力が切れることもなく、気が逸れることもなく、めちゃめちゃ入り込んで観てしまった。

あらすじ

ある日、青木誠二のもとに警視庁からかかってきた一本の電話。爆発物処理を行う警視庁警備部第三機動隊の根上大五郎によると、青木の家に爆弾が仕掛けられているという。突然のことに驚く青木に向かって、自分の指示に沿って爆弾を解体するように言う根上。「素人の自分がリモートで爆弾解体なんて」と拒否する青木だが、根上の説得を受けて挑戦することに。二人は協力して爆弾処理に取り掛かるが――。



前半の「青木(慎吾)」は突然の連絡、突き付けられた信じ難い現実に戸惑って、焦って、逃げ出しそうになりながらもなんとか受け入れようとする逞しさと、やっぱり逃げたくなってしまう人間味のあるユーモラスな姿で描かれていたのに対して、


後半の「青木(剛)」は急激に焦ったり唐突な行動をしたり、どこか粗雑で乱暴な印象があって、段々イニシアチブをとりながら立場を逆転させていって最終的に恐怖や焦りや昂揚感に取り憑かれたようになる姿が印象的だった。



また、前半の「根上(剛)」は神経質でマニアックな気質。爆弾、爆弾魔に対しての妙な興奮が異常に感じられて、ただ怖い。何度か失敗した経験を仄めかしたり、焦る青木に対してとにかく無意味とも思える指示を迫ったりして、自己中心的な姿で描かれていたのに対して、


後半の「根上(慎吾)」は、前半の爆弾に対するマニアックで興奮した状態はキープしつつ、徐々に徐々に態度が落ち着いていって、最終的に青木の狂気に気づいた時にはもうなんの声も届かなくなってしまった喪失感、絶望感みたいなものに覆われた様子を感じた。



いやー、よくできてる。本当に凄い。
自分の中で、
草彅剛の芝居といえば苦しさと狂気、
香取慎吾の芝居といえば華やかさと孤独、
みたいなのがなんとなくあるので、この二人の芝居の強みが前半後半で役を入れ替えることで凄く生きていたように感じた。


草彅剛のああいうダークなお芝居が好きなんだよ私は…
とりあえず正直私の脳内には、
「僕は草彅剛に最後不気味に高笑いしてほしいんですよ」
という三谷幸喜さんの嬉しそうな声が勝手に聞こえてきたね。
わかる、わかるよ。草彅剛といえば静かな狂気だよね。
凪のように穏やかで、いつもにこやかで、でも途端に笑顔で内臓引っ張り出せそうな狂気。
あと一歩踏み出したら奈落、のようなところに掛かった一本橋を口笛吹いて踊りながら渡っていそうな感じ。
「基本的に自分の中にないと出来なくて。どの役も。わかりやすく言うとミッドナイトスワンとか、かけ離れてるから、『よく出来ましたね』なんてよく言われるんだけど、全然僕だし、どの面を出すかみたいな。(YouTube「たこパしながら慎吾との舞台について語ってみた!」より)」
と自身でも語っていたけど、草彅剛の計り知れない魅力はそこにあるんだと思う。
すぐそこにいてくれる身近さはあるのに、こんな引き出しもあったの?え、そんなとこにそんな引き出しあるの?という、底が見えない人間性がある気がする。

反対に香取慎吾は、「やっぱり華がありますよね。何もしなくてもその空間を埋められるっつうか、存在感っていうか。ステージに立つべくして生まれてきた(YouTube「たこパしながら慎吾との舞台について語ってみた!」より)」と草彅剛が明言する通りの人で、
どっしり構えた、あらゆる突発的な出来事にもなんなく対応できそうな安心感と、スターがいる、と思わせる存在感。
綱を渡っていく相棒が足を滑らせる寸前まで見守って、いよいよ危なくなった時にはなんなく手を差し伸ばせそうな余裕。
私は香取慎吾はミッキーみたいなものだと思っている節があるので、100%や100点を几帳面かつ丁寧に間違いなく出してくるけど、その裏には綿密な計画や戦略があって、でもその努力や思考を簡単には見せてくれないプロ意識があるんだろうなと思っていて、その姿こそが彼の魅力なんだろうなとも思っている。

この真逆とも思える2人が同じ舞台で同じ役を演じる面白さよ。凄い。凄すぎる。


三谷幸喜ワールド全開の作品なので勿論クスッと笑える場面も散りばめられつつ、ちょうど良い塩梅のアドリブがあったり、二人の信頼度がこれでもかと伝わるような早いテンポでの掛け合いはお見事としか言えない。
ほとんど顔を合わせることがないのに、なぜあんなに息が合うのか…凄すぎる。
そもそもあの膨大な量の台詞(台本はなんと100ページほどあるらしい)を覚えるだけでも物凄いことなのに、それをあのスピードで掛け合うって尋常じゃない。
でもあのテンポでなければ面白くないだろうなって場面もあるし、あれを要求する三谷幸喜さん鬼。それでなんなくこなしているように見せてしまう2人も鬼。



物語としての終焉は、わりとダークで、白でも黒でもない感じ。
芝居でもドラマでも映画でも小説でも、
大抵ある程度気持ちのいい区切りで終わると思うんだけど、この作品は「あ、え、終わりなんだ…」っていう終わり方をする。
私は結構歯切れの悪い、言ってみれば消化しきれない終わり方みたいなものがわりと好きで、
なんというか、たとえ創作物だとしても、そこに生きている人たちの人生にはまだ続きがあって、決してそこで終わるわけではなくて、物語には必ずその先やその過去があると思っているので、それを想像させる余地のある作り方が好みだ。
だから、つい「おお…」と感嘆の声が出そうになる幕の引き方でめちゃくちゃ良かった…



小さい頃からずっと、何十年も隣にいたふたりだからこそできる、特別な舞台。
草彅剛と香取慎吾のエネルギーと熱量を存分に受け取る1時間40分。
はー、最高だった!

26日の千秋楽まで、ふたりが無事に完走できますように。



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