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🇫🇮 等身大のフィンランド vol.9

東京・渋谷の大型文化複合施設Bunkamuraでは、今月30日まで「ザ・フィンランドデザイン展」を開催中です。ヘルシンキ市美術館(HAM)が監修し、コレクション・カッコネン、タンペレ市立歴史博物館、フィンランド・デザイン・ミュージアム、ヘルシンキ市立博物館などが所有する貴重なコレクションが期間限定で大集結。50人以上のデザイナー、アーティストの作品を間近に鑑賞できる貴重な機会に心を弾ませながら足を運びました。

フィンランドデザインって
何だろう?

フィンランドデザインと言われても、以前はいまいちピンときていなかったのですが、たくさんではないけれど、気に入ったものを実際に暮らしに取り入れて使い続けるうちに、佇まいの美しさや気持ちを明るく照らしてくれる配色に惹かれるようになりました。

はじめてフィンランドを訪れた年に、旅の記念にmarimekkoで購入した "RAITTI"という名前のテキスタイルは一番のお気に入りです。

アイノ-マイヤ・メッツォラさんがデザインした作品で、2012年に発売されました。黄色をベースに置きながら、原色をいくつもかけあわせているのにすっきりとしています。気がつけば、わたしの部屋のインテリアも同じような色味のアイテムで構成されていますが、全体のなかでそれぞれうまく調和がとれています。(きっと、そう)

暮らしを助け、
暮らしに溶け込む

照明を落としたときに、昼間の姿とは異なるフィルターが美を映し出すもの、例えば、アルヴァ・アアルト がデザインしたテーブルや花瓶などは機能性はもちろん、夜のシーンでは佇まいが一層映えるように思います。

一昨年、一念発起して念願だったアアルトテーブル(90B)を迎えました。天板をホワイトラミネートにするか、長方形の81Bにするか散々迷って、バーチ材の色味を活かしたナチュラルラッカーの円形テーブルを選択。結果、暇さえあれば木目を眺め、曲線を撫でる日々です。

暗くなってキャンドルを灯すときには、天板がキャンバスになって影を描きだすこともありますし、曲線が織りなす印影に、日本の侘び寂びを感じるときもあります。

ちなみに、今シーズン一番のお気に入りはアルテック社のキャンドルホルダー「ルチア」です。その名のとおり、少女が聖ルチアに扮してロウソクの冠を被って街を歩く「ルチア祭」をイメージして作られたもので、頭の上にロウソクを3本飾ることができます。
私は時間帯によって灯りをともす数を増減したり、わざと長さの異なるロウソクをセットして、灯りの広がりの変化を楽しんだりしています。

思い出とともに 生き続ける

実際に「ザ・フィンランド デザイン展」でも、アルヴァ・アアルト やカイ・フランク、トーヴェ・ヤンソン、タピオ・ヴィルッカラといったビッグネームはもちろんのこと、初めて目にするフィンランドの作家、デザイナーの作品はどれも本当に素敵でした。

アアルトの最も有名な「41 アームチェアパイミオ」は、フィンランドのモダニズム、機能主義を象徴する作品と呼ばれています。機能性を追求し、余計なものが極限までそぎ落とされたフォルムは、見ればみるほどに美しかったです。(その後、会場内のアルテックガチャで運よく引き当てることができたものラッキーでした)

それから、タピオ・ヴィルッカラがデザインした花瓶「カンタレッリ(杏茸)」は写真よりも実物のほうが俄然迫力がありました。一体どうやって独特の曲線をガラスで表現したのだろうと不思議でしたが、会場で購入した図録にその答えがありました。まずは木製の型にクリスタルを吹き込み、そのあとで、湿らせた新聞紙の塊に溶解した塊をあてて非対称の淵を制作したのだそうです。匙加減が職人技、この花瓶を作る技術をもっていたのが、イッタラのガラス職人とアシスタントのひとチームに限られていたというのも納得です。タピオ・ヴィルッカラには他にも、地衣類や竹、イソシギなど、自然をテーマにした作品が多く、身近なところから着想を得ていたのだなと改めて実感しました。

もう一つ、印象的だったのが「リュイユ・ラグ」です。中でも、テキスタイルアーティスト、ウフラ=ベアタ・シンベリ=アールストロムが「孤独」を表現した作品に目を奪われました。黄色から、ベージュ、赤紫、えんじ色、灰色と放射線状に映りゆく色合いに、彼女が孤独とどのように向き合っているのかを想像する時間も楽しかったです。

調和を奏でるヒンメリ

この展示の最後には、わたしが昨年インタビューさせていただいた、フィンランド在住のヒンメリスト、エイヤ・コスキさんのヒンメリも飾られています。

パートナーのカリさんが育てたライ麦の藁から、一つ一つ手作業で幾何学模様を組み、それらを繋ぎあわせて一つの世界を表現するエイヤさんのヒンメリ。黄色い壁に投影された影が、実際のヒンメリと異なる見え方をしながら、もう一つの作品として会場に溶け込んでいるのが不思議でした。


愛の形は千差万別


フィンランドデザインには愛があると感じます。

それは互いに求めあうだけの愛、どちらか一方が主役になる愛ではなく、等身大のすがたで精いっぱい互いに生かし合う愛のかたちです。

相手が自分らしく、生き生きと毎日を過ごせるようにと願いを込めながら差し出す愛もあれば、自然の美しさを芸術に昇華させ、静かに見守るだけの愛もあります。質朴な愛もあるでしょう。

私たちはそうした愛を受け取る一方で、飾り方を工夫したり、何度も手に取って撫でたり眺めたりしながら、大切に愛を受け継いで育てている。そんな風に考えると、苦労して手に入れたフィンランドデザインがより一層愛おしく思えます。


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