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山椒のばあちゃん

山椒のばあちゃん


もみもみ、もみもみ。
何だい、あんた。失礼な子だね。
あたしのこと、いきなりさわってきてさ。

何だいあんた、あたしのかぐわしい香りに、気がついたのかい?
あたしの葉を勝手に引きちぎって香りを楽しもうとする無礼なやつもいるけど、あんた、意外と礼儀正しいじゃないか、気に入ったよ。

あたしの香り、気に入ったのかい?そりゃあけっこう、けっこう。
あたしもまだ捨てたもんじゃないね。

そりゃああたしはさ、バラのように他の虫や蝶やあんたら人間らを引きつけるような派手な花は咲かせないよ。
そのくせバラみたいにトゲがあるしさ、あたしは天敵から身を守るためにあの手この手を使って、この場所でたくましく生きてきたんだ。

でもさ、あたしにだって、バラのように気品も気高さもプライドもあるし、あたしの独特の香りは、バラ以上にインパクトがあるって、あたしは自負しているよ。
あんたら人間はさ、派手な花が好きなやつばっかりで、あたしに気がつくやつはごくわずかだよ。

まあ、バラと比べてもしょうがないんだけどさ。あたしだってバラは好きなんだよ。

あんたら人間は、あたしのことスーパーで売られている粉だとか、うなぎと一緒に食べるとうまいとかさ、それくらいしかあたしのこと知らないだろう?
あたしの仲間が意外とあんたらの生活圏で目立たずに生きていること、知らないだろう?

でもあんた、すごいよ。このあたしの唯一無二の香りに気がつくなんてさ。
そうさ、あたしは葉が小さめだし、緑色の普通の見た目だし、バラみたく香りを振りまいているわけじゃないし、サクラみたいに大きな木としてあんたらの生活圏にいるわけじゃない。

でも、あんたはあたしに気がついてくれたんだね。
そうさ、あたしの香りは他の誰ともちがう、特別なんだ。

おや、もう行っちゃうのかい?もう少しゆっくりしていけばいいのに。
あんたのこと、気に入ったよ。この近くに住んでいるのかい?よければまた遊びにおいで。あんたのために、すっきりした特別な香りをプレゼントするよ。ばあちゃん、あんたのこと覚えて待ってるよ。

あたしに気がついてくれて、ありがとう。

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