青空のファントム

青空にもたれかかる君の、黒く輝く眼差しが僕を捉える

でも本当は、君の前に居るのは僕じゃない
僕でなければ、貴方でもないけど、僕でも貴方でもあるもの

僕だと思いたい
僕であったらいいのに

ねえ、僕は君のことを何も知らない
こんなにたくさん君が溢れているのに、何も知らないんだよ

僕に見えるのはか細い糸
たった一本だけの、細い糸
あまりにもか細くて、今にも見失ってしまいそうな

信じることなんて出来なかった
この糸に気付いたあの秋の日には
僕がどうしようもないほど見つけたこの糸は
秋の風に焦がれた僕の炎が見せた幻だと思ってた

けどその糸は
糸は確かに、まだこの手のひらが握り締めている
大切に大切に、誰にも言わずに、ひとりぼっちで握り締めていた

ねえ、僕は、
この糸を、信じてもいいのかな
握り締めていても、いいのかな
幻の糸をずっと抱き締めていたあの頃みたいな寂しさは、もう沢山

君の背中に広がる空と
君が微笑む遠くの海は
泣き出したくなるくらい透明な青い色
消え入りそうな細い糸が、青に溶けて時々銀色に光る

幾重にも被った仮面の下から
僕はきっともう誰にも聞かせない歌を銀の糸に伝わせる
届かなくても届かなくても
この糸が空も海も時も距離も想いも超えて、その端の先が君の手のひらにあると信じて

歌声に震える銀の糸に、僕は祈る
僕に笑いかける君の幻が
僕だけの幻ではないように

僕が生涯をかけて集めた星の欠片は、全部君にあげる
星の欠片を詰め込んだガラスの瓶にこぼれる秋の陽射し
ラベルに書かれた名前は読めそうで読めない
ああ、君の名前だったら、君の名前だったら、いいのに


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